50 釣り出し
陽が昇ると俺達は合流し、戦場となるべき場所へと移動する。
襲撃があった場合は開拓村の損壊も仕方ないと割り切ってはいたが、そうでないなら余計な損害は出さない方がいいし、何よりあの場所は位置的にもあまり良くなかった。
「この辺りにしましょうか」
開拓村から領都を繋ぐ一直線上にある小高い丘。
流石に森を見下ろすとまではいかないが、それでもある程度見渡す事が出来る場所。
周りに障害物が少ないのもここを選んだ理由だった。
「ここでやるの? ちょっと森から遠くない?」
コリーナは疑問を投げかけるが、クランチさんは荷物を下し戦闘の準備を始めているのでどう思っているのは不明だ。
「相手の土俵で戦うリスクは少ない方がいい。それに、ここならば魔獣の進軍がそれてもラーグラントへの最短ルートは抑えられる」
「最悪、俺達が壁になるって事だな?」
杖の先端で地面を軽く叩き、そう言ったクランチさんに頷く。
「たった3人で盾になれるかはわかりませんがね。少なくとも道連れに出来る数は稼げるでしょう」
「言い方考えてよね。私は生きて帰るんだから」
「勿論、俺もそのつもりだ」
俺は森を見ると目を凝らす。
流石に開拓村に居た時よりは確認しずらいが問題ない。
ここはあの特殊個体の魔力量の多さが良い方向に出ていると考えよう。最も、わざわざそうしたのだろうが。
「では、戦闘の準備をしてください。今からあいつを釣り出します」
「そう言えばそんな事を言っていたわね。戦闘前にどうするのか聞いてもいい? それとも、それも秘密なの?」
じっとりとした視線を向けてくるコリーナに視線だけを向ける。
「別に秘密でも何でもない。昨日あいつが行動するにはトリガーがあると言っただろう?」
「言ってたわね」
コリーナが頷いたので先を続ける。
「一つは恐らく奴のテリトリーに侵入する事。最初にハイヤーさんが襲われた原因はこれだろう」
「そうでしょうね。それ以外は?」
「魔力だ」
俺の答えに、コリーナだけではなくクランチさんもこちらを向く。
「2度目の襲撃。あれはガルムさんとハイヤーさんが住民たちと避難する際だったそうだが、2人が冷静に事を運んでいたら恐らく襲撃はされなかっただろう」
「冷静では無かったと? 確かに帰って来た時は取り乱してはいたが、それは襲撃の後だろう。住民の避難も行えていたし、脱出までは冷静だったのではないか?」
「ハイヤーさんはそうだったでしょう。しかし、ハイヤーさんの怪我を見たガルムさんはどうでしょうね」
あの人とは帰ってすぐに会った一度しかないが、それでもどういう人間かはある程度把握した。
「恐らく、ハイヤーさんの負傷の原因となった魔獣に強い感情──怒りを覚えた筈だ。そして、それこそがあの魔獣が襲撃を行う為のトリガーだった」
「怒りが? そんなものがわかるの? 魔獣なんかに?」
コリーナの疑問は最もだ。魔力を見えない人間からすればそれは理解しがたいだろうから。
しかし、俺や──母さんに関係する存在はそれをとらえる事が出来る。
「わかる方法がある。例えば、その魔力を感じたら、対象者を襲え。そう言ったプログラムでも組んでいれば、センサーが反応した時点で登録された動きをする」
「ぷろぐらむ?」
「刷り込みみたいなものです。この魔力が見えたら襲え……と」
それを聞いたコリーナの目が細くなる。
「……そう仕組んだ人間がいるのね?」
「そうだ」
俺は手を伸ばし、当時の──ラーグラントに魔獣の群れがなだれ込んできた光景を思い出す。
「そういう魔力の質を持った魔術師がいる。厳密には怒りではないが、怒りに近い魔力の質だ。思考が単純な魔獣には細かい違いの認識は出来なかったのだろう。魔術の才能の無い俺には無理だが、強力な魔術師ならばラーグラントからの距離でもその魔力をここまで届かせることが出来たはずだ。さて──」
思い出したのは蹂躙される町の人達。
その中には顔見知りの人は勿論、親しかった人も沢山いた。
そして、俺の父親だという人も。
「──開戦だ。二人とも魔術の準備を」
強い怒りをこの手に宿し、一気に解き放った瞬間。
視界の先にある森の中から黒い塊が大空に向かって飛び上がった。




