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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第三章 開拓村の異変

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53 破壊神の後継者

 一体どれほどの魔獣を倒しただろう。

 後方に下がりながら術を発動しているから魔獣の死体の数を正確に視認する事は出来ないが、それでも相当狩った筈だ。

 だがそれでも一向に攻勢が衰える兆しは見えず、既に発動させる術は無詠唱のみとなっていた。


「グッ」


 全身にまとわりつく倦怠感は魔力の総量が術の行使に耐えられなくなってきたあかしだ。

 無詠唱は即座に発動させることが出来るメリットはあるが、その分威力と魔術による魔力の消費量を犠牲にする。

 即座に発動出来る分連発してしまうが、消費量の多い術を連発してしまっているという事なのだ。


「……まだか」


 無意識に口にしてしまった単語が耳に入った事で初めて弱音を吐いた事に気が付いて舌打ちする。

 他人を頼るな。自分の事は自分で切り開け。そう誓ったのではなかったか。

 術を発動し、正面の魔獣の頭を吹き飛ばす──傍からその死体を乗り越えて、更には回り込むように下から上から……キリがない。

 

 後方に下がり、杖に魔力を通し、左右の魔獣を殴りつけ、魔術を放つ。

 視界がガクンと下がる。

 膝に力が抜けてしまったのがわかった。


「ぬがぁー!!」


 全力の無詠唱魔術を発動する。

 自身を中心としたそれは外に向かって威力を拡散し、一時的に一息入れる事に成功するが、それこそ数秒の休息にしかならないだろう。

 息を付き、顎を上げた事で空に目がいく。


 そこで見た。天空に駆ける黒い稲妻を。


「何だと?」


 話に聞いた事がある。

 実際に目にした事もある。

 だが、“アレ”はこの場所にあるはずのないものだった。


「! しまっ……!」


 右腕に激痛が走り、杖が放り出される。

 足がもつれ、腰が落ちるが何とか魔力で吹き飛ばす。

 俺に絡みついて来た魔獣は粉々になって吹き飛ぶが、雪崩のように他の魔獣が伸し掛かってきた。


 ……ここまでか。


 いや、これでよかったのだろう。

 本来ならばあの戦場で失うべきだった命だ。

 それが、ここまで伸びてしまった。

 こんな辺境まで逃げてきて、性懲りもなく同じ魔術師をやっている。

 お似合いの最後だ。

 

「ギャッ!!」


 全てを諦めた時。

 突然目の前の魔獣の頭を白い稲妻が貫き、魔獣が真っ白な炎を上げて燃え上がった。

 更に驚くべき事に、俺に向かっていた筈の白い稲妻は途中で軌道を変えると俺の横の魔獣の胸を貫く。魔獣は白い炎を上げて燃え上がる。

 しかも、その2体だけではない。

 気が付けば、無数の白い稲妻が魔獣に向かって落下している。

 次々に燃え上がる魔獣達。

 俺には向かってくる事さえない白い稲妻は、驚く事に一撃で死ななかった魔獣に対しては、次々に別の稲妻が突き刺さった。命を絶やす迄何度でも。


『敵は全て殺します』


 思い出されるのは戦闘前に会話したアレクセイの言葉。


「……まさか」


 純粋詠唱魔術は使用者によって発動される魔術の性質が変わる。発音によって違うのだろうと言われているがそれは現代魔術の常識だ。

 しかし……。


「これではまるで術者の願望が形になったようではないか」


 ありえない。

 そのような術は聞いた事がない。

 しかし、体感的には永遠のように感じた蹂躙劇は、実際には数秒程度の時間だったのだろう。

 気が付けば真っ白なナニカかが横たわった大地に、無数の魔獣の死体。

 動いているのは俺と……こちらに向かってくる黒龍隊の女だけになっていた。


「無事で何よりね」

「……そちらこそ……な」


 俺と違って汚れてはいるが負傷していない女に答える。

 こっちは右手を負傷していたが、この規模の戦場だと怪我のうちにも入らないのだろう。この女からしてみれば。

 

「……ま、死ぬかと思ったけど」


 右手を応急処置している時にぽつりと零す女。

 見上げると苦笑したように周りを見渡していた。


「同感だ。まさかここまでとはな」

「私も実際に見るのは初めてだったから、ちょっと引くわ」 


 それも同感。


「それで、こいつの実行者はあんなところで何をしているんだ?」


 実は周りを見た時から見つけてはいた。

 当のアレックスは黒いグリフォンの死体だろう。黒い塊の傍で座り込んでいるように見えた。


「魔力切れでしょ。立て続けに大魔術を放ったらいくら魔力量の多いアレクでもああなるわよ」


 胸元からマナポーションを取り出しながらそう言った女に、俺は少し前の事を思い出した。


「……それだ。白い惨劇の前に黒い稲妻が空を駆けるのを見た。あれはなんだ。まるで【黒い破壊神】の黒の衝撃ではないか」

「まるで、じゃなくてそのものでしょ」


 俺に手を差し伸べてきた女の手を借りて立ち上がる。

 相変わらずアレクセイはピクリとも動かない。


「私は同じ部隊にいたからあれは何度も見てるから間違いない。膨大な魔力を貫通力のみに特化、圧縮させた魔術の雷。濃密すぎて黒く見えるアレは、ミレーヌ様だけの個人魔法の筈だったけど……。まあ、唯一の弟子だし、継承する事が出来る何かがあったんでしょう」

「……継承……か」

「そう。ミレーヌ様的には息子だからって言った方が喜ぶだろうけど、アレクは嫌がるからね。さしずめ、破壊神の後継者ね」

「奴の個人魔法を含めて異論は無いな」

「本当にね。親子揃って……加減ってものを知らないのかしら」


 地獄と化した戦場を見渡して黒龍隊の女魔術師は苦笑する。


「さて」


 そして、女は手元のマナポーションを掌で軽く投げて掴むとアレクセイに視線を向けた。


「最大の功労者に差し入れでも持って行ってあげましょう」

「そうだな」

 

 正直俺も座り込みたい心境ではあったが、ピンピンしている目の前の女を見ているとそんな気分も無くなる。

 それがくだらないプライドだとわかっていてもだ。

 俺達は頷き合うと、アレクセイに向かって歩き出した。




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