33 そこまで徹底しなくてもいい
一日の仕事と言う名の部隊の規律やその他を学んだ後、終業時間になったので現在は拠点を出て集団で町を練り歩いていた。目的は懇親を目的とした歓迎会だ。
最も、集団と言っても俺以外のメンバーは隊長と副長、それからレイズの4人だけなのだが。
「クランチさんは何となくわかるけど、イリスも不参加なんだな」
クランチさんはあの性格上こういう集まりは避けそうだなと想像するのに難しくないが、イリスは形だけは参加しそうだったから意外だった。
「体調が悪いんだと。多分、あいつがこういう場に顔を出さないのは初めてじゃないか?」
「そうだな。俺の記憶にもない」
レイズの返答に隊長も同調する。どうやら、本格的に心が折れてしまったようだ。
「多分、俺のせいですよね?」
「そりゃそうだろ。最初に無能感を出しておいて連続で追い打ちとか人間の所業じゃねぇよ。鬼だ鬼」
「……そういうつもりじゃなかった」
隊長に聞いたつもりだったが、答えたのはレイズ。
だが、本当にそのつもりではなかった。
「まあいいさ。俺は気にしてねーし。お、ここだここ」
レイズが足を止め、店を指さしつつ俺達の方に振り返る。
見上げると剣と杖が交差する看板。一見すると冒険者が集まる某施設に掲げられていそうな看板だが、そのインパクト故非常に見覚えがあるものだった。後、建物も。
「“剣と杖の集い”か。相変わらずお前はここばかりだな」
「別にいいでしょ。俺のお気に入りなの」
呆れた様な隊長の言葉に悪びれなく返すと、レイズは店の中に入っていく。
宿と併設された食堂は、実に見慣れたものだった。
……そうか。剣と杖の集いという名だったのか。そう言えば店の名前は聞いていなかった。
「いらっしゃいませー! お食事ですか? お泊りですか?」
「おー、ナターシャちゃん! 今日もかわいいね。予約してたはずなんだけど席まで案内してもらっていい?」
「あ、レイズさんでしたか。予約は聞いてます。こち……ら、で……す」
目が合った。
レイズににこやかな笑顔を見せた後、メンバーの確認をしようとしたのだろう。恐らく席がある方だと思われる方向に左手を差し出した状態でナターシャの笑顔が固まった。
「ナターシャちゃん?」
「……え? あ、席、こ……ちらです」
明らかにぎこちない笑顔を浮かべた後に歩いて行くナターシャ。
そんな俺とナターシャを交互に見た後、レイズが俺の傍に寄ってくる。
「何? 知り合い?」
「……知り合いって程では……。ただ、俺は元々はこの町の出身だったから、顔見知りではあるかな」
思わず嘘をついてしまったが、レイズはあからさまにホッとした表情を見せた。
「何だよ。脅かすなよ。てっきりナターシャちゃんの男かなんかかと思ったぜ」
「冗談言うな。俺がこの町に居た頃はあの子はまだ子供だぞ。歳が違いすぎるし、俺が育ったのは王都だ。帰って来たのもつい先日だ」
今度は嘘は言っていない。
実際、帰ってきてすぐの頃の俺にとってのナターシャの認識はその程度だった。
……だからナターシャそんな目で俺を見るな。怖いぞ。
「こちらになります。ごゆっくりどうぞ!」
一番奥の席まで案内すると、ツンとした表情で立ち去るナターシャ。
「今度は怒ってなかったか?」
「気のせいだろ」
「そうそう。気のせい気のせい。良いから座って注文しよう」
何故か笑いながら座る隊長に続いて俺達も座る。
すると、笑顔のアリーシャさんが注文を取りに来た。
「先に飲み物の注文聞きますねー」
「あれ? ナターシャちゃんは?」
個人的に俺も気になったが、レイズが先に口に出した。
「ごめんなさいねぇ。あの子には宿の方の仕事を頼んじゃったの」
「えーマジかよー。俺、今日は傷心だからナターシャちゃんに慰めて貰おうと思ったのに」
気にしていないと言いつつやっぱり気にしていたらしい。
レイズの言葉にアリーシャさんはごめんねと謝りつつも注文を取っていく。俺の注文を取る時だけ意味深な視線を送ってきたが、気付かないふりをした。
その後直ぐに飲み物がテーブルに運ばれ、隊長がグラスを片手におほんと咳ばらいをした。
「さて、飲み物もいきわたったようだし僭越ながら俺が乾杯の音頭をしようと思う。おいレイズ。折角の新人の歓迎会なのにテーブルに突っ伏してるんじゃない。グラスを取れグラスを」
「……へーい。くそっ、今日はホント散々だな。俺も体調不良で帰っていいか?」
「ダメに決まってるだろ。いい加減にしろ幹事」
「わかったよ」
レイズが渋々グラスを取って掲げると、それを合図としたように副長と俺もグラスを掲げる。
「今ここにはいないメンバーもいるが、新たな仲間を歓迎する為に設けた場だ。今日は存分に楽しんでくれ」
とても楽しめそうにないメンバーが約1名いるのだが、満面の笑みで隊長はグラスを突き出した。
「乾杯!」
カチンとグラスを合わせると、それぞれグラスの中身に口を付ける。
グラスから流れてきたワインを味わう。
以前とは変わってしまった趣向が、今は何となく心地よく感じた。




