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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第三章 開拓村の異変

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45 軍人は約束を破る人

 再び歩き出して接近した所で、イリスは俺達に向かって頭を下げた。


「先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした」


 足を止め、俺は左右の2人に目を向ける。

 だが、2人共他人事のような視線を返してくるだけだった。

 実際にあの時に問答していたのは俺だから、俺が対応しろという事なのだろうが、多分、イリスは俺たち全員に対して謝罪している。


「気にしなくていい。会議の場での議論はむしろ推奨されるものだ」

「しかし、言い方が良くありませんでした」


 まあ、確かに感情的になりすぎていたとは思うが、イリスの年齢と経験を考えれば仕方ない部分だ。

 むしろ、こうして今謝罪に来ているという事実に驚く。俺がこの位の年齢の頃はミレーヌさんに反抗して言い争いをしても決して謝ったりしなかった。


「それに関しては次に生かせばいいだろう。結果がどうあれ、行動自体は間違っていないのだから」


 俺の言葉にイリスは顔を上げると、俺達を見回す。


「これから出発ですか」

「ああ。何分急ぐのでね。要件が謝罪だけならば今すぐ出る感じだな」

「…………」


 謝罪だけが目的では無かったのだろうか?

 イリスは無言で俯くと、一歩、俺に近づいた。


「無事に帰ってきてくれますか?」

「当たり前だろう。俺達は誰一人欠けずに帰ってくる」


 自信を持って答えたつもりだったが、イリスは不安な表情を浮かべたまま顔を上げる。


「本当ですか?」

「……信じられないか? 確かに、俺と君は会って間もないし実力を疑うのは分かるが……。クランチさんも一緒だ。何も心配いらない」


 安心させるために言った事だったが、イリスはそれでも首を横に振った。


「アレクセイさんの実力は疑っていません。貴方の地力がどれほどの物か、実際に自分で訓練してみて実感しました。でも……」


 確かに今朝呆然として訓練場に立っていたイリスの姿を見かけたのは確かだが、訓練した事で俺との差を再認識したからだったのか……。

 それでも言い難そうにしていたイリスだったが、ようやくぽつりと言葉を絞り出す。


「軍人は嘘つきですから。どんなに危険な戦場に赴く時でも、絶対に問題ないと口にする」


 更に一歩。こちらに近づいてきた事でイリスの表情は見えなくなり、見えるのは頭だけになる。


「そして、無言で帰宅する。私に謝る余地も与えずに……」

「そういう人がいたんだな? 身内か?」

「…………」


 イリスからの返答はない。

 しかし、これでさっきの謝罪の意味が分かったな。

 イリスは俺達が帰って来ないかもしれないと考えている。


「問題ない」


 だから俺は尚更強調して口にする。

 イリスは尚不安な表情のまま俺を見上げた。


「戦場に絶対はない。どんなに危険度が低い戦場であっても“絶対”に死なないとは本来言い切れないだろう。だが、俺達軍人は例えどんな戦場だとしても残す者にはそう答える。だが、それは俺達が約束を破る人間だからという訳じゃない」


 俺の言葉にイリスは眉を寄せて不快感を表した。


「事実帰って来られないなら“嘘”と変わらないのでは?」

「“嘘”ではない。自分でそう口にする事が大事なんだ」


 俺はイリスの肩に手を置いて距離を開けると、拳を前に突き出す。リングを嵌めた右拳を。


「俺達軍人は民を守る為にある。その為に一番遵守するべき事は生きて戻る事だ。当然だろう。自身がいなくなってしまっては民を守る事が出来ないのだから」


 イリスは拳を見ている。

 今度は反論は無かった。


「だから口に出す。残す者に対してだけじゃない。自分に対しても約束する。絶対に死なずに戻って任務を完遂すると。これは離脱率が高かった赤龍隊に居た俺でさえ心がけていた事だ」


 赤龍隊と口にした時に俺の目を見たイリスの瞳を真っすぐ見返す。


「俺は死なない。それが任務を成功させる事だと思っているからだ。だから君も自分の役割を果たせ。残って民を安心させ、襲撃が有ったら民を守れ。戦場に赴くのは俺達だけじゃない。君も軍人ならわかるだろう。それとも──」


 拳を突き出す。イリスの顔の目の前へと。


「──自信が無い。死ぬかもしれないと口にするか?」

「……まさか。問題ありません。例えこの町に魔獣の襲撃があったとしても、誰一人死なせませんし、私も死にません」

「それでいい」


 ようやく笑ったイリスが俺の拳に小さな拳を合わせる。

 俺は頷き、イリスの横を抜ける。


「行ってくる」

「じゃあね」

「…………」

「ご武運を」


 それぞれ思い思いの言葉を残し、門を抜ける。

 約一名無言の者もいたが、気持ちは同じだと信じている。


「無事に戻ってくる理由が一つ増えたわね」


 拠点が見えなくなった頃、俺の背後を歩いていたコリーナの言葉に、俺は無言でうなずく。

 そんな俺の横を追い抜く様に先頭に立ったのはクランチさんだ。


「開拓村までは俺が案内する。その間無事に帰れる策を一つでも多く考えておけ」

「了解です」


 それからは無言で進軍する俺達だったが、俺が考えていたのは作戦の策でも何でもなく、イリスから言われた事だった。

 

 軍人は嘘つきだ。

 

 イリスの出した本音は、俺がずっと思っていた事そのものだったから。



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