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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第二章 故郷の小さな魔術師隊

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30 茶番

「うーん」


 完全に興味を失ったイリスが片付けを始めた頃、腕を組んだ隊長が困ったような声を上げる。

 これはあれか? 俺が勝てるとか考えてたとか? 勝てるわけないだろ。詠唱魔術の対決で。


「レイズ。感想」

「は? 何で俺?」


 やがて、唐突に感想を振ってきた隊長に、レイズが自分の顔を指さして疑問の声を上げる。


「総括だよ。これはお前たちの勉強の一環でもあるんだからな」


 あんな無様な内容に総括もくそも無いのでは? 

 だが、レイズは意外にも真面目に考えたのか、しばらく目を瞑っていた後に目を開けて俺を見て一言。


「どんまい」

「それだけか?」

「じゃあ、これから頑張れ?」


 身もふたもないな。

 まあ、あの内容で感想を聞かれても困るだろう。

 レイズの答えに隊長は長いため息を吐いたが、直ぐに気持ちを切り替えたらしくクランチさんに目を向ける。


「じゃあクランチ。感想」

「茶番だな」


 レイズとは違い即答したクランチさん。

 ただ、予想していた答えと違ったのか、隊長は組んだ腕をほどく。


「茶番とは? お前にはさっきの勝負がそう見えたと?」

「逆に聞きたい。隊長は先程の茶番が勝負に見えたのか?」


 まあ、勝負……には見えんよね。勝負にすらなっていない。


「うーん。俺には例年通りの歓迎会の風景に見えたけどね。あ、クランチの時以外ね」


 凄いな。この発言から推測するにクランチさんは勝ったのか……。まあ、隊長と副長を除くとこの隊最強って言ってたしな。


「……ちっ。元白龍隊と言ってもその程度か……」


 おい。凄いこと言ってるぞこの人。

 当の言われた本人は苦笑しているだけだけど、副長のこめかみと表情が凄い事になってるぞ。

 だが、そんな事は気にも留めずにクランチさんはこちらに向かって歩いてくる。


「貴様、何故あんな粗末な詠唱魔術を使った? わざと手を抜いてそこのひよっこに媚びを売る。それが貴様の処世術か? それとも、こんな低レベルな部隊にゃ実力を見せるのも馬鹿らしい。……か?」

「……なっ……!?」

 

 は? 詠唱魔術での勝負でしょうが。

 それよりもイリスが凄い事になってるな。

 片づけようとしていた杖を再び手にしてクランチさんに詰め寄ろうとしている。


「何故も何も詠唱魔術での勝負でしょう? 最初に確認した時にそう言いましたよね?」

「そうだったか? 隊長?」


 俺の言葉に隊長に目を向けるクランチさん。

 問いかけられた隊長は少し驚いた表情を見せたものの、少し考えるそぶりを見せた後に答える。


「いや? 魔術なら何でもいいって言わなかった?」

「と、言っているが?」


 え? そうだったっけ?

 思い出そうとして記憶を漁ろうとするが、その思考を別の声が邪魔をした。


「だからこその詠唱魔術でしょう!? この人が使ったのはライトアロー!! 光の属性の下級魔術!! 早打ち勝負なら適正な選択です!!」


 それでも負けたんだけどね。

 ……しかし、そうか。

 確かに、()()()()()()()()()なら今の勝負は茶番に見える。


「でも、いいんですか?」

「何がだ?」


 俺の中での懸念点。

 それがどうしても払しょくできなくて聞くも、クランチさんの態度は変わらない。


「一般的に簡易魔術は魔術とは言わないでしょう」

「簡易魔術ですってっ!?」


 クランチさんに問いかけたのに、答えたのはイリスだった。


「あんなものは魔術とは言いません! 魔力があればだれでも使える魔術擬き! そもそも、あれはちょっとした点火や、明かりをつけるのがせいぜいの出力しかないではありませんか! あの的を破壊できるわけがない!」


 杖で壊された的を差し、叫ぶイリス。

 しかし、そんなイリスをクランチさんは鼻で笑った。


「馬脚を現したなひよっこ。お前らみたいなプライドだけは高い未熟者はあれを【簡易魔術】などと呼んで蔑んでいるが、本来の呼び名は【無詠唱魔術】だ。立派な魔術なんだよ。それが、いつの間にか簡易魔術なんぞと呼ばれて格落ち扱いだ。どうしてそうなったか教えてやろうか? ええ?」


 いつの間にかイリスの直ぐ傍まで近づくと、腰を落として顔を近づけるクランチさん。

 迫力に飲まれたのかイリスは言葉に詰まって後ずさる。


「──お前らじゃどう転んでも威力のある魔術を無詠唱で発動できないからさ。要は、自分の実力が無い事を誤魔化すために他者を落として自分を上げようとしているさもしい連中。それがお前らだ」

「と、取り消して下さい! 取り消してっ!!」

「取り消さねーよ」


 馬鹿にしたようにイリスを嘲笑うと、クランチさんは腰を伸ばして隊長を見る。

 その拍子にイリスは腰を抜かしたように後ろに倒れる。顔は高揚したように真っ赤だったが、歯がガチガチと音を立てていた。


「隊長。再戦だ」

「再戦? さっきの歓迎会を……か?」

「そうだ。ありゃあ、完全に奴の手抜きの茶番だったからな」


 だから、手は抜いてないってのに。

 使ったのが詠唱魔術だっただけだ。


「ふむ……」


 顎に手を当てて考える隊長だったが、ややあって副長に目を向け、その後にイリスに目を向けた。


「俺としてはここで終わってもいいと思ってる。そもそもの目的通りの結果だからな。しかし、当事者が望むのならば再戦するのも面白いとも思ってる。どうする? イリス」


 隊長の言葉に全員の視線がイリスに向かう。

 その視線を受けて、赤かった顔を更に赤く染めると、勢いよく立ち上がり杖の先端を地面に叩きつけた。

 真っ赤な魔力をその身に宿して。


「いいでしょう。たかが簡易魔術。そんなものに私が負けるわけが無いと証明して見せます!」

「望むところだ。吠え面かくなよひよっこ」


 お互い睨みあって盛り上がるクランチさんとイリス。


 いや、やりあうのはクランチさんじゃなくて俺だよね?



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