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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
最終章 魔女達の想い切り裂く魔剣

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60 伊藤竜馬

 闇夜にぬるい風が吹き、サリィの長い髪を揺らす。

 魔力の大きさにも色にも変化が無い。

 本当に感情が動いていないのか、何か小細工をしているのか判断がつかない。


「驚かないんだね」


 ふと、そう零したサリィの表情こそ変化が無い。

 それは、俺の態度を予想していた事に他ならない事を、これまでの投げやりな説明で何となく察していた。


「荒唐無稽な話で呆れていただけだ」

「そうかな? その割には口に出して言って欲しくなさそうだったけどな。察していたからこそ確定させたくなかった……って感じ?」


 自分の唇に指を当てて指摘してきたサリィの行動に、唇を噛み締めていた事に気が付いて手で口を拭う。


「これは痛みで──」

「アレクってさ、昔から頭が良くて手がかからない子だった」


 俺の声に被せる様に口にしたサリィは、どこか昔を懐かしむように柔らかな声で話し始めた。


「ずっと成長が早くて賢い子なんだろうなって思ってた。何しろ、あのミレーヌちゃんの子供の肉体を持っているわけだし。でも、違った。アレクはただ──()()()()()()()()だったんだ」


 俺の間合いの外をなぞるようにゆっくりと歩きながら、サリィは小さな光を浮かべた。


「死者を蘇らせたのはアレクが最初だったから、どういう人間かなんて知らなかった。一応は家族のていをとるために一番の部下を夫役にしてラーグラントに帰って来て……家族ごっこをしたね」

「……家族ごっこ。やはりあんたにとっての俺は……実験体以外の何物でも無かったんだな」

「……そうだね。少なくともその頃はそうだったから否定はしないよ」


 サリィは足を止めると俺の方に体を向け、後ろ手に組んで微笑む。

 その周りには小さな光が蛍のように漂っていて……それは子供の頃の俺の相手をする時によくサリィがやっていた遊びだった。


「死んでもどうせ復活させられるしさ。でも、雑に扱ったつもりは無いよ。貴重で大切な存在である事は間違いが無かったし、この実験が成功すれば沢山の命を救う事につながるって信じて疑ってなかったし」


 フヨフヨと浮いていた光が不規則に漂いながらこちらにやってくる。

 俺はそれが当たるまで視線で追う。

 俺の顔に当たった光は小さく発光し、細かい残光を残して消えていく。

 まるで、小さな打ち上げ花火のように。


「計画が狂ったのはアレクが10歳の時だった。既に隠居していた私の元に査察が来ることになったってグローリィから聞いた。ピンと来たね。あの時の王都の疫病騒動の件で私は疑われてるって。そして、その査察官は間違いなくミレーヌちゃんだって」


 夜空を見上げたサリィの表情は見えない。

 魔力に変化も無いから何を考えているのかもわからない。


「勿論、私はあの件には全く関係が無かったからいくらでも聴取は受けても良かったんだけど、問題があった」


 そこでサリィはこちらに瞳を向ける。

 ……魔力に変化は無いはずなのに、とても悲し気な表情をしていた。


「貴方を見せる訳にはいかなかったのよ。ミレーヌちゃんには絶対に」


 別に自分の息子だと紹介すればいいだけの話だ。

 ミレーヌさんは魔力を見る事は出来ないから、魔力の質で身元を特定する事は出来ない。

 それでも、見せたくなかったという事は……。


「あの頃から貴方……ミレーヌちゃんの愛した人にとてもよく似てしまっていたから」


 『良かった……! 生きてる! 助かったんだ!!』

 初めてミレーヌさんを見たのは、死にかけの状態から目が覚めた時だった。ぼやけた視界でも泣いているとわかるほど涙を瞳から溢れさせていたミレーヌさんに抱きしめられたのを覚えている。

 だが、そうなると……。


「……そんな理由で……ラーグラントを魔獣に襲わせたのか……」

「そんな理由? これ以上の理由ってある? 我が子を奪われるかもしれないのに、何もせずに黙ってそれを見ていろって言うの? 相手はあのミレーヌちゃんなんだよ? 半端な事じゃ目を逸らせない。それこそ、町を壊滅させるようなことが起きない限り」

「そもそも、俺はあんたの子供じゃなかったんだろう!!」


 ついに大声を上げてしまい、右手で剣を持ち直し、構える。


「子供だよ。たっぷり私の魔力を注いだ魂だもの。実質私の子供で間違いない。ただ、器がちょっと違っただけ」

「器だと? 人間の本質は肉体だ。肉体がミレーヌさんの子供なら、俺の本当の母親はミレーヌさんだ」

「違う。人間の本質は魔力だよ。器はしょせん器に過ぎない。アレクは朝に飲むスープの本質はお皿だって言うの? コップに注いだ牛乳の本質は瓶だって思ってる?」

「詭弁だな」

「なら聞くけど。貴方が私と同じように魔力を目視できるのは何故? 詠唱魔術よりも無詠唱魔術が得意なのは何故? ミレーヌちゃんと同じ術を使っているのに、威力が天と地ほど違うのは何故?」

「そ、それは……」

「貴方が黒の衝撃を使った時、正直終わったって思った。相手がミレーヌちゃんだったなら、確実に耐えられなかったからね。でも、私はこうして今も生きている。それは、貴方がミレーヌちゃんの力を引き継がずに私の能力を引き継いだからだって何よりの証拠なんだよ」


 それは俺も、ミレーヌさんも認識している事だ。

 しかし、そもそも個人魔法の模倣自体前例がないのだ。それを成した時点で特別だと言いたかったし、ミレーヌさんもそう感じていた筈だ。

 それでも、何故か口に出来ない。


「アレクがミレーヌちゃんの能力を体現できない事は育っていくにつれてわかっていた。それでも、次の実験体に手を付けずにずっと家族ごっこを続けていたのは、それがごっこじゃなくなっていたからなんだよ」


 何故か。それは、サリィの表情があまりにも優しさと悲しみに溢れていたからだ。


「アレクは私のかわいい息子。絶対に誰にも渡さない」


 ぬるかった空気の質が変わる。

 張り詰めていた糸が切れたように鋭いそれは、あたかも今さっき発現したかのように表れたが、きっとそうではないのだろう。


「……やられたな。長ったらしいご高説は、こいつを発動させるための詠唱だったのか」

「そうだね。でも、内容は本心だよ。貴方は私の息子だし、誰にも絶対に渡さない」


 サリィの魔力の色が見えなかったのではなかったのだ。

 あまりにも広範囲に展開しすぎていて、薄まって認識できなかっただけだったのだ。


「ミレーヌちゃんにも、ミーシャちゃんにも、アリスにも、イリスにも。全員の想いも記憶も全て消して、新たにアレクと共に生きる事にしましょう」


 来る。 

 腰を落として──


「まて……()()()だと?」


 思わず顔を上げる。

 かまわず術が発動されると思ったが、虚をつかれたのはサリィも同じだったらしい。

 俺の表情に珍しく驚いたように目を見開くと、やがて拍子抜けしたかのように小さく笑った。


「……え? そっちには気が付いていなかったの? 貴方が奪われた後に新たに作り上げた命は2つ。あの悲劇の中で回収した2つの遺体は姉妹だった。既に会った筈だからてっきり知っているかと思ってたけど……。そっか、あの子はそんな大切な記憶も消えてしまっていたんだね」

「まて。本当に何の事だか……」


 姉妹? アリスとイリスが? そう言えば、イリスとの会話で家族が軍属とも取れる発言があったがまさか……。


「アリスにあらかた聞いていたんじゃないの? それとも、あの子には()()の記憶が強すぎて、イリスの事を妹だと見れなかったのかもしれないわね。ひょっとしてアレクもそうなのかな?」


 前世。アリスとイリス。アリスの認識とイリスの認識が大きく違うという事実。そして俺は──


「アレク。小さな頃から成熟していて、とても賢い子だったけれど、一度だけ口にした単語があったわね。今でもとってもよく覚えているよ。言葉も拙い小さな子が自分を指さしてこう言った」


 殺意が収束する。これまで決して感じなかった大きな魔力は、そのまま今のサリィの決断とも思えた。


「【イトウタツマ】。ずっと不思議に思っていたけれど、アリスから聞いて腑に落ちた。それがアレクの……前世の名前だったんだね」

  

 震えた様な声がこちらに向かって吐き出される。

 悲しみと殺意の雨が一斉に頭上から降り注いだ中で。

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