40 ラーグラントの悲劇
隊長室に入ると既に全員席についている所だった。
「来たか。2人共適当に開いている席に座ってくれ」
俺とコリーナが入り口から近い席に座ると、隊長は帰って来た2人から聞いた話を改めてみんなに話す。レイズやイリスなどその場にいなかった人間がいた為だ。
「黒いグリフォンかよ」
「……特殊個体……ですか」
話を聞いた二人が難しそうな表情になる。その様子から二人とも初耳である事は見て取れる。
「まあ、恐らく……だな。確定じゃない。一応聞いとくが、この中で実際にグリフォンを見た事のある奴は?」
隊長の問いに、俺とコリーナ、それからクランチさんが手を上げる。レイズとイリスは交戦経験はない様だった。
「それに俺とギルか。クランチ。お前は今回の話を聞いてどう思った?」
当然だが隊長と副長も交戦経験はあるようだ。そのうえでクランチさんの意見を求める。
「個体色や特性はともかく、一般的なグリフォンの行動と違いはないと感じたな。奴らは群れを好まないし、単に自分の縄張りに入り込んだ異物を排除しただけだろう。逃げた開拓民を追いかけなかったのがその証拠だ」
「ふむ。俺と同意見だな。なら、討伐の必要は無いか? 開拓民には気の毒だが……」
「……その辺は俺の管轄外だ。寧ろ隊長。お前の立場で考える事だろう。どうなんだ? あの場所は捨ててもいい場所か?」
クランチの言葉に隊長は苦笑しながら首を振る。
「俺の管轄でもねえよ。しかし、良くはないな。領内に危険な魔獣がいるという現実を考えても」
「なら、討伐だ」
それは最初から分かり切っていた内容だった。あくまで、これはそれを再確認するためのものだ。
「そうだな。そうなると討伐隊のメンバーだが……」
「全員で行けばいいのではないですか?」
隊長の言葉に反応したのはイリスだ。
確かに現状のこの町の状況を考えれば確実で、問題の無い意見のように聞こえる。
証拠に隊長もその意見に頷いて──。
「それはどうでしょう」
しかし、思わずその行動を止めてしまった。
全員の視線が俺に向く。
実際、俺自身も驚いた。ここで意見をするつもりなんか無かった。しかし、イリスの意見が通る様な雰囲気になった時に思わず声が出てしまった。
「アレクセイはイリスの意見に反対か。理由を話してもらってもいいか?」
隊長は持っていたペンを一度手元で回すと、俺に意見を求める。
一同俺を見ていたのは同様だが、対面に座っていたイリスはガン見してくる。
……仕方ないか。
ため息が出そうになるのを堪えて考えを述べる。
「理由は2つあります。1つ目は対象の特性です。ハイヤーさんの話では魔術が通じないという話でした。そんな相手に魔術師のみで行動するのが最善だとは思いません」
「あったな。そんな話が」
「別に私はこのメンバーだけで行くとは言っていません。騎士団から応援を頼めばいいでしょう」
騎士団の応援……ね。
「それが2つ目の理由です。更に騎士団迄派遣したとしましょう。その時この町の防衛力はどうなりますか?」
俺の問いに隊長は頷く。
「当然、下がるだろう。しかし、今回の件と町の防衛力に何か関係があるのか?」
隊長の疑問は最もだろう。
たかが北方の開拓村の魔獣討伐。状況から単独の魔獣であるのも予測できる。この町の防衛力が一時的に下がった所で特に問題ないと考える。
しかし、問題なのは今この席に座っている人間に、地元の出身者がいない事だ。
「隊長は15年前にこの町で起こった惨劇をご存じですか?」
俺の問いに隊長の表情が一瞬虚を突かれたようなものになる。想定外の質問だったからだろう。
「話には聞いている。痛ましい事件だったようだな。確か、当時のこの町の住民の半数以上が犠牲になったとか──」
「俺はその時の生き残りです」
隊長の答えに食い気味に答える。気が付けば立ち上がっていた。
「あの時と状況が似すぎている。最初の“死亡事件”こそないものの、強力な単体魔獣の出現から魔術師と騎士団の派遣まで。もしも同じことが起こったら同じ結果になりかねない」
「──ラーグラントの悲劇……だな」
俺の言葉に答えたのは領主の館から帰って来たのだろう。副長のギルバートだった。
「ギル、帰ったか。領主様はなんと?」
「開拓民の一時的な受け入れは許可して頂きました。しかし、あくまでそれは一時的な処置であり、直ぐに魔獣の討伐をするよう指示がきております」
ガルムとハイヤーの話を聞いた後に、リコーが領主の館へ詳細の報告へ走っている。その内容も踏まえた上での命令なのだろう。
「そうか。騎士団の派遣は?」
「ありません。理由は先程アレクセイが言った内容と同じです」
流石に当時の事を知っている人間が多い領主側も気が付いた……な。
全員の視線が再び俺に集中する。
「当時は軍事力も乏しく魔術師隊も無かった事から討伐に向かったのは住民として暮らしていた有力な魔術師と騎士団。町の防衛には自警団とそれに毛が生えた程度の戦力しか持たない民兵。強力とはいえ魔獣は単独。それで十分だと思われていた。しかし、討伐隊が不在になったタイミングで大量の魔獣が町を襲ったのです。偶々町に滞在していた黒龍隊の隊士がいなければ町の壊滅すらありえたでしょう」
そこまで口にして、俺はコリーナを見下ろす。
「似すぎているんですよ。この状況は」
俺の視線に、“黒龍隊”の隊士たるコリーナは苦笑し肩を竦めたのだった。




