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『水音の向こう』

これは、ある友人が体験した話です。


彼は大学時代、地方の古びたアパートで一人暮らしをしていました。家賃が安くて、駅から近い。部屋も広かった。ただ一点、妙な噂がある物件でした。


「その部屋、夜中になると水の音がするんだって」


最初は気にもとめなかったそうです。


住み始めて数日は何も起きませんでした。ただ、一週間ほど過ぎたある夜、寝ているとキッチンから水が滴る音が聞こえたといいます。


「ポタ……ポタ……って、蛇口の締め忘れかと思ったんだ」


でも確認すると、蛇口はきちんと締まっていた。それでも音は続く。


奇妙なのは、音のする場所が毎晩変わることでした。キッチンの次はトイレ、その次は風呂場――そして、ある夜からは、寝室の天井から水音がしたそうです。


「その日、寝てると顔に水がポタッと落ちたんだ。びっくりして起きたら、布団が濡れてて」


見上げると天井に、ぽつんと黒い染みができていました。


管理会社に連絡して天井裏を調べてもらったところ、「何も異常はない」と言われたそうです。水漏れも配管トラブルもなし。


「でもその日から、水の音が真上からずっと聞こえるようになったんだよね。毎晩、毎晩……寝れたもんじゃない」


ある晩、ついに我慢の限界が来て、録音機を天井に向けて一晩置いてみたそうです。朝になり、再生してみると、そこには水の滴る音に混じって、かすかに……人の声のようなものが入っていました。


【……ここ、苦しい…… でられない……】


「ゾッとした。すぐに引っ越そうと思った」


荷造りを始めていたとき、クローゼットの奥に、小さなフタのようなものを見つけました。天井裏への点検口。試しに開けてスマホで写真を撮ってみたそうです。


そこには――


布団にくるまったまま、うつ伏せに倒れた女の人の背中が写っていました。


もちろん、点検口を開けても誰もいなかった。


翌朝、彼は部屋を出て実家に戻りました。


その後、あの部屋にはしばらく誰も入らず、やがて取り壊されてしまったそうです。


ただ、取り壊しの直前、最後に部屋を見に行ったとき――

誰もいないはずの風呂場から、ポタ……ポタ……と水の音がしたそうです。

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