52 二色の衝撃
「●─◦─〇─◎◎──●─◎●──」
右手は上空に、左手は鞘へ。
十数年ぶりに唱えた純粋な詠唱は、俺の声に呼応するように上空で黒い稲妻が弾ける。
「首を垂れろ下郎」
この術を使う時にミレーヌさんがよく口にしていたらしい台詞。
そして、その言葉通り対象は揃って首を垂れたらしい。
「黒の衝撃!」
トリガーワードを口にしたと同時に駆ける。
目指すはグリフォンの落下地点。
黒い雷はグリフォンに直撃し、魔力障壁をあっさり貫通した雷撃が地面まで突き抜ける。
グリフォンは声にならない悲鳴を上げると、そのまま力を失ったように地面に向かって落下しながら首を垂れた。
「……ははっ!!」
本当に簡単に突き抜けやがった。
ミレーヌさんの得意魔術である【黒の衝撃】はミレーヌさんの個人魔法だ。
本来ならばミレーヌさん本人しか使えないそれを、何故か俺が再現した事に関してミレーヌさんは特に言及せずに『よくやった!』と言って俺を抱きしめた。
その時には迷惑だと感じて突き放した俺だったが、今回それが役にたったのだから、何がどうなるかは分からないものだ。
だが、それでも特殊個体としてのプライドか、元々の地力が高かったのか。
グリフォンは地面に落下する前に意識を取り戻したのか体勢を立て直そうとしている。
距離は後少し。
このままいけば俺がたどり着くより前に体勢を立て直してしまうかもしれない。
もしも立て直した後に再度飛び立ってしまったら討伐は難しくなってしまうが──。
「──そうだよな。自己評価の高いお前の事だ。雑魚相手に背中を向けるとは思っていない」
体勢を立て直そうとしている黒い怪鳥は、それでもこちらに顔を向け赤黒い魔力を振りまいていた。
怒りと敵意。
俺が最も浴びてきて──最も憎むべきそれを。
加速し、右手で剣の柄を握る。
グリフォンは体勢を立て直すやいなや、黒い羽根の弾丸を飛ばし、鍵爪のついた足でこちらに襲い掛かってくる。
俺は魔力を纏い一直線に弾丸を掻い潜ると鍵爪を目の前にして一息入れる。
「──その程度か」
更に一歩踏み込み前進しつつ、鍵爪、翼、そして首へと右手を三度振る。
怪鳥の単調な攻撃は俺の体をかすりもせずに一方的に剣劇が奔る。その際、剣からの手ごたえは全く感じなかった。
魔力障壁が強力だった反動か、物理耐性は紙装甲だったようだ。
かつて魔獣だった黒い塊の脇を抜け、舞い上がった黒い羽根が視界を遮る中、それを突き抜け駆け抜ける。
視界に広がるのは大量の黒い魔力に包み見込まれそうになっている二つの魔力。
「〇─●─〇─◎◎──〇─◎〇──」
本日二度目の純粋詠唱魔術の使用は俺の魔力の大半を持っていく。
しかし、それは最初から想定していた事だし、何よりこれで全てが終わる。
「ライトニング──」
『よくやった!!』
トリガーワードを口にしようとした時、ふいにあの頃のミレーヌさんの声が脳裏に響いた。
『私の術にそっくりじゃないか。模倣だけじゃなく、自分だけの個人魔法でも同じような効果になるとはな。よし、褒美に私がこの術に名前を付けてやろうじゃないか。この術の名は──』
「──白の衝撃!!」
トリガーワードに反応し、無数の白い稲妻が対象に向かって無慈悲に降り注ぐ。
直撃を受けた黒い魔力は霧散、消滅し、辺りは白い光に包まれた。




