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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第二章 故郷の小さな魔術師隊

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29 詠唱魔術

説明回です。

最初と最後だけ読んでも意味は通じるかと思います。

 さて、魔術を披露するという事だが……。


「詠唱魔術をあの的に当てる。で、いいんですか?」

「そうだ。魔術だったら何でもいいが、発動が最も早い魔術がいいぞ。これは早打ち競争だからな」


 人に向けないピストルの早打ち勝負みたいなものか。


「ただ早く打つだけでは不足ですよ。あの的を破壊できなければ無効です」


 杖を的に向けて告げるイリス。

 成程、その為の杖だったわけだ。

 あの的はタイプによって強度が変わる代物で、ある程度魔術の威力が無いと傷さえつかない構造になっている。あれは多分タイプCだから、最低限の詠唱魔術では恐らく壊せない。

 杖は……杖に限らないが、魔術を使用する為に魔力の節約や増幅を行う装備がある。別に使用しなくても魔術の発動自体は問題ないが、魔術の出は早いが威力が低い魔術でも的を破壊できるように準備したのだろう。


「そうだな。より早く、有効打を放てる魔術師の方が優秀だという事だな」


 そして、それを俺に教えない……と。確実に新人を潰す為の戦略かな?


「とはいえ、お前さんに説明していなかったのはこちらの落ち度だったな。どうする? 何かしらブースターの貸し出しをしてもいいが?」


 単に言い忘れていただけか。

 正直な話をすれば要らない。普段からそんなものを使っていなかったからその方が慣れているからだ。

 けど、イリスと出来るだけ条件を同じにした方が、後々文句も付けられにくい……かな。


「いえ。俺はコレでいいです」


 腰の剣を抜くと刀身を隊長に掲げる。

 薄っすらと青みを帯びた刀身をみた隊長は、「ほう……」と声を上げた。


「こいつは魔術剣か。随分珍しいものを持ってるな」

「元々突撃部隊に居たものですから。こういう武器の方が身を守るのに都合がいいんですよね」


 切ってヨシ、魔術の補助に使ってもヨシの便利道具だ。

 因みに、突撃部隊の下りでイリスが小さく鼻を鳴らした。うん、確かにガキだわ。


「なら、お互いに準備は整っているな。2人とも、地面に引いたらラインで待機。合図と同時に発動だ。合図はギル。お前がやれ」

「はっ」


 副長が悠然と前に出てきたので俺もラインまで……丁度イリスが立っている場所の隣迄移動する。

 イリスは少しだけ俺の目を覗き込んできたが、直ぐに前を向いて杖を構えた。

 立ち上る魔力の量と質を見るだけでも相当な使い手だという事がわかる。

 確かに、これならばあんな態度にもなる訳だ。


 さて、詠唱魔術という事だが……。

 実はまともに使ったのは学生時代まで遡るから自信が有るか無いかで言えば無い。

 そもそも、詠唱魔術と言う代物は、古代語を正確に発音し、声に魔力を途切れさせる事なく維持しなければならない。

 しかも、その発音が独特で、現代語の発音では1音を正確に発音する事が非常に困難だったりする。


 例えば、炎を発現する為に使用するのが『っあゃがゃぎぃさ』という言葉だったとして、これを正確に、つっかえることなく流暢に、魔力を流しつつ唱える必要がある訳だ。しかも、実際の古代語はそういう発音では無いという事もわかっている。その理由が詠唱する人間によって微妙に魔術の質が変化するからだ。

 恐らく、発音が違うから……という事らしい。それもらしいという事位しか判明していない。


 その為、魔術には幾つかジャンルが分かれている。

 1つ目は古代語を直接シンプルに唱える【純粋詠唱魔術】最も難易度が高いと言われている魔術だ。

 難易度が高い理由はその発音にある。現代語では表現し難い発音を完璧に詠唱し、なおかつ魔力を途切らさない。魔力が途切れてしまうと魔術が発動しないから魔力を無駄にして終わってしまう。

 ただ、難易度が高い代わりに詠唱が最も短く、高威力で発動が早い。上級の魔術師は最低1つはこの魔術を扱えると言われている。


 2つ目が詠唱魔術。

 これは最もポピュラーで、学園でも塾でも家庭教師でも最初に教えるのがこれだ。

 これは誰が使っても同じような効果を出すために、なるべく現代の文法に寄せた詠唱に変換した魔術だ。

 先の炎の例に載せると『もっとあついきゃらがちゃんとぎんのちぃーくさがせ』みたいになる。実際にはもっと言いやすい言葉になるのだが、やたら長いので割愛。だから、この辺は術者の技量で短くしたりするわけだ。最初に言ったが単語と言うよりも発音なので、短くわかりやすい言葉にしても発音され正しければ発動する。初心者が『炎出ろ』と言っても発動しなくても、熟練者なら発動する。と、言った具合にだ。そして、魔力に関しては途切れさえしなければいいので、魔術言語の間に余計な単語が入っても発動する。ただし、長くなった分魔力の消費が多く発動が遅い。


 最後が個人魔法。

 これは厳密に言えばジャンル分けされた魔術ではない。

 先に言ったように発音が異なる事で通常とは違った効果を持つ魔術全般に使う言葉だ。

 具体例を挙げると、純粋詠唱魔術や詠唱魔術の短縮を行った際に、詠唱者によって全く違う魔術が発動する事がある。そうして『決まった詠唱者以外使う事が出来ない魔術』をいつの間にかそう呼ぶようになっていた。


 番外として簡易魔術と言うのもあるが、これは魔力に属性付けてぶつけるだけなので、魔術とは言えないので除外だ。


 さて、そこを踏まえて今回の勝負は詠唱魔術の早打ち勝負。

 俺は魔術科の平均的な生徒だったから最もポピュラーな詠唱魔術しか使えない。

 対するイリスは……間違いなく短縮詠唱を使ってくるだろう。


 これ、最初から勝負は見えてるな。

 ハッキリ言って勝負にならないが、慣例なら仕方ないか……。


 ラインに立ち、剣を抜く。

 陽の光を反射した青みがかった刀身が、ふと戦場に居た頃の事を思い出させる。


「打てっ」


 副長の声が聞こえる。

 お互い即座に詠唱を始めるが──


「夜を照らす神秘の輝き阻むもの──」

「生命の息吹の現出形を成せ」


 早い。

 あっと言う間にイリスの魔術の構成が完成したのが魔力の変質が終わった事で理解する。


「ファイヤーボール」


 トリガーワードがイリスの口から吐き出され、杖の先から炎の球が真っすぐ的に向かって飛んでいく。直撃した的は火の粉を撒き散らしながらバラバラになって弾けて落ちた。


「──天のかけらを解き放て」


 大きく遅れて俺の魔術の構成が完成し、トリガーワードを唱えて切っ先を的に向ける。


「ライトアロー」


 的に向かって真っすぐ飛び出した光の矢は、的の中心を貫通して背後の岩に当たって霧散した。


「……予想通りの……いえ」


 シンと静まり返った訓練場に、明らかに侮蔑を含んだイリスの声が聞こえる。


「予想よりも酷い。酷すぎる実力でしたね」


 うーん。これ程圧倒的な敗北ってあんまり見ないよな。

 これはこれで本来の目的ではあるんだろうけど。



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