25 入隊
結局の所、此方としても働き口は欲しいし、魔術師隊側としても雇い主側からの指示なので入隊に関しては問題ない所か、俺が入隊しない方がスコット隊長達が困るという事で入隊しないという選択は殆どなかった。
これは最初から俺を新入隊員として迎えに行くようにとレイズに言った理由もわかった。
そうなると面接も入隊試験も無いという事で、現在は施設を案内してもらいながら内情の話を聞いている所だった。
「それでは、隊員は現在7人しかいないんですか?」
「ああ。そもそもこの魔術師隊が立ち上がったのが12年前だからな。当時はボスが元白龍隊の引退術師を5人連れてきて運用していたそうだ」
「その5人は今は?」
俺の問いに隊長は副長を見る。
「え、副長は元白龍隊の魔術師?」
「昔の話だ。それに、今では私1人しか残っておらんしな」
腕の立つ魔術師だと思っていたが当然だった。元白龍隊の魔術師とは、この国のトップクラスと言っても過言ではない。
「では、元々の隊長も辞めてしまったと」
「いや、隊長はお嬢様がやっていた。白龍隊と兼任でな」
無茶苦茶するな……。まあ、色々と凄い戦績も聞いてはいるけれど。
「だが、その後白龍隊の隊長に就任してしまった。そうなると白龍隊を疎かには出来ん。そこで、9年前にお嬢様が連れて来たのが現在のスコット隊長だ」
「はっは。俺に関しては現役の白龍隊士だったんだぜ」
「……現役の……9年前なら俺が赤龍隊に居た頃と被ってますね」
1年だけだけど。
「そうだな。ついでに言うと王都の学園に居た頃も被ってるぜ。そこでも“1年だけ”な」
「……当時の俺をご存じで?」
「いいや? 全く知らん。1ミリも話題に上がらない生徒の事なんてわからんさ。学年だって違うんだからな。俺が知ったのはお前さんの卒業時だな。その時ですら同じ魔術科で1年被ってた事があるなんて思わなかった。後で調べたから知ったんだ」
そうか。つまり、俺が5年も学園にいた理由も知っているわけだ。
「赤龍隊に入ったって聞いて、当時は変な奴もいるもんだなって思ったけど、それがこうして一緒に仕事をする事になるって言うんだから面白いよな」
「そうですね」
適当に話を合わせた所で外に出る。
目の前は来た時に通った正門があるが、隊長はそこから左に向かって歩き出す。
俺と副長はその後に付いて行く形だ。
「残念ながら現在2名の隊士は出張中の為不在。クランチは神出鬼没。唯一居場所の特定が容易い隊士の所に来たんだが、都合よく気まぐれな隊士も一緒に居てくれたな」
俺達が来たのは訓練場だった。
そこに居たのは2名。
1人は俺を案内してくれた金髪の魔術師レイズ。もう1人は入る時にチラッと見かけた女性の魔術師だった。……いや、女性ではあるが若すぎる。少女と言ってもいい年齢だろう。幼い顔立ちに長い白髪。少々目つきの鋭いローブ姿の少女だった。
「あれ? お前は……」
「それぞれ紹介しようか。そっちは顔を合わせたから知っているだろう。そいつはレイズ。ウチのNo6だな」
「隊長~。それだと俺が下から2番目の実力しかないって思われるでしょ。こう見えて俺、もっと上だと思ってるんで」
「はっは。隊員Noは実力順ではなく入った順だよ。そういう意味ではこいつはNo8だ」
「おっ! No8って事は入隊が決まったんだな」
俺を指差した隊長の言葉を聞いて、レイズが俺を見て笑う。こいつコミュ強だな。
「次にそっちの娘だが、No7のイリスだ。ウチの紅一点で最年少だな。去年学園を卒業したばかりの有望株だぞ」
「イリスです」
俺に向かってお辞儀をする女の子……イリスだが、全く興味が無さそうなのはその雰囲気と魔力の質からも見て取れた。
「最後はお前だな。一番の新人だし2人に自己紹介しろ」
隊長に促されたので一歩前に出て2人に向き直る。
「この度ラーグラント魔術師隊に入隊する事になったアレクセイです。よろしくお願いします」
自己紹介をして頭を下げたのだが、顔を上げるとレイズは苦笑し、イリスは眉を顰めていた。
「そんだけ? それに固っ苦しいな~。もっと普通に喋れよ」
「経歴は? その年齢でここに来て、何も無い訳ではないのでしょう?」
そっちだって簡易的な紹介だっただろ。
それに、最初はしっかりとした挨拶をするべきだと思うし、そもそも年齢は言ってないだろ。見た目でそれなりの年に見えるのは理解するけど。
隊長に視線を向けると笑っているだけだし、副長に至っては不服そうに眉を顰めている。
仕方ない……か。
「年齢は25歳。10年程王都の魔術師隊に所属していました。この度退職して故郷であるこの町に戻って来たので、入隊のお願いをした次第です」
「だから固えって。俺達よりも年上じゃねえか」
「魔術師隊? 正確にお願いします。どこの魔術師隊に属していたんですか?」
うるさいなこいつら……。
言葉遣いなんてどうでもいいし、元赤龍隊なんて言いたくないに決まってんだろ。
「所属していたのは赤龍隊で……だ」
「……赤龍隊……」
俺の言葉を聞いて、元々興味の薄かったイリスの興味が更に下がった。もう、その辺の石ころ並みじゃね?
そりゃ、王都の学園に通っていたのなら赤龍隊の噂位知ってるよな。
「赤龍隊? って、王都三大魔術師隊じゃねぇか! マジかよ。元白龍隊だけじゃなくて、元赤龍隊も所属するって、俺らの部隊って何気に凄くね?」
そして、当然のように知らないレイズ。
だが、こいつわかってないとでも言うように、苦い表情で首を振るイリス。
「……使い捨ての突撃部隊。王都の学園を卒業さえ出来れば誰でも入れるような部隊のどこが──」
「イリス」
イリスの言葉。と言うよりも、王都にいる人間なら誰でも知っているし、誰でも口にする台詞を隊長が遮る。
一言名前を呼んだだけだったが、イリスはそれだけで言葉を止めて、俺に向かって頭を下げた。
「すみません。言い過ぎました」
「いや、いい。事実だ」
そう、事実なのだ。悲しい事に。
「スコット隊長」
俺の言葉を聞いた後に顔を上げると、イリスは隊長に向き直る。
「毎回恒例の“歓迎会”ですが、内容は慣例通りで良いのですよね?」
何だ? 歓迎会? 慣例?
「ん? ああ、そう言えばそうだな。慣例通りで良いんじゃない?」
「相手が他部隊の経験者で年上であっても……ですね?」
「そらそうでしょ。特にそんな取り決めないし」
「わかりました」
それだけ確認すると、イリスはどこかに行ってしまった。
そんなイリスの背中を暫く見た後、レイズが俺の傍に来る。
「なに? そんなに酷いの? 赤龍隊って」
「凡そ彼女の言った通りだよ。学園の魔術科を卒業できさえすれば入隊できるレベルの部隊だ」
ただ、その学園の魔術科を卒業できるレベルって言うのが結構高いハードルでもあるのだけど。
「あー……。そっか。まあ気にすんなよ。要するにあいつと同レベルって事なんだろ? だったら問題ねぇよ」
「レイズ」
「あ、すんません」
今度は怒気を含んだ副長の声に軽い調子で返すレイズ。そこに反省の色は見えないが、まあ、それが彼の個性なのだろう。
それにしても、クランチさんといい変な人しかいない部隊だな……。




