22 ラーグラント魔術師隊
「おはようございます」
「おはようございます」
外に出ると女性使用人が綺麗なお辞儀をして挨拶をしてきたので挨拶を返す。
「えっと、昨日の叔父さんの話の続き……で、いいんですかね?」
「はい。主人からの伝言です『交渉は上手くいったから今日なるべく早い時間に魔術師隊の詰め所に行くように』との事です。こちらが紹介状になります」
女性から封筒を受け取ると正面を見る。
黒髪の女性は特に表情を変える事もなくこちらを見ていた。
「詰め所とは宿舎で良いんですよね?」
「宿舎? ……確かに、同じ敷地内にありましたね。場所はそちらで構いませんが、敷地内に入る際に門の前にいる人間にその紹介状を渡して下さい。それで話は通る筈です」
もうそこまで話が進んでいるのか……。あの人って、実は俺が思っている以上に力があるのかもしれない。
「場所はわかりますか? 必要ならばご案内します」
「いや、大丈夫です」
多分。
「左様ですか。それでは、失礼いたします」
再びお辞儀をすると、戻っていく女性の後ろ姿を見送った後、一度部屋に戻って準備をする。
恐らく採用試験か面接か……。実技があるのならば戦闘用の装備は必要だろう。後は経歴書と身分証……。王都で貰った龍の紋章は……一応持っておくか。
準備を終えるとアリーシャさんに外出する事を伝え、出発する。
店内を見ると既にナターシャがせっせと働いていたが声を掛けずに店を出る。
どのみち今回は道案内は考えていなかったから問題ない。それに、今後は一人で出歩く必要があるのだから町の地理を把握する上でも一人での外出は必要だろう。
完全ではないが、昨日頭の中で描いた町の地図を頼りに目的地を目指す。
実際には領主の館まで行ったことはないものの、とにかく大きい目印があるからそこを目指せばいいし、所在地は上流街だ。特に問題なく目的地に到着する。
「ここか」
かつての記憶には無い大きな建物を見上げた後、その両側へと順に視線を移す。
同じように大きな敷地にいくつかの建物が立っている場所。建てられた建物は同じ造りのようだったが、立っている門番からどちらが魔術師隊か、騎士団かの区別はついた。
俺は左側の施設の門まで歩くと、そこに立っていたローブ姿の門番に封筒を渡す。
「今日お約束していたアレクセイ・マストと言う者です」
「アレクセイ? ああ、あんたが話のあった……。わかった、ついてきて。案内するから」
手紙の裏表をくるくると捲った後に納得した門番は、門を開けながらこっちに向かって手招きする。
金髪のちょっと軽そうな若い男だった。
「門番の仕事はいいんですか?」
「ん? ああ、別にいいんじゃない? 俺門番じゃねーし。隊長から今日新入隊員が来るから案内しろって言われて待ってただけだし」
手をヒラヒラさせながら歩き出したローブ姿の男の後を追う。
「そうだったんですね……。と言うか、新入隊員ですか……」
まだ、試験も何も受けてないんだけど……。
「隊長はそう言ってたけどね。その辺の所は本人に聞けば? 俺は案内を頼まれただけだから」
ズンズン先に進む男の後を付いて行くと、正面に他よりも立派な造りの建物があり、左側にそれよりも大きな建物があり、反対側には広場の様な場所があった。
もしかしたら演習場か何かなのかもしれない。学園時代に見た事のある訓練用の的があり、その正面に女性の魔術師が訓練しているのが見えた。
「こっち」
演習場を見ていて足が緩んでいたのだろう。
いつの間にか正面の建物の入り口に立っていた男に追いつき、共に建物に入る。
恐らく、ここが詰め所なのだろう。
来客を意識しているような造りになっているので直ぐにわかった。
「レイズ。そいつは誰だ?」
入ってすぐに中をぐるりと見渡した俺の背後から声。
……外に気配は感じていたが、接近が早かった。まさかこのタイミングで話しかけられるとは思わなかったから少しだけびっくりした。
「ああ、クランチさん。こいつは新入隊員の……えーと、アレクセイ? 何だっけ?」
「アレクセイ・マストです」
さっき名乗ったばかりなのに怪しい紹介をする金髪の男……レイズ? にフォローを入れつつ振り向くと、バサバサの赤髪の男がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「アレクセイ……マスト……」
男は呟くように口にすると、俺の目の前で止まる。
俺よりも頭一つ分ほど背が高い。だが、体格はそこまでいいわけではなく、典型的な魔術師と言う感じだった。それは、殆ど感知させない程制御された魔力の質からも判断できた。
「一応訂正ですが、まだ隊員ではない筈です」
試験も面接も受けてないからな。
「貴様が採用されないわけが無いだろう。それとも、この程度の魔術師隊など眼中に無い……か?」
男の赤い魔力が一瞬だけ肥大し、右手の辺りで渦巻く……が、直ぐに霧散し、無言のまま男はその場を立ち去った。
「ちょっとクランチさん? ……行っちまった。何? あんたひょっとして有名人?」
「いえ……。それよりも、案内お願いしてもいいですか?」
「ああ、そうだった。こっちこっち」
思い出したようなレイズの後ろについて行く。
その道中もう一度後ろを振り返るも、男の姿は確認できなかった。




