03 懐かしの故郷へ
退役の為の手続きを済ませ、荷物を纏めて退寮する際。丁度任務に赴く為に集まっていた新生第3小隊のメンバーと鉢合わせた。
第3小隊は俺が元いた小隊だが、小隊は壊滅。残っていた隊員の内俺が退役してしまった事で残ったのは1人だけだった為再編成されたのだ。
最も、こういう事は珍しくないので隊員たちは慣れたものだ。
だが、その中でも元同僚である隊士だけは俺に近づいてくると、「逃げるのか?」と言ってきたので、「そうだ。お前も死ぬ前に逃げろよ」と言っておいた。
苦虫を嚙み潰したような表情をしていたが、俺の嘘偽りのない本音だ。その後手を振って別れた後に故郷に帰る為に馬車に乗ったわけだが、そこでようやく落ち着く事が出来たので、最後に赤龍隊の隊長に会った際に受け取った書類を開いて目を通した。
「……なるほど。あいつが引き止めずに退役を許可するわけだ」
これ以上ない位に好都合であっただろう。あいつにとっても……俺にとっても。
書類を読み終わると箱を開ける。
中に入っていたのは黄金色の龍を象った勲章だった。
あくまで俺の認識の中にある人間に限られるが、王都魔術師隊の中でこの勲章を胸につけているのはたった2人だけだった。
即ち、白龍隊隊長と黒龍隊の隊長の2人だ。赤龍隊の隊長たるストラッドは持っていない。
「北部戦線に続き此度のスタンピード阻止の功績により……か」
横に放った書類に記されていた内容。
どうも、あの時に拠点にやってきた白龍隊の隊士は、あの時の状況を嘘偽りなく上に報告したらしい。退役の許可を貰いに行った時に叱責されなかったわけだ。懲罰どころか賞賛されてしまったのだから。それも、王家からだ。
「あのまま居座っていたら、難癖付けられた上に戦場で使いつぶされて殺されていたかもな」
あの男は元々は黒龍隊の隊士で、後継者争いに敗れて赤龍隊にやって来たらしい。らしいというのは、あの男が頑なに敗れた事を認めなかったからだ。あくまで赤龍隊と黒龍隊の隊長は同列。格式は変わらないというスタンスだった。
その中に置いて、優越を付けていたのが黄金の龍の勲章だった。それを、部下が受け取ったなら心中穏やかでは無かっただろう。
勲章とは言え常に付けている義務はない。しかし、黄金の龍は王家からの賞賛の証だ。着けない事は逆に不敬となる為、俺も付けざるを得なかっただろう。そうなった場合、あの男がどんな行動に出るかは火を見るよりも明らかだった。
そう考えると……。
「この手紙は最高のタイミングだったわけだ」
出されたのが2年前と言う所に不自然さを感じるが。渡すように指示を出したのが白龍隊の隊長だというのも含めて。
手紙を取り出す。
質の悪い紙を使っているかと思っていたが、単に時間が経ったことにより、劣化しただけだったのだ。
「2年前に危篤……か」
手紙の内容は直ぐに帰って来いと言う内容。
更にはどうして何年も無視をするのかと言う不満も書かれていた。
差出人のミーシャは幼馴染だ。魔術学園に通っていた頃は何度か便りでやり取りをしていたが、赤龍隊に入隊してからは一度も便りが届いた事は無かった。
てっきり、こちらの就職に合わせてやり取りを止めたのかと思っていたが、そういう訳では無かったらしい。
「……はあ……」
手紙と書類、ついでに勲章もまとめて鞄に突っ込むと、窓の外に目を向ける。
故郷迄の道はまだまだ遠い。
窓の外の景色は長閑な田園地帯がゆっくりと流れていた。