09 常にクイズの出題を受けているようだ
問1 目の前の少女の名前を答えよ
現状を例えると俺の脳内はこんな感じなんだが、制限時間がある分どちらかと言うとクイズが近い。
さて、俺の記憶の中の少女を検索する。
目の前の少女の年齢は多分10代後半。多く見積もっても20台前半だろう。
そして、俺が故郷を飛び出したのが15年前。そう考えると、当時4歳から多く見積もっても8歳位の女の子? いや、わかるか! いくら何でも成長が過ぎる!
「……アレ?」
さっき迄笑顔だった少女だけど、俺の反応が薄かったのが不思議だったのか、首を傾げた後両手を広げた。何だ? ハグでもしろとでも?
カチカチと制限時間の針の音が頭の中から聞こえる気がする。
やがて、痺れを切らしたのか、少女はスキンの顔を見上げ、次に俺の顔を見る。やがて再びスキンの顔を見た後にみるみる顔に赤みがさして、鋭い目つきで俺を見た。
「酷い! 私の事忘れてるんだ! お姉ちゃんが言っていた通りだ!」
怒った。
いや、ヒントが出たな。
お姉ちゃんと言ったか?
俺の記憶の中に幼い姉妹はいただろうか……?
いや、思い出せない。
「ねえスキンさん! どういう事!? お兄ちゃんが──」
「それ位でいいだろう」
お兄ちゃん? 俺の事か?
はて、俺は一人っ子だが、どこかで聞いた事が……。
「こいつは帰って来たばかりで宿泊先を探している。ここは宿屋でもあるだろう? 世話してやれ。仕事だろう」
「……くぅ。一名様……宿泊ですね。こちらへどうぞ!」
色々と納得はいっていない筈だが、呑み込んで先に立って歩きだした。
さっきまでの言動からは予想できない変貌ぶりは流石プロだが、全身に赤い魔力が噴き出しているから相当怒っているのがわかる。
「スキンさん」
ふと、歩きながら少女が呼んだのは、帰ろうとしていたスキンだ。
「晩御飯。まだ食べてませんよね? 折角だから食べて言って下さい」
「いや、俺は……」
「スキンさんも色々聞きたい事はあるんじゃないですか? お兄ちゃんが“逃げちゃってから”色々あったし」
うん? 間違ってはいないけどやたら棘がありますね。
「……そうだな。ごちそうになろう」
そして、納得してしまうスキン。特に魔力の色に変化はないから、俺や少女に気を使ったと思いたい。
「では、こちらへどうぞ」
歩みを止めず、先に進む俺達。
食堂から外れて通路に入ると、恐らく宿屋の物だろう。カウンターが見えて来たが、その前を通り過ぎて最も奥にあった扉を開けた。
「では、中で座ってお待ちください」
言い残し、さっさと戻ってしまった少女。
その後ろ姿を何となく眺めていた俺だったが、ふと、あのへそを曲げた態度が一人の少女の姿と被った。
「…………ナターシャ?」
「酷いな。お前」
俺の横を通り過ぎ、部屋の隅で鎧を外し始めたスキンの苦言。
「どうしてあのタイミングじゃなくていなくなってから思い出すんだ」
「仕方ないだろ。いくら何でも変わりすぎだ」
俺の記憶の中のナターシャは幼女だぞ。流石に成長している姿としっかりとした受け答えしている態度と乖離が凄まじすぎるわ。
「それに、早く答えろってプレッシャーが凄くて余計思い出すどころじゃなかったよ」
「確かにな。落ち着いたから思い出せたか」
スキンが椅子に座ったので俺もその隣に座る。
「それに、俺の記憶のナターシャの実家は宿屋じゃなかった」
「食堂だったな。だが、食堂も兼ねてただろう」
兼ねてたな。
だが、スキンから最初に与えられた情報は宿屋だった。
「まさかワザとじゃないよな?」
「何の事だ?」
ヒントを小出しにしている事に対する疑惑だったが、スキンは不思議そうに眉を寄せるだけ。本人にややこしくした自覚は無いのだろう。
「……まあいいや。顔を見て思い出せなかった俺が悪い」
「そうだな。反省しろ」
こいつムカつくな。
筋肉は肥大化したのに、答え方が頭でっかちだった昔のままだ。根が変わっていない事はわかったが、それだけに騎士になった事に疑問を感じる。
「あら。本当に帰って来たのね」
そんな感じで落ち着いた頃、ドアを開けて入って来たのはナターシャが成長したらこうなるんだろうと思わせる容姿の中年女性。
さて。
俺にとってのクイズの出題はまだまだ続くようだ。
最も、今回の問題はさっきの問題に比べればサービス問題ではあったが。
……心底、問題の順番を逆にして欲しかったと心から思う。




