20 真実はどっち?
叔父さんから話を聞く前の準備として、こちらが把握している内容を説明する。
スキンから聞いた事。
ナターシャから聞いた事。
マーモットさんから聞いた事。
そして……ミーシャから聞いた内容だ。
「成程ね……。一応最初に言っておくけど、僕も姉さんの事についてはそれほど詳しく知っているわけじゃない。恐らく、最初の3人の方が生きていた頃の情報は詳しいだろう」
「そうですか…………? え、3人ですか?」
俺が叔父さんに説明した人数は4人だ。
「ああ。3人だ。最後の1人は明らかに嘘をついているからな」
「……嘘を?」
馬鹿な。
あの時のミーシャの魔力の色を見るに嘘をついているようには見えなかった。
「姉さん譲りの嘘感知能力に引っかからなかったと言いたげだね?」
「え? ああ、まあはい」
そうだ。この人は俺の能力を知っているんだった。
「その子がどうやってお前の能力を搔い潜ったのかは知らんが、嘘をついているのは間違いない」
「その理由を聞いても?」
「簡単な事だ。その期間に僕は何度も姉さんと会っているからだ」
会っていた。叔父さんが母さんと。
「それはミーシャは言っていませんでした」
「知らないんだろう。姉さんは……表面上はどうあれこの町の住民を信用していなかった。それはその娘も例外ではない」
頭の中をミーシャの言葉がぐるぐる回る。
あの時のミーシャの口調だと、大分ミーシャと親密だと感じたのだが……。
「会っていたからこそわかる。まず、姉さんの体調だが健康そのものだった。そもそもの話として、あの程度の魔獣の群れに姉さんが遅れを取るとでも? 仮に……そう、ありえない事だが仮に負傷をしたとしよう。そんなものは姉さんの回復魔術で治せる」
「……確かにそうですね」
あの時はミーシャの雰囲気に押されてしまったが、確かに母さんは回復魔術が扱えた。傷を負ったまま過ごしていたとは考えにくい。
「後、お前を探していた期間だな。朝昼晩と探していたのは事実だが、事件の後、1月程でお前の生存確認はしている。半年等と流石に盛りすぎだ」
「1月で生存確認? 本当ですか?」
「疑うのか? 僕が姉さんに頼まれて引っ張ってきた情報だ。間違いなどあるものか」
ああ、成程。だから、姉さんと叔父さんはあの事件の後に会っていたのか。
「もしかして、その後の俺の動向を母さんに伝えてました?」
「伝えたな。頼まれていたし、俺にとってお前はかわいい甥っ子だ。お前の王都の保護者は少々面倒臭……癖の強い人物だったが、悪い様にはしないようだったからな。静観していた」
面倒臭い人間だと思われてますよ。ミレーヌさん……。
「それなのに、ミーシャは母さんが俺を半年探していたと言ってきた」
「もしかしたら、本当に半年探すふりをしていたのかもね。女の子を引き取ったと言った話は姉さんから聞いていなかったから断言できないけど、一緒に過ごしていたのは本当なのだろう?」
「それは、ナターシャからの証言からも本当のようです。あと、家にあった家具や残置物が母さんの物でした」
あの配置には見覚えがある。
子供の頃の記憶とそっくりだったからだ。
「そいつは2年前に姉さんが倒れたと言ったんだね?」
「はい……。いや、違うな……それを口にしたのはスキンかな」
手紙を見せた時にそんな話をした覚えがある。いつの間にかミーシャから言われたと勘違いしていたが、ミーシャは3年前に取り立てが収まってから急に体調が悪くなったとしか言っていなかった。
「……。そのスキンとかいう男と他にどんなやり取りをしたか覚えてる?」
「特には……。昔の事を少し話したくらいですよ。元々魔術を学んでいたのに騎士になっていたから驚きましたけどね。身分証の更新に役所に案内してもらいました」
初日の事だし随分助けられた。
だが、叔父さんは呆れたように大きなため息を吐いた。
「……やられたな。もしかしたらこちらの予想よりも早く命令書が届く可能性がある。今回の件、マーモットという男の判断は最適解だったという事だ。マーモットはスキンのいる場所で私に会えと言っていないな?」
不思議な質問だ。
「そう言えば、言ってませんね。皆が帰ってから改めて部屋に来てその時に話をしたんです」
「その男。もしかしたらある程度事情を把握している可能性があるな。姉さんにくっついて回っていたのは帰ってきてからも変わらなかったのかもしれない」
マーモットさん……。今の貴方は既婚者です。
いや、待てよ。そうすると、あの時マーモットさんが部屋に乱入してきたのは……。
「どうかしたのか?」
俺の態度が気になったのだろう。
聞いてきた叔父さんに当日の内容を話す。
「そうか。恐らくだが、お前達の食事会を早く終わらせるためにわざと殺気を振りまいたのかもな。あの男も曲がりなりにも魔術師だ。姉さんと晩年も親交があったのなら、お前の能力も把握していただろう」
え?
「マーモットさんって魔術師なんですか?」
「さっきも言っただろう? 姉さんを追いかけて王都の学園に行ったと」
マジかよ……。あんな熊みたいな人が魔術師……。しかも、現料理人とか。
「そう考えると色々納得はしますが……。もしかして、叔父さんはスキンを疑ってますか?」
「疑うも何も、そいつと女はグルだ。理由は知らないけどお前をこの町から追い出したいようだね」
追い出す……。
確かに、ミーシャに関しては直ぐにあの部屋から出て欲しいという意図は感じた。だから、俺はあの時すぐに出て行ったのだ。
だが、まさか町を追い出す事まで考えていたのだというのか? 何故?
「まあ、あくまで僕の推測だよ。お前の人間関係だ。お前の好きなように接すればいい」
「はあ」
「ただし、この町でゆっくり過ごしたいなら、気を許すべきではない2人だ」
元々ミーシャとは距離を置くつもりだったが、まさかのスキンもか……。
「わかりました」
「素直だね」
「少しでも疑うべきものは絶対に信用してはならない。それは俺が10年の生活で学んだ事です」
「……そうか」
組んでいた腕を解いて叔父さんは微笑む。
「王都で良い母親に育てられたようだね」
「…………」
……そうかな?
なんか、ずっと「才能ない」って言われ続けてた気がするんだけど。
まあ、叔父さんがそういうのならそう考える余地があると考えよう。




