13 変化を受け入れるという事
「それで、結局お前はこの町で何をするつもりなんだ?」
俺を脅した後に部屋を出て行ったマーモットさんだったが、少しして料理を手にしたアリーシャさんを引き連れて戻ってきた。
てっきりそのまま3人で話をするのかと思ったが、アリーシャさんは俺に一言謝った後、料理を置いて去っていった。
そして、戻ってきたマーモットさんは片手に2本ずつ、計4本の酒瓶を持っていたので、この会はまだ継続すると悟ったのである。
そんな状況でマーモットさんが口にしたのが最初の言葉だ。
「何を……ですか。最初は母さんの眠りを見守りながらのんびり暮らそうと思ってたんですが、この町の状況を見て考えを変えるべきと思ってます」
「のんびりか。確かに、今のこの町だと難しいな」
完全に都会だもんな。
「ええ。実家ももう無いようですし、生活するために家を購入するにしろ、借りるにしろ、宿で世話になるにしろ金がかかります。それなりの蓄えはありますが、流石にそうなったら一生暮らすには足りない」
「となると、職探しか。あてはあるのか?」
「それが何とも。来たばかりですし。一応、今日行った役所で職を探す時になったら来てくれと言われましたけど」
「役所が?」
「はい。おかしいですか?」
俺的にはハローワーク的な物があるのかと思っていたのだが。
「聞いた事が無いな。だが……たしか、お前王都では魔術師隊にいたと言ったな?」
「言いましたね」
正確には話したのはナターシャに……だけど。
「所属は王国か?」
「王家ですね。『王都魔術師団』とは言われていますが、王都6隊……龍の名を冠する騎士団3隊と、魔術師団3隊は別名ロイヤルガードと呼ばれてます」
そのうち、騎士団1隊、魔術師団1隊が使い捨ての突撃部隊と言うのは言わないでおこう。
「そいつは随分なエリートだな。道理でここの領主が伯爵になる訳だ」
「領主様ですか?」
そう言えば、スキンもそんな事を言っていた。
「そうなると、役所がお前に声を掛けたのも納得だな。優秀な人員を自分の所で囲いたいのだろう」
「断った方がいいですか?」
なんか、ここの役所は伯爵様の管轄じゃないっぽいし。
しかし、マーモットさんはコップの中身を一気に飲み干すと、興味無さそうに手を振った。
「知らん。お前の人生だ。好きにしたらいい」
「そうですか」
まあ、そうだ。
ただ、今までずっと王家に仕えてきて、故郷に戻ってきても雇い主が変わらないのもなんだかな。
「まあ、時間はまだあるしゆっくり考えますよ。とりあえず明日はナターシャと一緒にミーシャの所に行って母さんの事を聞いてくる予定です」
「……何?」
俺の何気ない言葉にマーモットさんの瞳がギラリと光る。
あ、そう言えばついさっきナターシャを泣かせるなって言われたばかりだったな。
「ナターシャは連れて行かない方がいいですか?」
「そんなのはどうでもいい。いくらでも連れていけ。それよりも明日ミーシャに会うのか?」
あ、そっちか。
「ええ。晩年の母さんの面倒を見ていたのはミーシャなんですよね? なら、お礼も兼ねて会わないと」
それは最低限の礼儀だろう。特に、手紙を無視していたと思われていた誤解を解きたいという思いもある。
「……そうか。そう言えばそうだったな」
マーモットさんはコップをテーブルに置くと腕を組み、考え込んでしまう。
何だろう? ミーシャに何か問題でもあるのだろうか?
「アレク。お前、今回この町に帰ってきてどう思った?」
ん? 予想していない質問がきたな。
「どうも何も、『ここはどこだ?』って感じましたよ。少なくとも、俺の知っている故郷じゃなかったから」
「そうだな。お前はガキの頃に逃げてから初めて帰って来た。そう思うのも当然だ」
だから、一々棘があるんだよな。俺の過去に対する古い知人たちの俺に対する評価が。
「だがなアレク。長い時間が経って変わるのは町だけだと思うか? スキンは? ナターシャは? お前はあいつらと初めて会った時にどう思った」
成程、そういう事か。何となくマーモットさんの言いたい事がわかったな。
「『誰だこいつ?』とは思いましたね。でも、よくよく話してみたらあまり変わりありませんでしたけど」
「それは良かったな。お前はあいつらと先に会って幸運だった」
「そうですか。個人的には間違ったと思ってたんですが、正解だったんですね」
間違ったと思ったのはミーシャと会う事を後回しにしてしまった事だ。
「ミーシャとは恐らくまともに話せまい。時間も余るだろうし明日はグローリィにでも会ってこい」
「グローリィ叔父さんですか?」
母さんの弟であり、今では俺のたった一人の肉親だ。
「ああ。あいつも大概面倒くさい奴だが、ミーシャよりはましだ。領主とも繋がりもあるようだし、甥のよしみで紹介でもしてもらえ」
「大丈夫ですかね。俺、今の所知り合い全員に罵倒されてるんですけど……」
恐らく、マーモットさんの態度からするにミーシャもだろう。
「平気だろ。あいつは良くも悪くも自分にしか興味が無い。サリィに思い入れが強かった奴ほどお前に対する拒絶感が強いだけだ。あいつはサリィの弟ではあったが、姉には興味が無かったからな。問題ない」
個人的には問題しかない気がするが……。それでも、確かに現状では一番話せるタイプの人かもしれない……か。
「わかりました。ミーシャがダメだったらそうします」
「ダメに決まってるだろ」
だから決めつけないで欲しい。
俺は目の前のコップの中身を一気に飲み干すと、説得に全力を尽くすと決めた。




