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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
最終章 魔女達の想い切り裂く魔剣

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56 同じ選択、真逆の決断

 手の中にあった黒い結晶を指で上に弾いた後に再び握る。

 対面したスキンは視線で結晶を追ったのみで無言のままだった。


「こうしてまた顔を合わせたのに思い出話も無しか。それとも、あの日に話した事が全てか?」


 こうしてここに現れた以上そんな訳はない。

 その証拠にスキンは返答も無く剣を抜いた。

 こちらに向かった敵意もそのままだ。


「……寂しいな。友人だと思っていたのは俺だけだったのか? それとも……ミーシャの為……か?」

「口を慎め悪党」


 ミーシャの名が出たからか、ようやく口を開いて……いや、これは違う。

 これまで薄っすらと体表を覆っていたスキンの魔力が右手と背中に流れていく。

 ……なるほどな。それがお前の選んだ道か。


「俺が悪党か。こっちは正式な依頼を受けてここに居るんだがな」

「我が悪党にかける言葉などない。騎士の務めとして我が行う事はただ一つ」


 スキンの魔力が剣を伝って切っ先に。更にその先に伸びて剣の形をした靄となる。

 背後には三つの魔力の影。

 魔力を見る事が出来る俺だからこそ見えるだけで、普通の人間には見る事が出来ないだろう。

 対峙したのが剣士なら……躱したはずの刃に斬られる……か。初見殺しだな。

 魔力の型は完成し、後はトリガーワードを唱えるだけで発動する状態だ。

 こいつは()()()()から俺の事を聞いていないのだろうか?

 ……まあ、聞いていないのだろう。

 実に哀れだが……こちらに敵意を向けた以上同情はしない。


「●─〇─〇─◎◎──〇─◎〇──」

「我が刃は正義の刃。光の刃となって悪を断つ!!」


 発動したか。

 陽炎のようだった魔力の刃が鋭さを増し、此方に踏み込んだスキンが切っ先を向けてくる。

 俺は魔力の刃の先を見定め身を翻すと、剣を抜きながら先に背後からこちらに向かって伸びてきた刃を斬り払い、そのまま左手に剣を持ち変えつつスキンの手首に刃を落とした。


「……!? ……がっ!? ああああああああああああああ!!」


 剣を握ったままのスキンの両手が手首から落ちて、血しぶきを上げてスキンがのけ反る。

 その後頭部を柄で打ち付けると、スキンは前のめりに倒れ込んだようで激しい鎧の金属音が暗闇に響いた。

 さて、これでこいつは動けない。このまま本命の元に向かう。


「に、逃がすか……!」


 筈だったのだが、あの状態で立ち上がったのだろう。

 こちらに僅かな敵意が向けられた。

 僅かなのは魔力の総量が一気に減ったからだろうが、生きている限りは魔力はゼロにはならない。


「逃げる? 無力な敗者に何故そんな事をする必要がある? その出血だ。どうせ町までは持たない。お前はそのままその場で死ね」

「な、舐めるなよ……」


 恐らく魔術を唱えようとしたのだろう。

 一瞬の魔力の揺らぎが見えたが、そのまま力なく散っていく。


「な、何故……」

「言っただろう。無力な敗者だと。悪いがお前に構っている暇はないからもう行くぞ」


 あの傷ならついてこられたとしても脅威にはならないし、帰ろうとしても出血多量で途中で死ぬ。

 終わりだ。

 なのに、スキンは立ち上がると俺に向かって足を進めた。


「苦しまずに殺して欲しいのか?」

「何故だ」


 何故?


「お前はもう死ぬことは決まっているのに向かってくるからだ」

「違う! それだけの力を持ちながら、何故町を……ミーシャを捨てて逃げた!!」


 ……やはり当時の事を恨んでいたのか。


「今の基準で言われても困るな。そもそも、当時の事を言っているならお互い様じゃないのか? あの頃のお前と俺の魔術の能力にそこまで大きな開きは無かった」


 元々魔術師の資質を持っていた男だったのだ。

 だからこそ、騎士になっている事に驚いたし……魔術と言う隠し玉を持っている事も予想できた。

 当時は出来なかった魔力の隠ぺいを行っていた時点で、当時よりも魔術の腕が向上していたのは明白だ。


「……そんな事は言われなくてもわかっている。だが、ミーシャが求めていたのはお前だ! 知らなかったとは言わさんぞ!」

「知らん」


 俺は刃に付いた血をふき取ると、剣を鞘に戻す。


「そもそも、説明した筈だ。この町を出たのは俺の意志じゃない」

「戻って事なかった事もか?」

「……それは……俺の意志だな」


 状況的に途中で戻れなかっただけだが、長期休みを利用すれば戻れたのは事実だ。


「俺はあの子を守っていた」

「そうなんだろうな」

「だが……あの子は……ミーシャがずっと待っていたのはお前だったんだ」

「……そうか」


 頻繁に手紙が来ていたし、帰ってきてくれと訴えて来ていたのは知っていた。

 ならば。


「……確かに。俺は悪党かもな」

「今更認めた所で……!」


 血を流しながらスキンがこちらにやってくる。

 武器も、魔術も使えないのに。


「だから……あいつの悪事の片棒を担いだのか」


 俺の言葉に初めてスキンの顔が曇った。


「知らないとは言わさんぞ。結果がどうなるか想像もできなかったとも言わさん。何故なら……かつてこの目で結果は見ているからだ」


 沢山の人が死んだ。

 その中身は俺の父親や、スキンの両親。そして、ミーシャの両親もいた。


「あの女はあの悲劇を再び起こそうとしている。世間的に見ればどちらが悪党だと思っている?」


 スキンの魔力が揺らぐ。

 いつの間にかこちらに対しての敵意も消えていた。

 本来敵意は消える物じゃない。一度抱いてしまった負の感情は、小さくなる事はあっても完全に消える事は無いのだ。


「お前……本当は分かっているんじゃないのか?」


 完全に消えるという事は、その下地があるからだ。


「わかっていて認める事が出来ない。理由は……これまで拒絶されていたミーシャに頼られたから……か?」

「!!」


 スキンは顔を上げ、俺に対して鋭い視線を向けて……直ぐに逸らした。

 その間、敵意が向けられることは無かった。それが答えだ。

 俺はスキンに向かって歩くと横を通り過ぎ、地面に転がっていた両手を拾う。

 回復魔術を施すが、俺の術では止血と現状保存程度しか出来ないが、それで十分だろう。

 マナポーションを飲み干し、ホルダーを外すと、スキンの腕をホルダーで纏め、スキンの肩にかける。

 ついでに、腕に触れると回復魔術を施した。


「……何故こんなことを……」

「さあ。何故だろうな。本来俺は敵意を向けてきた相手は全員殺してきたんだぜ」


 出血が治まった自身の腕を見た後に、スキンがこちらに目を向ける。

 その視線を受け止めた後に俺は暗闇に足を向ける。


「スキン。直感を信じろ。例えありえない現象だとしても、その直感は恐らく正しい」

「…………」


 返事はないが、俺の言いたい事は伝わった筈だ。


「町に戻ったら魔術師隊にいるイリスと言う魔術師を頼れ。運が良ければその腕も元に戻るだろう。まあ、同じように動く様になるかは知らんが、そうなったら魔術師でも目指せよ」


 足を止め、振り向くと、スキンは立ってこちらを見ていた。

 その瞳は……最初とは違う意味で決意に染まっているように見えた。


「人手不足みたいだからな。俺がいなくなってもお前がいればトントンだろう」

「死にに行くつもりか?」


 スキンの問いに俺はほんの少し気が抜ける。


「さあ。ただ、今から会いに行くやつは死神みたいな奴だからな。必ず戻るとは言えない。それは、お前が一番よくわかってるんじゃないか?」


 だからこそ違和感を覚えた。

 それでも協力してきたのは、受け入れがたい現実があったからだ。


「……大層な二つ名を持っていようが、この世には到達できない場所はある。“それだけの力”とお前は言ったが、俺にはそんな才能は無いからな。お前と同じように初見殺しが何処まで通用するかにかかってる。あとは……あっちの想いの強さ次第だな」


 あの女は再会時に俺をラーグラントから追い出そうとしていた。

 つまるところ、俺をこの襲撃に巻き込まないようにとった行動だと思っている。


「実力で敵わないならば情に訴えるしかない」

「……そうか」


 俯いたスキンに背を向ける。


「アレクセイ」

 

 一歩踏み出そうとした所で背後からの声。

 足は止めるが、今度は振り返らない。


「……頼む。……仇を……」


 ……そうだよな。

 あれだけ想っていた相手なんだ。気が付かないわけが無いよな。

 それでも、信じる訳にはいかなかった。


「……ああ。最善は尽くす」


 魔力は見えない。

 真っ暗な闇の中をわずかな匂いを感じ取って進む。

 今度は呼び止められなかった。

 しかし……。

 強い悲しみが背後から溢れているのだけは感じていた。



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