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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第一章 元王都魔術師隊士の帰郷
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05 退職後の手続きって何かが抜けるよね

 生まれ育った場所なのに初めて来た町の様な気持ち。脳がバグるがいつまでもここに居る訳にもいかないので門に向かう。

 大きな門は主に馬車が通る為の用途であるようだが、顔パスレベルの通行者と新規や要確認の通行者は分けているらしく、停留所には多くの馬車が待機していた。

 小さな門は2門あり、こちらも顔パスレベルと新規の人間で分けているようだ。俺はこの町の生まれだが新規の門を通るべきだろう。そちらの列の後ろに並ぶ。


 新規で確認が必要とは言え、そこまで調べる必要な人間はいないらしく滞りなく進んでいく。

 門番の兵士も受付の役人も慣れているらしく実にスムーズで直ぐに俺の順番になっていた。

 俺は胸元から身分証を取り出して役人に渡す。

 直ぐに役人が手元の書類と照合を始めるが、門番がガン見してきて居心地が悪い。


「おい」

「…………」

「おい。お前だよ。そこの魔術師」

「あ、はい」


 クソ。折角何事もなく通り過ぎたかったのに。

 今までの人達は殆ど滞りなく進んでいたのに、どうして俺の時はこんなに時間がかかってるんだ。役人が俺の身分証と書類を何度も見返してたから嫌な予感はしてたけど。

 仕方ないので顔をあげて兵士を見る。

 眼光の鋭い大男がこちらに顔を寄せていた。


「いや、近いな!」

「お前……。まさかアレクセイか?」


 言い当てられて驚くが、もしかしたらこの近さ。俺の後ろの人間の可能性もある。

 直ぐに振り向くがそこに居たのは疲れ果てて道端に座り込んだばあさんと、迷惑そうに俺を見る妙齢の女性だった。

 とても、アレクセイと言う名前の人間には見えない。

 という事は、この兵士は俺に対して言ったのか。

 再び振り返ると、兵士は頭を掻く仕草をしつつ呆れているようだった。


「まさかと思ったけど本物かよ……」

「いや、まだ名乗っていないが」

「お前がふざけてる間に身分証を確認したよ」


 言われて見下ろすと、机に座っていた役人と目が合った。

 どうにも怯えているように見えるが何故だ。


「おい! スキン! 何をやっている!」


 まごまごしていたからだろう。すぐ傍にあった小屋から年配の兵士がやってきた。

 態度からしてこの門番の上官だろうか? てか、“スキン”って。


「は。申し訳ありませんキブルさん! 通行希望者に知人がいたもので」

「知人だぁ?」


 後からやってきた兵士──キブルという人が近づいてきて俺を足の先から頭の先までを舐める様に見てくる。

 記憶を掘り返して思い出すが思い出せないから、この人は知人では無い筈だ。多分。


「ただの魔術師か? お前の知人なら問題ないんだろう? 後が詰まってるんだからさっさと通せ」

「あの……キブル兵士長……」


 直ぐに通せと指示を出したキブル氏だったが、役人からの声掛けに視線を下げる。

 机に座っていた女性の役人は俺の身分証を両手で持ってキブル氏に向けると小さな声で言ってくる。


「その方……王都魔術師団赤龍隊第3小隊の副長さんです……」

「…………なに…………?」


 ……あ。

 身分証の更新忘れてた。

 キブル氏は眉を寄せると俺の身分証に顔を近づけて確認し、直後に直立不動で声を張り上げた。


「王都魔術師団の方でしたか! これは大変失礼いたしました! おい、スキン! 何をボサッとしておるか! 今日はもう非番でいいから魔術師殿を案内しろ!」


 おい。でかい声で何言ってんだ。

 並んでいる人達だけじゃなくて、他の人間もこっちを見だしただろうが。

 これが漫画か何かだったら『ざわ……』とか擬音が振られてるんじゃないか?


 俺は役人から身分証を受け取ると、スキンに向き直る。

 スキンは呆れた様な顔をしていたが、上司の目の前だからだろう。すぐに真顔に切り替えた。


「では、この町の案内をいたしましょう。着いてきていただけますか? 魔術師様」


 うん。すぐに身分証は更新しよう。



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