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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第二章 故郷の小さな魔術師隊

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31 無詠唱魔術

 再戦が決まると壊れてしまった的を交換するために、リコーが新しい的を持ってきて、レイズが元々設置されていた場所に再び設置する。


「何で俺がこんな事を……」


 本来は一番下っ端がやる事らしいが、下っ端2名が当事者なのだから仕方ない。

 再びラインの位置にやってくると、薄っすらと赤い魔力を纏ったイリスが目を閉じて立っていた。

 ……瞑想か。あれだけ激高していたのにすぐに修正してくるあたりやはり優秀なのだろう。

 すると、ふとイリスが目を開いた事で、そちらを見ていた俺と目が合った。


「……魔術剣は使わないのですか?」


 剣を納め、自然に立っている俺に疑問を抱いたのだろう。

 そんなイリスに俺は頷く。


「ああ。でも、別に君を侮っているとかそういう意図はない。こっちの方が慣れているんだ」

「……慣れている……」


 そう呟いたイリスの魔力の赤みが薄くなっていく。何故だろう。


「負けた時にその言い訳は聞きませんよ」

「勿論。こっちは一度負けてるんだし、そんな事は言わないよ」


 満足したように頷くと、イリスは先程と同じように杖を手にして正面を向く。既に魔力の色は薄い陽炎の様な無色となっており、万全の状態である事がわかった。


「準備はいいか?」

「大丈夫です」

「問題ありません」


 副長の言葉に俺とイリスがそれぞれ答える。

 その答えを聞いた副長は一度頷くと右手を掲げた。


「打てっ!」


 副長の合図と共にイリスが詠唱を始めるが──。


「せいめ──え?」


 その詠唱の完成を待たずに俺の前方の的が粉々に砕け散り、ついでに背後の岩が弾け飛びながら辺りに散らばった。


「…………は?」


 間抜けな声を上げたのはレイズだろう。

 破壊された的と岩。それから俺の間を何度も視線を彷徨わせている。


「……それでいい。つまらん手抜きをしおって。馬鹿が」


 その感想辛辣過ぎない?

 満足そうに頷くクランチさんになんだかなあと思わない事も無いが、あの人からすれば俺が手を抜いているように見えたのだから仕方ない。

 そして、イリスは……。


「……あ……。あ?」


 呆けたように視線を向けている先にあるのは既に根元から完全に無くなってしまったかつて俺の的があった場所。


「どう……して? 詠唱も無しにあんな威力が出るはずが……」

「どうしてと言われても……必要だったからとしか」


 イリスの呟きに答えると、イリスはゆっくりとこちらを見てくる。


「……必要だった……」

「俺がいたのは突撃部隊だ。ちまちま詠唱何て唱えている暇はない」


 俺の言葉にイリスはカッと目を見開く。

 まるで、想定していなかった答えを聞いたように。


「でも……前衛がいるはずでは?」

「この国は騎士団至上主義の国家だ。よほどの事情が無い限りはお互いの部隊の共闘はありえない。俺達赤龍隊は問題が起きた時の調査と、相手の力を測る為の捨て駒だ。前衛などいると思うかい?」


 むしろ、俺達が前衛だと言ってもいい。 


「…………」


 イリスは俯き、杖を落とす。

 カラリと落ちた杖は転がり、俺の足元で止まった。

 俺は振り向くと隊長と副長に目を向ける。

 何となく二人がホッとしたような表情をしているように見えるが、気のせいだろうか。


「決まりだな。流石は元赤龍隊のエースだ」

「勝手に言い切らないで下さい。1小隊の1隊員でしかありません」


 隊長の軽口を訂正すると、この場を離れるために1歩を踏み出す。

 が、その次の1歩を踏み出す事が出来なかった。

 

 ……イリスが俺のローブを掴んだためだ。


「……もう一度」

「何?」


 イリスの呟きに疑問の声を上げたのは副長だった。

 イリスは今度は顔を上げると決意の籠った眼差しで俺を見た。


「もう一度! もう一度お願いします! 今度は……今度は私も簡易……無詠唱魔術を使いますから!」


 ……簡易魔術での再戦?

 先程迄のイリスの反応を見るに、イリス自体は簡易魔術で威力のある魔術を扱う事は出来ない筈だが。

 隊長に目を向ける。

 俺に見られた隊長は肩をすくめると軽い口調で言ってくる。


「俺はどちらでもいいよ。当事者同士で決めればいい。アレクセイ。お前はどうしたい?」


 先程のイリスに対して行った事と同様の質問だ。

 ならば、俺の答えは決まったようなものだった。


「元々は俺が負けた所をイリスが再戦を受け入れてくれたわけですし、構いませんよ。寧ろ、コレで漸く五分だと考えれば、そちらの方が自然でしょう」


 お互い1勝同士の最終戦。どこぞの格闘ゲームのようだ。


「感謝します」


 イリスは感謝の言葉口にすると、足元に落ちていた杖を拾う。その目は真剣で、先程までとは全く違った決意を感じた。


 そして、その姿が……以前赤龍隊に入ってきた新人魔術師の姿と被って見えた。



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