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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第三章 開拓村の異変

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37 備えを持つのは必要だから

「じゃあ、あまり良くない報告から聞こうか」


 クランチさんからの報告を聞く事にした隊長は、あまり良くない報告から聞く事にしたらしい。

 ため息を吐きつつ聞く態勢をとった隊長にクランチさんは頷く。


「夜明け頃ガルムとハイヤーの2人が帰ってきた」


 ガルムとハイヤーという名前には聞き覚えがある。現在出張で不在と言うラーグラント魔術師隊の隊員だ。

 だが、その二人が帰って来たのがどうしてあまり良くない報告なのかがわからない。

 それは隊長も同じだったらしく、拍子抜けしたような表情をしていた。


「はぁ? 何で二人が帰って来たのが良くない報告なんだよ。帰って来たなら逆に……いや、待て。あの二人の任務終了の期日はまだ先だっただろう」

「それが悪い報告の一つ目だ。二人は帰って来たがそれ以外の人間も一緒だった。主張先の開拓村の住民全員だ」


 クランチさんの報告に隊長の目が鋭くなる。

 話から察するに、2人の隊員が派遣されていたのはこの領内にある開拓村の1つなのだろう。


「全住人がか? 何があったんだ?」

「最後だ。二人に理由を聞こうとしたが、手負いだった。もっと言うとハイヤーは意識不明の重体。ガルムも軽くない傷を負っていて、話を聞こうにも興奮していて会話にならなかったから救護室に叩きこんできた」

「成程。そいつは悪い報告だな」


 隊長は腰を落として腕を組む。

 眉間にしわを寄せて考え込んでいるようだった。


「俺としては腕づくで聞き出しても良かったんだが、手負いの人間を追い込む趣味は持っていない。どのみちあんたに報告する必要もあったからな。丸投げに来た」

「……まあ、正解だな。お前さんは少々話を聞くには向いてない」


 考えがまとまったのか、隊長は目を開くと立ち上がる。


「ギル。悪いが領主様の屋敷まで行って開拓村の住人の一時保護の件を伝えてくれ。詳細な説明は後になるが、まずは住人の安全と休息が大事だ。領主様もわかってくれるだろう」

「畏まりました」


 隊長からの指示を受けた副長は直ぐに部屋を出ていく。


「レイズ。お前は直ぐにイリスを呼んで来い。救護室だ」

「あん? 別に構わないけど今のあいつ抜け殻だぜ?」

「かまわん。あいつはお前が思っている以上にプロ意識は高い。内面がまだ子供なのは間違いないが、公私の区別は付ける奴だ。『大けがをした人間がいる』とでも言えば気持ちも戻ってくるだろう」

「それでも抜け殻だったら?」

「お前ね。俺がどれだけの人間を見てきたと思ってんだよ。大丈夫。それだけ伝えればしゃきっとするよ。それでも戻って来なかったらほっといていいわ」

「了解」


 レイズも頷き、部屋を出ていく。

 

「最後にクランチと……アレクセイ。お前達二人は俺と一緒に救護室だ。だめかもしれんがイリスが来るまでにガルムから聞けることは聞いておく」

「イリスが来れば何とかなるんですか?」


 さっきまでの流れからイリスが重要な役割を担っているようだったから聞いてみる。


「なる。寧ろこっちがあいつの得意分野だ。歓迎会でがっかりしたかもしれんが、流石のお前でもビビるだろうと言っておいてやる」

「別にがっかりはしてませんけどね」


 軽口を叩きながら部屋から出た隊長の後に続きながら、一応言っておく。

 しかし、そうなると、イリスは回復術者だという事だ。


「多分、まともに会話できんと思うぞ」

「それならそれでもいい。傷の具合からどんな状況だったかある程度わかるだろう」


 同じように隊長の後ろに付いたクランチさんに答えながら、隊長は救護室に向かっていく。

 その後を俺とクランチさん、そして、何故かコリーナも付いてくる。

 やがて救護室にたどり着くと、隊長はノックも無しに扉を開ける。

  

 中に居たのはベッドに横になっている細身の男性と、手当てを受けている山賊の様な男。と、山賊を手当てしている若い女性だった。制服から多分、リコーの同僚である女性職員だろう。


「あ、隊長さん──」

「隊長!! イリスは、イリスはまだか!!」


 女性職員が振り向き、隊長に声を掛けたが、それを遮るように山賊が立ち上がると隊長に詰め寄った。


「イリスはまだだ。それよりもお前から話を聞こうと思ってな」

「話なんざ後だ!! ハイヤーの状態が見えねぇのか!! 今すぐイリスを呼んできて治療してくれ!!」


 成程。確かに会話になってない。

 しかし、自分のケガでパニックになっているのかと思ったが、そういう訳では無かったらしい。

 俺はベッドまで近づくと恐らくハイヤーだろう。細身の男性を見下ろす。

 布団越しにも滲んだ血液。こめかみから右目にも及ぶ鍵爪の跡。応急手当はしてあるようだが出血が止まっているとは言い難い。

 呼吸も荒く、確かにこれは緊急を要する状態だった。


「おいっ!! テメエ何勝手に近づいてやがる!! 余計な事するんじゃねぇ!!」


 隊長を振り払ってきたのか、山賊の様な男。推定ガルムが右手で肩を掴んできたのでその手首を握る。

 魔力の乱れが大きく、生命力も不安定だ。


「な、なんだてめぇ……その目」

「落ち着いて下さい。まずは俺の目を見て」


 目を合わせると血走ってはいるが魔力の流れ自体は悪くない。

 肩から胸にかけての切り傷と、右足の穿ち傷。外傷だ。これなら何とかなるかもしれない。

 魔力を流す。まずは落ち着けるために魔力の流れを正して、相手の属性に合わせて修復の魔力に変える。


「な、何を」

「まだ痛みますか?」


 手を放し、負傷していた肩に軽く触れる。

 ガルムは俺から手を離すと自身の肩、そして右足を触る。


「ま、まさか……治ったのか!? お前、詠唱なんかしてなかっただろう。回復魔術は……」

「あくまで応急処置です。痛み止めと止血程度ですが、大分マシになった筈です。イリスが来るまでの繋ぎですが、ハイヤーさんもやってみましょう」

「そ、そうだ! 俺よりもハイヤーだ! 何とかしてくれ!」

「何度も言いますが応急処置です。ですが、やってみましょう」


 完全に敵意を消して縋る様な目を向けてきたガルムに背を向け、ハイヤーの胸に手を置く。

 ……これは酷い。よくこれで生きてここまで来たものだが、それだけ鍛えてきたという事だろう。

 魔力を流す。出来るだけ強く、まずは止血と痛み止め。その後に乱れた魔力の流れを正常に戻して着付け代わりに流す魔力の質を変える。


 治療には程遠い。しかし、喋る分には問題ない程度にはなっただろう。


 手を放し、様子を伺う。

 すると、程なくしてハイヤーの目がゆっくりと開いた。潰れた右目は仕方ないが、開いた左目が俺を見た。


「……ここは?」

「ラーグラント魔術師隊の詰め所にある救護室です」

「……生き残ったのか……」

「ハイヤー!!」


 俺を押しのけ、ガルムがベッドに縋りつく。


「ガルム……無事だったか」

「無事だったか、じゃねぇ!! 1人でムチャしやがって……! ここまで帰って来るのにどれほど心配したか……」

「そうか……すまなかった」


 お互いの無事を喜びあっている二人だが、あくまでも応急処置だという事を理解してほしい。

 折角治療をしたのに、悪化したら元も子もない。


「喜んでいる所申し訳ありませんが、それはあくまで応急処置です。もうすぐイリスが来るでしょうからそれまで安静にしていてください」

「そうか。君が治してくれたんだな。……初めて見る顔だが、治療師かい?」

「いえ。新人のアレクセイといいます」


 俺の自己紹介にハイヤーと、ついでにガルムも驚いたようだった。


「新人!? そういや知らねぇ奴だと思ったんだ」

「……簡易魔術の治癒魔術を使う新人……とは。……そうか……」


 驚く顔のガルムとは対照的に、どこか諦めた様な、疲れたような様子を見せるハイヤー。


「あの……何か気に障る様な事をしたでしょうか?」

「いや、此方の都合だよ。君は気にしなくていい。それよりも……隊長」

「何だ」

「報告があります。重要な報告です」

「聞こう」


 真剣なまなざしのハイヤーに対して、隊長も頷き、ベッド脇の椅子に座る。

 俺とクランプさん、それからコリーナは、その後ろで二人の会話を聞く事にした。



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