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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
最終章 魔女達の想い切り裂く魔剣

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58 不死身の魔女

 本来、防御の魔術は攻撃魔術よりも発動が早い。


 理由としては向けられた魔術に対して属性を乗せた魔力をぶつければいいからだ。

 つまり、理屈としては簡易魔術と同じであり、通常の攻撃魔術よりも発動が早いのも当然。

 だが、それさえも上回る速度で発動される無詠唱に対して、通常の魔術師が何処まで対応できるのか。


「……くッ!」


 見切れる術は躱し、間に合う術には無詠唱魔術を当てて逸らす。

 打ち消す事は出来ない。

 打ち消すには威力が違いすぎるからだ。

 では、見切りが間に合わず、当てる事も出来なかった術はどうなるか?

 簡単な事だ。


 俺自身の体に当たる。


 断続的に襲い来る痛みに歯を食いしばり、全身に張り巡らせた治癒魔術を発動させ続ける。

 俺の術では傷を癒すことまでは出来ないが、痛みの軽減と止血の効果はある。それだけでも十分だった。


「お、おおおおおおっ!」


 足に力を込めて一気に距離を取り、術を展開──する前に相手の術が先に到達して俺の右腕に直撃する。

 右腕だけではない。両足、腹にも飛び込み、膝が落ち、血反吐が口から飛び出す。


 が、そのまま距離を開けると、簡易魔術を母さんに向かって展開。四方から放つがあっさり相殺された。

 剣は抜かない。

 今の状態では流石に切り札は切れない。


「流石ね」


 こちらが膝をついたからだろう。

 追撃もかけずに母さんがパチパチと手を叩いた。


「……どこが。手も足も出ない相手に対して言うことじゃない」

「今あなたは常時治癒魔術を使用しているのでしょう? そうでないと今意識を保っている説明がつかないからね。それは素晴らしい技術よ。やはり、私の目は正しかった」


 満足そうに頷く母さん。

 前回会った時の感じから恐らくこちらに対して決定的な攻撃はしてこないだろうと言う予想はしていて、実際に致命的な攻撃はしてこないが、ここまで差があるとは思っていなかった。

 そんな俺に対して──。


「貴方には魔術の才能がある。それも、とびっきり優秀な」


 あまりにも現実的では無いその言葉に、俺は思わず笑ってしまう。


「おかしな話だ。ミレーヌさんは俺には魔術の才能が無いと常々口にしていたけどな」

「ミレーヌちゃんらしいわね」


 立ち上がった俺に対して、母さんは再度魔力の塊を展開する。


「自分の力を基準にし過ぎて、他人の能力を正確に測れない。どれだけ自分の力が人の領域から外れているのかを理解していない悲しい化け物。そんなだから……周りに敵しかいなくなるのよ」


 ……何を言っている?


「……ミレーヌさんに敵? 何の事だ?」

「うーん。まあ、アレクにも関係ある話だし話してあげてもいいけど……」


 展開していた魔力が回る。俺の周りをグルグルと。


「まずはその敵意が消えてからにしましょうか」

「……くッ!」


 即時発動した魔術を躱し、覚悟を決める。

 無詠唱での打ち合いでは話にならない。

 詠唱魔術は論外。

 剣は確実に仕留められる状況でなければ使用すべきじゃない。

 なら。


「●─◦─〇─◎◎──●─◎●──」

「あら」


 魔術を躱し、躱し切れなかった術は敢えて食らう。少なくとも現時点では母さんはこちらが死ぬような術は使用しない。ならば、治癒魔術で意識を保って強引に行く!


「黒の衝撃!」


 漆黒の闇に黒の稲妻。

 目視出来ないそれは一直線に母さんの頭上に落下し、母さんの魔術障壁を貫通して直撃する。

 威力はオリジナルに劣る。

 だが、貫通力に関しては並みの術よりもはるかに上だ。

 いかに母さんとはいえ──


「驚いた。正直、お母さんの予想よりも上かも」


 ──母さんはその場に立っていた。

 無傷。いや、右腕のローブが綺麗に無くなってはいたが、剝き出しになった右手には傷一つない。


「でも、残念。私は外傷で殺す事は出来ないの」


 …………。


「治癒魔術……か。無詠唱の……」

「うん。アレクがさっきやったやつと同じね。最も、私の方が治癒能力は高いみたいだけど」


 黒の衝撃で母さんの魔術障壁と右腕は貫いた。それは間違いない。

 だが、傷を負うと同時に修復していたのか。


「物理も、魔術も通用しない……?」

「ごめんねぇ。でも、当てた事は本当に凄い事よ。しかも、ミレーヌちゃんと同じ術なんて」


 力が抜ける。

 これは、魔力がごっそり減った事だけが理由では無いだろう。


「……ヴァルメリアで……最も優秀な術者……か」

「懐かしいわねそれ。でも、お母さんはそう呼ばれるのは嫌だったな。ミレーヌちゃんっていう規格外がいたから」


 ヴァルメリア王国最強の魔術師【黒い破壊神】ミレーヌ・ラインクラフト。

 赤い龍と黒い龍。王国最盛期に君臨した最凶の魔女2人。


「もう抵抗する力はないみたいね」


 呆然としていた俺に母さんは柔らかな表情で歩み寄る。最も、近接戦が出来る程──俺の間合いにまでは入ってこない。恐らく、叔父さんの情報から俺の引き出しもある程度把握している。


「このままお互い死んだ事にして……一緒に逃げて欲しいんだけどな」

「……無理があるだろう。事件は既に解決している。その報告はもう領主様にも届いているはずだ」

「別に、打ち漏らしの魔獣に殺されたって事でいいでしょ。死体が必要なら私が準備してあげるよ」


 ……死体の準備……。


「……それが、母さんの個人魔法か」

「ふふ。そう。魔法生物の生成と、魂の入れ替え。貴方が倒したグリフォンがそれね」


 ……はは。そういう事か。

 ずっと不思議に思っていた事があったが、そういう事ならば全ての辻褄があう。

 ……いや、わかっていた。本当はグリフォンの死体の中からあの結晶を見つけた時から。


「……その魔術を使って……ミーシャの体を乗っ取ったんだな?」


 立ち上がる。

 母さんの目線が下の位置に変わるが、特に驚いた様子は見せなかった。


「その言い方だとお母さんが一方的に悪いみたいで嫌だな。元々はミーシャちゃんが私を殺そうとしたのが始まりなのに」

「ミーシャが? 適当な事を……」

「嘘じゃないよ。手紙を見たでしょ? 薄々わかってると思うけど、私は病気になんてなってなかった。あれはミーシャちゃんの狂言なのよ」

「……なに?」


 病気が嘘だとは思っていたが、それは母さんが仕向けたと思っていた。

 何故ミーシャがそんな嘘を?


「ずーっと手紙を見ていたんだからわかるでしょ。ミーシャちゃんはずうっとアレクに帰ってきてほしかった。でも、あなたは帰って来ない。だから、私が病気だって事にして、何とか帰って来てほしかったみたい。でも、それでも貴方は帰って来なかった」

「それは……しかし、あの手紙の頃は俺の手元に届いていなかったから」

「そうだったね。でも、そんな事はミーシャちゃんも私も知らないもの。そうしてミーシャちゃんは考える。『病気でも帰って来ないなら、サリィさんが死ねば帰ってくる』って」

「……馬鹿な……」


 かつてのミーシャを思い出す。

 確かに極端な行動をする事はあったが、母さんに対してそんな感情を抱く姿が思い浮かばない。


「人は追いつめられると考えもつかない行動をするものよ」

「仮にそうだとして……だ。母さんが素直に殺されるはずが無いだろう」


 現に、こうして俺がどうにも出来ない状態なのだ。


「そうね。でも、私にとっても都合が良かったのよ。ミレーヌちゃんに色々とバレた後だったし」

「バレた?」

「手紙見たでしょう? あれはミレーヌちゃんなりの脅迫ね。私としても死んだ事になった方が都合が良かったの。まともにやりあったって絶対に勝てないもの」


 母さんでも勝てない相手。確かに、それ位ミレーヌさんは圧倒的だった。しかし、あの頃のミレーヌさんにそんな様子はあっただろうか? 

 いや、おかしい。時期的にその頃ミレーヌさんは──


「待て。おかしい。ミレーヌさんは北方戦線で戦死している。その話は2年前だろう?」

「あら? アレクの認識はそういう感じ?」


 ……どういう事だ?

 ミレーヌさんが死んだのは間違いない。公的にもそう言う報告を受けているし、そう発表もされている。


「まあ、それはいいでしょう。ともかく、私が死ぬ事でアレクを呼び戻そうとしたミーシャちゃんは、スキン君に協力を頼んで私を殺した」

「……殺した……」

「そう。後ろからブスッと。でも、私には治癒魔術があるからね。外傷では死なない。その状態でミーシャちゃんの魂と私の魂を交換して、おしまい」


 ああ……そういう流れだったのか。


「中身が入れ替わった事で治癒魔術が解けたんだな?」

「そういう事ね。魔術が使えないミーシャちゃんは、私の体の中で死んじゃった。可哀そうなのはスキン君ね。自分でミーシャちゃんを殺したのに、知らないままで私の手伝いをしたんだから」

「……そうか。わかった」


 剣の柄に手を掛けて、母さんを──サリィを睨む。


「よくわかったよ。あんたは──生きていてはいけない人間だ」


 俺の言葉に……サリィは再会してはじめて悲し気な表情を浮かべた。



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