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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第三章 開拓村の異変

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38 黒い怪鳥

「最初に異変を発見したのは開拓村の住人でした」


 痛みが完全に取れているわけでは無いだろうに、それを感じさせない語り口のハイヤーに、隊長は頷いて後を促す。


「『森で開拓作業をしている時に黒い影を見た』と。不安だから調査して欲しいとの依頼です」

「俺達の仕事は住民たちの安全確保と報告だからな。そういう頼みはよくあるんだ」


 初顔の俺とコリーナへの説明も兼ねているんだろう。話を引き継ぐ様にガルムが語った。


「最初はただのはぐれの魔獣かなんかだと思った。群れの報告じゃなくて単体だったからな。だから、調査へはハイヤーが一人で行く事になったのさ。俺は止めたんだが」

「開拓村の守備を疎かにするわけにはいかないだろう」

「まあ、そうだな。そういう理由でハイヤーが調査に行った」

「単体だったのか?」


 二人の怪我の具合から魔獣の群れにでも襲われたのだと思っていたのだろう。隊長の疑問にハイヤーが頷く。


「単体と言う報告でしたし、実際に単体でした。私が森に入って暫くは異変はありませんでしたが、開拓地の近くの広場に足を踏み例た時に全身に衝撃が襲いました。……敵は空に居たのです」

「……空……。鳥型の魔獣か? まさか竜種ではあるまい?」


 隊長の問いかけにハイヤーは眉を顰める。何とも答えにくいという表情だった。


「あれを鳥型と言っていいものか……。上半身は確かに鷲のような姿形でしたが、下半身はどちらかと言うと獣のような──」

「グリフォンか」


 ハイヤーの言葉を遮るように、クランチが口をはさむ。

 いつの間にか近くに来たのか、ベッドの傍に立っていた。


「……グリフォン……。あれがそうなのか……」

「見たのは初めてか?」

「見た事の無い魔獣だった。しかし、確かに言われてみれば文献で見たグリフォンに似ていたかもしれない」

「要領を得んな。事後の対策の為にも正確な報告をしろ」

「おい。俺達はこの領地を出た事が無い“底辺魔術師”だぜ? お前らエリートと一緒にすんなよクランチィ……!」

「よせガルム。……クランチも。報告は俺が聞く」

「……ちっ」

「……けッ」


 なんか柄悪いなこの部隊。

 いや、この二人だけか。


「まあ、特徴を聞くにグリフォンだろうな。それで、空から襲撃を受けたようだが、その傷はその時に?」

「いえ。襲撃を受けはしましたが、何とか防御をしつつ戻りました。その時にガルムと合流し、住民の避難を進言したのです」

「最初は何を言っているのかと思ったが、背中を真っ赤に染めたハイヤーの姿を見て緊急事態だって事はわかったからすぐに住民に避難指示を出したんだ」


 怪我してるじゃないか。

 しかし、現状の怪我はそれ以上だったからその後も交戦したのだろう。


「住民が避難を始めて直ぐだった。森から黒い塊が飛んできた。最初は俺が交戦したんだが……」


 そこまで言って、ガルムは言葉を止めて俯くが、しばしの逡巡の後に顔を上げて続ける。


「一撃だ。最初の接触でこのざまだ。俺は吹き飛ばされ、動けなくなった所をハイヤーが……。何度かの接触の末に追い返す事には成功したが、あの野郎最後にとんでもない置き土産をしていきやがった」

「置き土産?」


 隊長の言葉にガルムは頷くと自身の右足を指さす。


「羽の弾丸だ。黒い羽根の弾丸を無数に飛ばしてきやがった。俺は離れていたからこの程度で済んだが、まともに食らったハイヤーが、こうなっちまった」

「まて。黒い羽根……だと?」


 上掛けで見えないハイヤーの体がそうなっているのだろう。しかし、その確認よりも先にクランチさんがガルムの肩を掴んだ。


「黒かったのは羽だけか?」

「痛ぇな。何だよそんな事より──」

「いいから答えろ。黒かったのは羽だけだったのか?」


 ガルムは眉を顰めて反論を試みたようだが、今の状況を隊長が止めない事に緊急性を覚えたらしい。


「……羽だけじゃねぇ。真っ黒だ。全身真っ黒の怪鳥だった」

「……黒いグリフォンだと……?」


 クランチさんはガルムの肩から手を離すと、俺を見る。


「アレクセイ。黒いグリフォンとの戦闘経験はあるか?」


 何故俺に聞く? と思ったが、確かに、今ここに居るメンバーの中で一番現場経験が長いのが俺だろう。コリーナが一応いるが、部外者だし、最も経験豊富な副長は領主の館に行っている。


「ありませんね。通常のグリフォンとの戦闘経験はありますが、黒いグリフォンとは遭遇した事も、話に聞いた事も無い」

「そうか。俺も無い。隊長はどうだ?」

「俺もないな。参考意見として聞きたい。コリーナ殿はあるか?」

「無いわね。もしもその話が本当ならば、そいつは特殊個体かもしれない」


 特殊個体……。

 もしもそうなら、そいつは通常個体よりも強いか、何か特殊な性質がある可能性が高い。


「これは参考意見になるか分かりませんが……」


 顔を見合わせた俺達に対して声を上げたのはハイヤーだった。


「あいつには魔術が一切通じませんでした。単純に私の魔術が弱かっただけかもしれませんが……。手ごたえが無かったのです。直撃した筈なのに、奴の皮膚には傷一つつかなかった。こうしていま私が生きているのは、奴にその気が無かっただけです……。あしらわれただけで私は……死にかけた」

「……ハイヤー……」


 ハイヤーは泣いていた。

 それは痛みよるものでは無い事は、この場にいる全ての人間が理解していた。

 

「遅れてすみません。患者はここですか?」


 そんな暗い雰囲気の時にイリスはようやく現れたのだった。

 背後にレイズを伴って。



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