04 長閑な故郷……?
王都から故郷であるラーグラントまではかなりの距離がある。
その為、帰郷する為には何度も馬車を乗り継ぎしなければならない。
当然、時間も掛かるし金も要る。一度王都に行ってしまえばそうそう帰る事は出来ないし、おいそれと故郷の帰る事も訪ねて来ることも出来ない。
今回退役するに置いて有利になった状況ではあるが、実際に行動してみると疲労感もすさまじい。
「以前の世界だったらこの程度の距離なら1日だったろうな」
歩かなくていいとは言え、馬車の速度は徒歩とそこまで大差がない。
体力に関しては自信はあるものの、流石に荷物があるので馬車を選んだが時間がかかるのは仕方がない所だった。
出発した当初はこれまでの疲れを取るのに丁度いいと思っていたが、3日目辺りから流石に別の疲れから霹靂してしまった。
すぐにでも到着してのんびりしたいものである。
「……危篤になったのが2年前なら、流石にもう死んでるだろうな……生きていたら嬉しいけど、流石にそれは望みすぎだよな」
回復魔術があるとはいえ、あれは主に怪我を治すものであって病気を治すものでは無い。一応、協会発祥の魔術に病に効果があると言われているものがあるが、実際に見た事は無いから眉唾だと思っている。
故郷の町は領都とは言え片田舎の子爵家の領都だ。ハッキリ言って殆ど発展していない田舎町だったのでその辺を期待するのは無駄だ。
そうなると、母の生存は絶望的だろう。
「……まあ、あれだよ。母さんの墓でも守りながらのんびり暮らすのもありだよな。これまで死ぬ思いで働いてきたんだからそのくらいは罰が当たらないだろう」
幸い、金は沢山ある。
使う時間も無かったし、王都魔術師隊の1つだっただけあって給金は高かった。そして、退職金も10年の功労とこれまでの貢献度が高かったらしく高額だった。
多分、もう一生働かなくても生きていける。
「貢献度ねぇ……。これまで殆どそんな事言われた事無かったのに、いきなり短期間でポンポン言われても混乱するわ」
そもそも、貢献度に関しては自隊の隊長が行うものであるため、基本“肉壁”扱いである赤龍隊の隊士の貢献度が高くなることは絶対に無い。にも拘らず貢献度が高い理由を問いただした所……定期的に俺の功績を上申していたのは白龍隊と黒龍隊の各隊長らしい。
「何考えてるんだか……」
特に白龍隊の隊長は今回の手紙を届ける事を指示している。
あ、今から思い返してみると、黒龍隊も激戦の任務際に助っ人が来る事がちょくちょくあったような気がした。必死だったから曖昧だけど。
外を見る。
どうやらまだまだ故郷は遠い様で、沢山の人や整備された街道が伸びているのが見える。
遠くに見えて来たのはどこかの領都だろうか? この距離から見える位の大きな建物があるから、位の高い貴族の領かもしれない。
しかし──
「こんなに遠かったか?」
15年前だから少し自信はないが、流石にそろそろついてもいいと思うけど……。
「お客さん。着いたよ」
そんな事を考えていると、どうやらここが次の引継ぎの町だったらしい。確かに大きな町だし、その後の距離を考えた場合時間的にも宿泊を挟んだ方がいいのかもしれない。
「ああ、引継ぎの町ですか? ラーグラント方面の馬車の場所を教えて貰ってもいいですか?」
「はあ?」
馬車を降りて伸びをしながら聞いた俺に、御者は怪訝な表情と声を俺に向けた。
「何ですか?」
「何だはこっちのセリフだわな。ラーグラントに到着したって言ってんだ」
「はあ?」
ラーグラントに到着した?
呆れ顔の御者から視線を町に移す。
視界の先に映る町の姿はかつての姿とは全く一致せず、大きな門と沢山の人が出入りしている様子が強烈な違和感としてあるだけだった。
「ラーグラントって俺の故郷なんですよ」
「ああ。乗せる時に言ってたな」
既に片づけを始めた御者の背に視線を戻す。
「俺の知ってる故郷じゃないんですが、名前が違う別の町ってことありません?」
「……お前さんがラーグラントを出たのはいつだ?」
「15年前です」
「なら、安心しろ。ここがお前さんの故郷だ」
話は終わりとばかりに御者は馬車と共に立ち去っていく。
その背を暫く見つめた後、再度故郷だと言われた街を見る。
立派な街門だった。
かつての朽ちかけたなんちゃって街門ではない。
「……のんびり……?」
全く故郷に帰って来た実感がわかないんだけど……。