23 それはある意味黒歴史
「隊長ぉ~。言われた新人連れて来たんだけど」
ノックをしながらそんな事を言うレイズ。随分緩いが、こういう規律の部隊なんだろうか?
そんな事を思っていると、特に返事もなく扉が開く。扉の向こうに立っていたのは壮年の魔術師。入り口であった男と同じように体格はそれほど良くはないが、淀みのない魔力が全身を薄い膜のように覆っている。相当上位の使い手だという事がわかる。
「レイズ。いい加減その言葉遣いと態度を改めろ。何度も言わせるな」
ぎろりとレイズを睨みつけた壮年の男だったが、レイズは気にも留めない。
「すみませんね副長。でも、これが俺の個性なんですよ」
「軍人に個性など必要ない。いい加減にせんと厳罰もあり得る事は理解しているな?」
「そりゃまあ。俺達はあくまで“駒”だ。でしょ?」
ヘラヘラと返すレイズ。
その態度に表情を険しくする副長と呼ばれた男だが、纏った魔力に変化はない。色もだ。
「ギル。その辺にしておけ。レイズもすまなかったな。案内ご苦労だった」
「いやいや。暇だったんでいいっすよ。じゃあな新人。正式に入隊が決まったら改めて話そうぜ!」
俺の肩をバンバンと叩くと、去っていくレイズ。
その様子を呆れた様子で見ていた壮年の男だったが、直ぐに俺に向き直った。
「すまんな。あんな奴だが実力はあるから解雇できんのだ」
「お気になさらず。良い人でしたよ」
ここまで案内してくれたし、特に悪感情は抱かなかった。彼の言う通りあんなものはただの個性だ。
「……そうか。想像していた人物像とは違うな。すまん、入ってくれ」
「失礼します」
俺が入室するのを待って壮年の男が扉を閉める。
部屋の奥には机があり、金髪の男が座っていた。
中年……とまではいかないだろう。俺よりも少し上の年齢だろうか。
「ようこそ。ラーグラント魔術師隊へ。俺が隊長のスコット・アストレイだ。そっちの男はこの隊の副長を任せているギル」
「ギルバート・ランティスだ」
「アレクセイ・マストです」
お互いに自己紹介を済ませた所で隊長であるスコットさんは立ち上がり歩み寄ってくる。
「まあ、立って話す内容でもないし、座り給え。ギル。」
「はっ」
俺には応接用のソファに促し、ギルバートさんには視線を向ける。
見られたギルバートさんは短く返事をすると部屋の奥へと歩いて行った。
「さて、早速本題から入ろう。ウチに入隊希望と言う事で良いんだよね?」
お互いソファに座った所で話を切り出したスコットさんに向かって頷く。
「はい。故郷に帰って来たのはいいのですが、前職を辞めてしまったので新たな職場を探していたのです」
「そこでグローリィを頼ったわけだ」
足を組み、頷くスコットさん。
そこで、奥からギルバートさんが現れると、俺とスコットさんの前、最後に自分の前にカップを置いてスコットさんの隣に座った。
「グローリィは私の叔父なのです」
「らしいね。何でも不肖の甥だとか」
クックッと笑うスコットさんに、ギルバートさんが小さな溜息を吐く。
「あの白い惨劇に対して不肖など……。奴の感性は私には理解できませんな」
「私の事をご存じなのですか?」
流石に、「その二つ名で呼ぶな」とは言えない。もしかしたら、上司になるかもしれない人なのだ。
「王都の魔術部隊の作戦に参加したもので、知らない者などおらん」
「逆に言えば、この町でしか仕事をした事の無い連中は君の事を知らない人間も多いという事だ」
渋い表情のままのギルバートさんと、歯を見せて笑うスコットさん。これ、評価されてるのかされてないのかわからないな。
「そう言えば、玄関で会った魔術師は知っているようでしたね。案内してくれた彼は知らないようでしたが」
「玄関で会ったのはどんな奴だった?」
「赤髪で長身の魔術師です」
「クランチだな」
俺の説明だけで確信したらしい。ギルバートが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「いきなりウチの問題児二人と遭遇したか」
問題児でしたか……。まあ、そんな感じではあった。
「先程の説明からすると、彼も王都の作戦に参加した事があるという事ですか」
俺の言葉にギルバートさんは口を噤み、スコットさんがテーブルに頬杖を付くと、ニヤリと笑う。
「王都の作戦も何も、君と同じ作戦に参加した事があるんだぜ?」
同じ作戦?
……まさか。
「奴が参加した王都の作戦。それは──北方戦線だ」
成程。
なら、あの態度は納得できるものだった。




