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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第三章 開拓村の異変

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41 メンバー選定と2人の声

「ならアレクセイ。15年前の惨劇とグリフォンとの交戦両方を経験しているお前に聞きたい。今回の件においての最適なメンバーは誰だ?」


 コリーナから隊長へと視線を戻すと、頷く。


「まずは今回の特殊個体の特性から考えましょう。魔術が通用しないという話でしたが、経験上魔術が全く通らない魔獣はいません。普通に考えるなら魔術耐性が高い個体と言う事になる」

「単純にハイヤーの魔術の威力が弱かった可能性か。あり得るな」


 クランチさんは納得したように頷くが、レイズは苦笑する。


「いくら本人がいないからってハッキリ言いすぎだろ」

「事実だからな。町の安全とこちらの命がかかっている以上、本人が目の前にいたとしても口にしたさ」


 レイズに対しての返答だったが、目の前のイリスが視線を落とす。歓迎会の事を思い出したのかもしれない。


「なら、選考基準は単純に魔術の出力の高い者か?」

「そうなります。まず聞きますが、この中でハイヤーさんよりも魔術の出力が高い人は何人いますか?」

「このメンバーの中だったら全員だろう。俺の個人的な格付けだが、クランチ、俺、ギル、レイズ、イリス、ハイヤー、ガルムの順に強い。お前に関しては噂レベルでしかしらんから勝手にその中に入れろ」

「了解です。イリスとレイズの出力はどれくらい差がありますか?」


 俺の追加の質問に隊長は少し考えると答える。


「歓迎会で圧倒とまでは行かない位か。お前とイリスの差よりは格段に近いだろうな」

「わかりました。隊長と副長は元白龍隊の隊士ですが、お二人とも典型的な白龍隊士と言う認識でよろしいですか?」

「よろしいよ。俺とギルは王都での防衛任務に特化した白龍隊士そのものだ。だから、出力のみで言えばクランチに劣る」

「成程。大体把握しました」


 俺は頷き、周りを見渡す。


「今回の討伐任務で対象にダメージを与える可能性があるのは、クランチさんと私、それからコリーナの3人ですね」


 俺の言葉にレイズは苦虫を噛み潰したような、イリスは明らかにショックを受けた表情を見せたが、他のメンバーの顔色は変わらない。ある程度分かっていたのだろう。


「なら、その3人で決まりか?」

「そうですね。ですが、一応他の理由もあります」

「聞こうか」


 隊長の言葉に俺は頷くと、若い二人に向き直る。

 これはこの2人を納得させるためのものだ。


「前回の惨劇と同じことが起こったと仮定した場合、魔獣の群れが現れる可能性があります。そして、出現場所は討伐対象の付近になると思います」

「ほう。その心は?」

「襲撃が連動しているからです。もしも()()()()()()()()()()()()()、魔獣の襲撃が魔獣の群れの移動のトリガーになっている可能性が高い」

「成程……。強力な魔獣に追い立てられる形になる訳だ」

「恐らくは。実際には当時の事が判明していない以上予測でしかありませんが。そして、もう一つ」


 俺はイリスに視線を固定する。


「もしも、別のラインから魔獣の群れが発生した場合、最も必要なのは治癒術者です。防御に特化した隊長と副長の力も勿論必要ですが、怪我人をゼロにするのは不可能です。その際、最も重要な役回りになる」

「俺は?」


 俺の言葉に不満げな表情のレイズ。


「高いレベルで纏まってるオーソドックスな魔術師は、どんな状況でも対応できる何でも屋だ。特に今回は騎士団が残って防衛に当たる以上フォローする術者は必要だ。俺の見立てではお前は赤龍隊向きの術者だよ」

「……嬉しくねー……」


 相変わらず仏頂面ではあったが、腕を組んで押し黙るレイズ。何だかんだ言って納得はしたのだろう。

 ……レイズは。


「……魔術が通る()()()()()()。と、言いましたね?」


 俺の瞳を真っすぐに見抜き、前のめりになって声を出したのはイリスだ。


「言ったな」

「仮に魔術が通ったとしましょう。それは、その魔獣を確実に討伐できるレベルの物なんですか?」


 まあ、そう来るよな。


「それはやってみないとわからない。しかし、その為に3人もの魔術師がいるんだ」

「3人()()いませんよね? 先程、その魔獣の近くに多くの魔獣が現れる可能性もあると言いましたよね? 小さなダメージしか与えられないとなると長期戦になるはずです。そんな時に魔獣の群れが現れたらどう対処するつもりなんですか? 魔獣が皆さんを素通りするとは思えません」


 しないだろうな。


「その為のコリーナだ。彼女は黒龍隊の現役の隊士だ。黒龍隊の特性は戦闘特化。大規模戦闘を最も得意とする術者の集まりだ」

「それだと戦闘狂人の集団に聞こえるわよ」

「ある意味、事実だろう」

「あなたにだけは言われたくないわね」

「たった一人でどうにかなるはずないでしょう!」


 俺とコリーナの軽口のやり取りに、ついにイリスが爆発する。流石に煙に巻きすぎたかもしれない。


「魔獣の群れに! 実際に昔の襲撃では黒龍隊の隊士がいながら住人の半分が犠牲になったのでしょう!?」

「あの時はまともな戦力が彼女しかいなかったからだ。今回は他のメンバーもいるし、騎士団もいる。あの時のようにはならない」

「私は! あなた達の事を言っているんです!!」


 ……無理か。これ以上誤魔化すのは。

 俺は腹を括る。


「その為の保険が……俺だ」

 

 部屋に大きな音が響く。

 目の前の少女の座っていた椅子が勢いよく倒れた音だった。

 何故か? 

 イリスが立ち上がったからだ。


「俺が黒いグリフォンを止める。その間にクランチさんとコリーナに魔獣の群れに対処してもらえばいい」

「…………貴方が赤龍隊でそうしていたように…………ですか?」


 歓迎会の事を覚えていたのだろう。

 俺達赤龍隊は部隊の前衛…………肉壁だ。


「そうだ」

「反対です!!」

『何故ですか!!』


 ……?


 イリスの真っすぐな言葉が叩きつけられる。

 が、その声に被せる様に脳裏に別の声が響いた気がした。


「君に反対されようとこれが現時点では最善の策だ」

「違います! 来るか分からない魔獣の群れに備えるよりも、現時点で確実に脅威になっている魔獣の討伐に人員を割くべきです!」

『何故、今回の作戦に参加する事にしたんですか! 先輩の変わりは誰にも出来ないんですよ!?』


 ……頭が痛い。

 同じ声が違う言葉で俺を責め立てる。

 これはなんだ。

 ……いや、わかっている。

 これは過去の記憶だ。


「それで万が一が起こって住民に被害が出たらどうする? 数人の犠牲と数百の犠牲を天秤にかけるのか?」

『しかし……なら! それでも先輩が考えを変えないなら私も行きます! 私は治癒術師です! 先輩に何かあっても助ける事が出来ます!』

「でも……だったら! 私もそっちに行きます! 私は治癒術師です! もしも──」

「駄目だ」


 イリスの言葉を遮る。

 過去の経験が、これまでの行動が、絶対にこの先を言わせてはならないと声を上げた。


「お前は連れて行かない」

「何故です!!」

「未熟者が来ても迷惑なだけだ」


 ガタンっと。

 後ずさったイリスが椅子の脚に当たった音が響く。


「君も言っただろう。魔獣の群れに対して個人の力なんかちっぽけなものだ。君が如何に優秀な治癒魔術師だったとしても、それが何になる? 俺達に求められているのは圧倒的な火力で魔獣を撃退する事だ。当然、群れを殲滅する事は出来ないだろうが、撤退させる事位は出来るかもしれない。その時に君たちが町に居ないでどうする? 回復役がいない状態で町が襲われたら……その時に君はきっと今後癒えない傷を負う事になるぞ」


 イリスは俯き、両拳を握りしめる。

 納得はしていないだろう。

 だが、少なくとも言葉は止めてくれた。


「そういう事です。隊長」

「……この雰囲気でよくそれが言えるね、お前」


 隊長は呆れた様な表情を見せつつも、テーブルに広げた紙にペンでトンっと叩いた。


「まあ、俺としてもそれが最善だとは思う。だが、本当にいいんだな? 相手は魔術耐性のある魔獣だぞ?」

「問題ありません。俺はもう二度と後悔はしません。切れるカードがあるのに出し惜しみして失うのは……もう、ごめんだ」

「わかった。他の2人は?」

「俺は問題ない」

「私も。黒龍隊の人間として尽力しましょう」

「よし。では、ここで一旦解散だ。各自役割を再確認して準備しておけ」


 隊長の声にそれぞれ退室を始めるが、俺とクランチさんとコリーナは分かるが、イリスも退室しようとしない。

 俯いたままじっと立っているだけだ。


 何とも居心地が悪い。

 

 そんなイリスの状態に一瞥くれた後、クランチさんは扉の傍まで移動すると顎をしゃくる。

 場所を変えるという事なのだろう。

 俺もコリーナも立ち上がる。

 だが、イリスはそれでも動かない。


 仕方がないか。

 どんなに優秀な魔術師だとしても、イリスは年齢的にはまだまだ未成熟だ。感情の切り替えをするには時間がかかるだろう。


 俺とコリーナは頷くと扉に向かって移動する。

 その際、イリスの横を通り過ぎて──。


「───────」

「!?」


 足を止め、振り向く。

 視線の先に見えるのはイリスの小さな背中だけ。


「どうしたの?」

「……いや」


 コリーナの声に首を振り、クランチと合流して退室する。


『私が死んでも……変わりはいくらでも補充されますが……先輩は1人しかいないんです……』


 すれ違った時。

 何故か脳裏の声とイリスの声が被った気がした。



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