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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第二章 故郷の小さな魔術師隊

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32 失意の先にある物

 改めての設置作業を申し付けられ、レイズの零す愚痴が止まらないようだが、今の俺の耳にはそれが単なる音としか認識できていないのは目を閉じて瞑想しているからだ。

 

 魔術師にとって正しい瞑想を行えるというのは才能の1つでもある。

 瞑想を行う事で特に魔力が回復するという訳ではないが、魔術の使用後に乱れた魔力の流れを整える効果があるからだ。

 どんなに優れた魔術師であっても、魔術使用後の魔力の乱れは防ぎようがない事は、魔力を目視できる俺が一番よく知っている。

 だから、俺は瞑想を愚直に行う魔術師を侮らない。例え、それが若年で経験の浅い魔術師であってもだ。


 瞳を閉じていても前方にあった大きな魔力の塊が脇に移動していくのを感じる。

 残されたのは前方に設置されている纏った魔力の量が違う一つづつの訓練用の的と、俺の隣の静かな魔力。


 目を開ける。

 目視する事で俺の目の前にある的だけが先程とは違うAタイプ……最も防御に優れた実戦訓練用の魔術的である事がわかった。

 レイズに目を向けるとどこか楽しそうな笑みを浮かべ、後ろのリコーは視線を逸らした。


「……始めましょう」


 隣のイリスが静かに告げる。完全に魔力の流れが元に戻ったのだろう。

 俺も背後の副長に目を向けると、副長が頷いて右手を上げる。

 合わせて俺も右手を的に向けた。


 ……さて。

 あの的では先程と同じ術では砕けない。壊すくらいは出来るかもしれないが、後からゴチャゴチャ言われたくはないな。


 ならば、少しばかりサービスで見せてやるか。

 自分の実力に相当自信が有るであろう金髪の若い魔術師に。


「打てっ!」


 副長の声と同時に練った魔力に属性を乗せる。

 練り込んだのは風と水と土。


一瞬だけ視界がフラッシュを焚いたように白くなり、次に目の前の的が残骸も残さず消し飛び、背後の木を2本、胴部を抉った所で魔力を切る。

 その先にあった壁には傷一つ入れない。それだけでもこの技術の意味を知るだろう。わからなければそれだけの術者だという事だ。


「…………マジかよ」


 レイズは立ち上がっていた。

 やがて、遅れて2本の木立がそれぞれ倒れる。

 目の前に見える的は1本のみ。

 そう、1本の的は残ったままだった。


「…………これが…………今の私の立ち位置…………」


 向けていた杖をゆっくりと下し、力なく俯くイリス。

 気持ちはわからなくはないが、現実をしっかりと見ない事にはここから先には進めない。

 それは、若い魔術師2人共だ。


「アレクセイ」


 隊長の声に振り向くと苦笑していた。


「やりすぎ」

「それを言うならあんなものを設置したレイズに言って下さい。それが無ければ前と同じ術を使うつもりだったんですから」


 当然、隊長も副長もわかった筈だ。


「何だよ。バレてたのか」


 バツが悪そうにこちらに向かって歩いてくるレイズに目を向ける。


「流石にわかる。俺が何年あれを相手に訓練してきたと思ってるんだ」

「そう言えばベテランだったな」


 この部隊では新人だった事。それから最初の詠唱魔術のレベルを見てレイズの中の俺のランクが低く設定されていたのかもしれない。


「かわいい後輩に忖度したのかと思ったぞ」

「ンな事するかよ。最初の的が完全に粉砕されたからな。あれでもいけるんかなってちょっとした好奇心が湧いただけだ」

「私は止めたんですよ」


 全く悪びれないレイズの態度に焦ったのか、後ろからついて来たリコーが慌てて続く。

 

「別にリコーさんが悪いとは思ってませんよ。あの的でも特に問題ないですし」

「ホントだよ。何だよあれは」

「白い惨劇だ」


 ちょっとムッとしたようなレイズの言葉に答える前に、いつの間に近くに来たのかクランチさんが口をはさむ。


「そうだな?」


 そして、改めて俺に確認してくるが、俺は肩を竦める。


「無詠唱でアレは無理です。属性を近づけただけのただの簡易魔術ですよ」

「あの速度と威力でか……」


 俺の魔術が通った方向を見ながら呟くクランチさんに、レイズが不満げな声を上げる。


「威力もそうだけど魔術を途中で切っただろ。何だよあれ。あんなの見た事も聞いた事もねーぞ」

「田舎から出てないからだ。王都に行けば魔術のキャンセルなんて上位の魔術師なら誰でも出来る。恐らく、クランチさんは出来るでしょう?」

「ああ」

「……マジかよ」


 今度こそ自信を折られたのか、その場に座り込むレイズ。

 それはそれで目的通りではあるが、それよりも──


「イリス? どうした?」


 隊長の声にイリスの方に目を向けると、杖を地面に引き摺りながら、訓練場から出ようとしているイリスの背中が見えた。

 隊長の声にイリスは足を止めるが、俯いたまま顔を動かす事はない。


「…………すみません。体調が悪くなってしまって。今日は休ませてもらってもいいですか?」

「そうか。勿論構わない。ゆっくり休むといい」

「ありがとうございます」


 それだけのやり取りでイリスは立ち去っていく。

 杖と、足を地面に引き摺りながら。


「残酷だな」


 クランチさんの言葉は、イリスとレイズ。2人に向けたものだろう。


「レイズがあの的を設置した事で、隊長の本当の目的に気が付いただけです。俺としてはこういう役は本意ではありませんでした」

「確かに。最初に貴様を見た時は以前見た貴様とはまるで別人だったからな」


 腕を組み、頷くクランチさんは全く折れていない。それだけで、今回の主目的が()()()()()()()()()だという事がよくわかる。


「また、立ち上がれるでしょうか?」

「さあな。だが、立ち上がれなければその程度の術者でしかないってだけだ。未熟な術者は直ぐに死ぬ。ならば、実力の無い者は戦場に出さなければいい。それは貴様が一番よく知っているはずだ」

「そうですね」


 座ったままのレイズに一度だけ目を向けると、隊長の元に歩く。

 向かった先の隊長は満面の笑みで俺を迎えた。


「さて、恒例の歓迎会も終わったし、各自仕事に戻るように。あ、アレクセイはこの隊の説明があるから俺と一緒に隊長室ね」

「了解です」


 この隊長……。

 緩い態度とは裏腹にとんでもない人間かもしれないな。



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