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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第一章 元王都魔術師隊士の帰郷
19/22

18 受け継いだものと受け継げなかったもの

「ここか」


 あれから道行く人に聞きながらなんとかたどり着いた場所は、上流街にある割には落ち着いた感じの洋館だった。

 まあ、小さい頃の記憶を辿るとそこまでお金を持っている印象が無いし、特に驚きはしなかったが、上流街に住んでいるという事は税金も大分払っているはずだから、特に住宅に興味がないだけかもしれないが。


 広くはないがしっかりと整えられた庭を進み、玄関までやってくるとノックをする。

 すると、ほどなくして扉が開き、若い女性が姿を現した。

 容姿からすると使用人だろうか? 流石に、過去の叔父さんの性格を考えると、こんな若い人と結婚するとは思えなかった。


「はい。どちら様でしょうか」

「私はアレクセイ・マストと言う者です。グローリィ・デモンズ様にお取次ぎ願いたいのですが」

「アレクセイ・マスト様ですね」

「はい。甥が来たと言っていただければ伝わると思います」

「畏まりました。少々お待ちください」


 綺麗なお辞儀をして去っていった女性を見送った後、程なくして家に入れて貰い部屋まで案内される。

 外から見た通り家はそこまで広くなく、質素だった。

 使用人も案内してくれている女性のみか、もしくは裏方に少数がいる位なのだろう。部屋に到着するまでの間誰かとすれ違う事は勿論、物音さえしなかった。


 やがて部屋にたどり着くと女性が部屋をノックする。

 

「勝手に入ってくれていいよ」


 中から声が聞こえてくると、いつもの事なのか慣れた手つきで女性は扉を開け、お辞儀をして去っていった。

 その後ろ姿を見送った後、言われたように部屋に入る。

 部屋の中はここに来るまでの整理された状態とは正反対のゴチャゴチャした部屋だった。

 特に正面の机の周りは酷く、山のようになった本に埋もれる様にブロンドの頭が見えていた。


「散らかっていてすまないね。後少ししたら終わるから適当に座っていてくれ」


 何処へ?

 部屋を見回しても足の踏み場もないという表現がぴったりで、座れる場所など無いように見えたが、一部他よりも高く積みあがった本の山があったので崩してみると、ソファが現れたので本を脇にどかしてそこに座った。


「待たせたね」


 やがて用事が終わったのか、昔見た容姿よりも少し年を重ねた事がわかる叔父さんがこちらに向かって歩いてくると、手を叩いた。

 直ぐに扉が開かれて、先程の女性が現れた。


「お呼びですか?」

「お茶を2人分と、何か摘まめる物を頼む」

「畏まりました」


 退室していった女性を見送った後、叔父さんは俺の前のスペースの本を乱暴によせていく。すると、下からテーブルともう一つソファーが現れた。

 新しく出現したソファーに叔父さんは座ると、ようやく俺と目を合わせる。少々皺が目立つようにはなっていたが、過去に見た叔父さんの顔とあまり変わっていなかった。


「久しぶりだねアレク。何年ぶりになる?」

「15年ですかね」


 実際には年に何回も会っていなかったから体感的にはもっと以前の印象があるが、あの事件の時に顔を合わせているから15年ぶりで間違いではない。


「そうか。もうそんなになるか。見た目は……流石に背だけは伸びたようだが、体格も魔力もあまり変化がない。ちゃんと鍛錬していたのか?」

「……変わってませんか?」


 個人的には大分成長したと思っていたのだが。


「多少は魔力が伸びたようだが、そんなものは成長したとは言わん。結局姉さんの才能は受け継げなかったようだね」


 今の俺に対して“魔術の才能が無い”なんて言ってくるのは、多分この人か……ミレーヌさん位だ。

 母さんでさえ、俺には魔術に関して「天賦の才がある」と言っていたのに、見る人によって意見がころころ変わるな。

 ミレーヌさんなんか俺の頭を小突きつつ、「本当にお前才能ないなー」とよく言っていた。


「魔術の才能に関してはそうかもしれませんが、魔力の質を見抜く才能は受け継ぎましたよ」


 今の所、母さんと俺以外では使える人間は見た事が無い。


「ああ、あれね。確かに人を殺すのには便利な能力だね」


 嫌な言い方するな。確かに、最も使いどころが多いのがその状況ではあるが……。


「失礼いたします」


 ノックの後、先程の女性が入室し、俺達の状況を見た後一瞬だけ顔を顰め──がっつり赤い魔力を纏っていて怒りを見せていたが──すぐに真顔になるとテーブルを綺麗に拭いた後にカップとお菓子を置いて去っていった。


「奥さんとかでは無いですよね?」

「まさか。僕が結婚なんてすると思うかい?」

「結婚に関しては人それぞれなので別に意外性は無いですが、ちょっと若すぎるとは思いました」


 本当は小さい頃からこの人絶対生涯独身だろと思ったけど。


「確かに若いね」

「その今気が付いた感じは何ですか?」

「気にしてないからね。一人で家事をするのが面倒だったから、適当に求人を出して最初に来た人に決めただけだ」

「それでいいんですか……」

「必要な事をやってくれたらいいよ。彼女はこちらの邪魔をしないしいい選択だった」


 カップに口を付け、満足そうに頷く叔父さん。

 俺も手元のカップに一口付けてみると、爽やかな香りが鼻を抜けていった。


「さて。15年ぶりに態々会いに来た甥っ子よ」


 叔父さんは腕を組み、俺を正面から見る。


「王都魔術師団に所属していたにも関わらず、辞職して帰郷した位だ。僕に何か聞きたい事でもあるのだろう?」

「……相変わらずですね」


 一体どういう伝手があるのか、それとも特殊な能力があるのか。

 以前と変わらず全てを見透かしたような叔父さんの態度に、俺は嘆息を吐きつつ再びカップに口を付けた。



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