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出戻り魔術師のセカンドライフ  作者: 無口な社畜
第一章 元王都魔術師隊士の帰郷

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15 人殺し

 ミーシャの家の中に入って最初に感じた感情は“懐かしさ”だった。

 何故かはわからない。

 初めてきた場所だし、当のミーシャの態度があれだったのだから、普通はそんな感情は抱きようがない筈だが……。


「お兄ちゃん?」


 立ち止まり、ふと周りを見渡していた俺にナターシャが声を掛けてくる。

 彼女は既に古びたテーブルに備え付けられた椅子に座ってこちらを見上げており、その対面にミーシャが座っている。

 ナターシャの隣にもう一つ椅子があるからそこに座れと言う事なんだろう。


「ああ、ごめん」


 謝り、椅子に腰かけると、ちょうどミーシャが目に入る構図だった。

 入る前はあれ程恨みの感情が漏れていた人物だ。正直な事を言うと中に入ったらそんな魔力で充満しているかと思ったが、実際にはそんな事は無く落ち着いたものだった。


 ……いや。


 パッと見てそう見えるだけで、彼女の身の回りを包み込むような魔力の膜が見える。色は黒ずんだ赤色。

 この状態の人間には記憶がある。戦場や公式な集まり、特に“あの”北方戦線で見た事のあるある種の拭い取れぬ呪いだ。

 ──覚悟を決めるしかない……な。


「それで? 言い訳? があるんだっけ?」


 何の感情も見えない口調で問いかけるミーシャ。その言葉に俺は頷くと、これまでの事を説明する。

 魔道隊に入ってからは故郷からの手紙が一切届いていなかった事、職務の性質上故郷に戻る事も出来なかった事、最近になって何故か2年前の手紙が手元に届いたため、退役して急いで戻ってきた事だ。

 これは、これまで当たりが強かった故郷の知り合い達が納得した内容と同じだったのだが、ミーシャからの反応は予想に反した……いや、ある意味では予想通りの反応だった。


「ふーん」


 ミーシャは特に興味が無さそうな声を出すと、「それで終わり?」とばかりにこちらを見た後、軽く嘆息して窓の外に目を向ける。

 そんなミーシャの態度に慌てたのは俺よりもナターシャの方だった。


「ふーん……て。お姉ちゃん、それで終わり? お兄ちゃんが帰って来られなかったのは理由があったのがわかったでしょ? だったら……」

「だったら、何?」


 ナターシャの言葉を遮って、ミーシャはナターシャに目を向ける。


「この人を許せって? 別に私はこの人に対して許すような立場に無いと思うけど?」

「何で!? お姉ちゃん凄く怒ってたじゃん! 何で連絡が無いの? って、何で帰って来ないの? って!」


 興奮したナターシャの言葉に、ミーシャは今度はハッキリ落胆したような息を吐いた。


「それはその頃は()()()()がいたからね。でも、今では()()()()はもう死んじゃったから、この人とはもう他人。もう()()でも何でもないのよ」


 ミーシャの言葉に引っかかりを覚える。

 今、ミーシャは何と言った? お母さん……は、ミーシャの母だとしたとしても、俺と兄妹と言ったか? 俺は一人っ子だし、ミーシャとは兄妹の様な関係にすらなった事は無かった。まだ、俺とナターシャの方が兄妹と言われる関係だっただろう。

 それはナターシャも同様だったらしく、絶句した後絞り出す様な声を上げた。


「お、お姉ちゃん……何言ってるの? お姉ちゃんのお母さんとお父さんはあの時の事件で……死んじゃってたじゃん……そのお母さんってもしかして……サリィさんの事?」

「何を言っているの? 私にとっての母はサリィお母さん一人だけよ? あの事件で死んだなんてある訳ないでしょう? ……いえ、ある意味ではあの事件で死んだのも変わらないかもしれないけれど」


 まて、聞きたい部分が増えた。

 ミーシャの両親があの事件で死んだ?

 ミーシャが母さんの娘で、俺と兄妹?

 そんな話は聞いた事が無い。

 だが、ミーシャの目に嘘をついている色は無い。

 むしろ、ようやく強い感情……瞳に強い怒りの色を出して俺を射抜く。


「アレクセイ。貴方が私からの手紙を無視していた理由はわかりました。だけど、それはその魔道隊? とかいう場所に入った後の事でしょう? その前に関してはどう説明するつもり? 私が知りたいのはそこだけ。そんな最近の事は興味がないし、関係ない」


 10年前の事も最近……か。

 これはどうにもこの部屋に入って感じた予想が当たったな。

 最も、当たって欲しくなかった事ではあるけれど。


「そうか。でも、個人的には王都の学園に入ってからはそれなりに連絡していたつもりだが……」

「……だから……。そんな最近の事は関係ないと言っている」


 俺の返答が気に入らなかったのだろう。ミーシャの視線が鋭さを増し、恨みの魔力が陽炎のように立ち上る。が、直ぐに落ち着き再び彼女を覆う膜となった。


 もう駄目だな。手遅れだ。帰ってくるのが遅すぎた……か。


「聞きたいのはこの町から逃げた理由よ。お母さんを殺した……人殺し」


 もう既に、彼女は自分の世界に入り込んでしまった。今後外に出る事は決して無いだろう。



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