42 作戦会議
「あのままで良かったの?」
隊長室から退室し、寮に向かって歩いている道すがら、コリーナが尋ねてくる。打ちひしがれていたイリスの事を言っているのだろう。
「かまわんだろう。これ以上子供のわがままに付き合っている時間はない」
しかし、答えたのは先を歩いているクランチさんだった。
雰囲気から少々不機嫌である事がうかがえる事から、さっきのイリスとのやり取りはクランチさんにとっては目に余るものだったのかもしれない。
そんなクランチさんの返答にコリーナは肩を竦めてそれ以上は口にしなかった。
やがて、いったん外に出るとようやくクランチさんは立ち止まると振り返る。
「俺達3人で特殊個体のグリフォンとヤるって話だったが、具体的なプランはあるのか?」
「まあ、状況にもよりますね」
「確か、“ラーグラントの悲劇”と同じ状況になる事を懸念してるのよね? 貴方の中ではどの程度の発生率で考えているか聞きたいわね」
それぞれの疑問を口にする2人に、俺は少し考える。
まだ俺の中では疑念の域を出ていない事案だから、正直に話すのははばかられるが……。
実行役であるこの2人にはある程度は共有していてもいいだろう。
「あの場では言わなかったが、かなり高い確率で発生すると思ってる。恐らく、前回と同規模かそれ以上の」
「根拠は?」
これはクランチさん。
「それは今は何とも……。状況から発生する事はほぼ間違いないと思っていますが、動機が分からない」
「成程」
俺の答えにコリーナは頷き俺を見る。
「詰まり、あなたは今回の事象。もっと言うと前回の悲劇さえも誰かの介入があったと思っているわけね」
「……そういう疑念がある。と言うだけだ」
俺の答えにクランチさんは呆れたように首を振った。
「何故それをあの場で言わなかった?」
「言ってどうなります? 言った所で何かが変わる訳でもないし、イリス以外の反対者が出たかもしれない。それに、領主様のサイドも同じ考えに至っているはずです。だから、騎士団を町の防衛に残す判断を下した」
開拓民とは言え領民である。それに、折角ある程度進んだ開拓地を簡単に放棄するはずがない。
特殊個体が予想されるとはいえ、たかが魔獣一体に……だ。
「前回と同じ轍は踏めません」
「前回は騎士団と魔術師の合同で討伐隊を組んだんだったな? 戦果はどうだったんだ?」
「聞かない方がいいと思うけど」
俺が答えるよりも先にコリーナが口に出す。
どうやら、コリーナは前回の事件の詳細を知っているらしい。まあ、ミレーヌさんと同僚だったのだから当然か。
「生存者は1人です。帰って来たのは魔術師1人。騎士団は全滅でした。しかも、討伐に向かった魔獣は討伐出来ず、追い返しただけと言う結果です」
「…………」
「そのおかげでしばらくの間ラーグラントの状況は最悪に等しかったらしいわ。魔獣の追撃が無かったのが救いね。もしもあったらこの町は地図から消えていた」
クランチさんは大きく息を付くと顔を上げた。
「貴様が討伐を魔術師のみで結成した理由がそれか。魔術耐性がある魔獣に魔術師だけとは変だと思っていたが……」
「同じ魔獣であるとは限らない。しかし、もしも同じ魔獣だったとしたら……魔術を使えない人間にはどうにも出来ない特性があるのかもしれない」
「それを、私達3人だけでやる訳ね」
「魔獣の大群が同時に現れる可能性がある状況でだ」
二人からの言葉に俺は頷く。
「先程も言いましたが、その為に俺がいきます」
「あの子が言ったような人身御供になるつもり……では、無いのよね?」
「当たり前だ。グリフォンも魔獣も俺達の手で殲滅する。町には一体たりとも到達させない」
俺の言葉にクランチさんは目を見開き、コリーナは諦めたように首を振る。
「そういう所本当に親子だなって思う。戦場でのミレーヌ様にそっくりだわ」
「あの人とは親子じゃない。それに、弟子なんだから考え方が似ていて当然だ」
コリーナをあしらい、クランチさんに向き直る。
クランチさんは厳しい目をしていた。
「言い切る以上は勝算があるんだな?」
「無ければ言いません。と言っても別に難しい事ではありません。現地に到着したら俺がグリフォンを釣り出しますから、もしもそのタイミングで他の魔獣が発生しなければそのまま3人で討伐に当たる。発生したら2人には魔獣の群れの足止めをお願いしたい。時間さえ稼いでくれれば俺が全てを薙ぎ払う」
俺の言葉にクランチさんは一瞬息を飲んだが、直ぐに思い当たったようだ。
「……白い惨劇を使うつもりか」
「それ以外に方法はありません」
クランチさんは北方戦線であの状況を目撃しているという。なら、可能かどうかはわかるはずだ。
「まあ、それしかないよね。でも、黒いのを相手にしながら詠唱できるの?」
「勿論、特殊個体を討伐した後になる」
「……魔術が通らない相手なのに? それまで私達が無事でいられる保証あるの?」
「問題ない」
俺は剣の柄を握ると2人を見る。
「そのために広範囲での魔術出力が高いであろう2人を選んだ。それに、そこまで時間をかけるつもりもない」
「大した自信ね」
コリーナは微笑むと俺の肩を軽く叩く。
「信じましょう。外ならぬ【黒い破壊神】の息子がそういうのなら」
「俺は俺だ。あの人は関係ない」
コリーナの手を振り払い、クランチさんに目を向ける。後はこの人が納得するかだ。
クランチさんは組んでいた腕をほどくと頷いた。
「いいだろう。だが、初撃に関しては自由にさせてもらうぞ」
「あ、そうね。そこは私も自由にやるから」
「わかりました」
最初の魔術は黒いグリフォンにぶつけるつもりか。
まあ、いい。それでダメージが通ればそれだけ戦いが楽になる。魔獣の群れへの対処が遅くなるが、この2人ならそれも想定内なのだろう。
「では、出発の準備を。急ぎましょう」
「ああ」
「わかったわ」
それぞれ別れると、戦う為の準備に入る。
15年前の清算をこのタイミングでやる事になるとは思わなかったが、きっとこれは切欠に過ぎないのだろう。
何となく、そう思った。




