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気だるいスピ令嬢、婚約者が大聖者の生まれ変わりだと信じ込んで好き放題し始めたので真実を教えてあげることにしました

作者: スズイチ



「なぁ、リリーネ。俺さぁ〜高名な大聖者の生まれ変わりらしいんだわ」

 

「……はい?」


 ――お昼休みに婚約者のバート様と学園のカフェテリアで昼食をいただいていたら、突然こんな言葉を落とされる。

 ゆっくりと瞬き繰り返す私を気にかけることなく、彼は話を続けた。


「昨日、たまたま街で有名な占い師に見てもらったんだよ。そしたら、そんなこと言われてさぁ〜しかもその大聖者が守護霊もしてくれてるらしくて、それのお陰で俺にもめちゃくちゃ霊能力があるとかって言われてさぁ〜。で、なんか俺それ言われてから急に他人の前世とか分かるようになっちゃったワケ。能力が開花しちゃったってやつ? せっかくだし、お前も見てやるよ」


 バート様がこちらに手をかざして、うにゃうにゃと唸り始める。……何でしょう、この時間。


「あ〜……あれだな、人を二百人くらい喰い殺したクマ?」


 ……もしかして喧嘩を売られているのでしょうか? まあ仮に売られていたとしても、面倒なので買うつもりはありませんが。


「へぇ……お強そうですね」


 ぼんやりした表情のまま伝えると、バート様は不満気に唇を尖らせる。


「何だよ、それ。大聖者様の生まれ変わりの俺が視てやったんだぞ? もっと有り難がれよな」


「はぁ……ありがとうございます」


「あ〜……もういいよ。お前ってホントつまんないよな」


 そう言うと、残りの昼食を一気に食べて先にカフェテリア出て行ってしまいました。


「(大聖者の生まれ変わりですか……また奇妙なことを言い始めましたねぇ……)」


 私は小さく息を吐くと、害のないうちは放っておこうと考えた。面倒なので。


 ◇


「バートさん、大聖者様の生まれ変わりなんですって!」

「すごーい! あの有名な占い師に言われたのでしょう?」

「絶対に本物ですわ! お願いすれば銀貨二枚で前世や守護霊なんかを視てくれるそうでしてよ」

「まあ、わたくし視てもらおうかしら!」


 ……何でしょう、この状況。あの方、まさか学園内で商売をし始めたのですか?

 皆さんも〝俺、大聖者様の生まれ変わりなんだ!〟とか聞かされて、引いたりしないんですか?

 それだけ、噂の占い師の人気が高いということなのでしょうか……。


 問題にならなければいいのですが……まぁ、面倒なので放っておきましょう。


 

 ――そうやって、放っておいてしまった結果。


 

「悪いな、リリーネ。俺、運命の相手と再会しちゃったんだ」

 

「……はい?」


 人気の少ない中庭の奥に呼び出されたかと思えば、見知らぬ女子生徒の肩を組んで現れたバート様。


「俺たち二人は前世で恋人同士だったんだ。けど、身分の違いから結ばれることはなかった……だから、俺らは前世で約束したんだ……次に生まれ変わる時は絶対に一緒になろうって……なぁ、アプアラ?」


「そうなんですぅ! 私たち前世で運命の恋をしたの。でも、結ばれることは出来なくてぇ……だから、今世では絶対一緒にならなきゃいけないの……お願いリリーネ先輩、身を引いて? 私にバート様を返してください!」


 ――私は今、何を見せられているのでしょうか? 何ですか、この茶番?


「婚約破棄は別に構いませんが、家には何て報告するおつもりなんですか?」


「構わないのかよ……ほんっと、可愛気ないのな。あー……それで家に報告? そうだなぁ、お前に悪魔が憑いていたとかはどうだ?」


「…………は?」


「それか、お前が浮気したとか……これだと弱いか? ……なんかヤバい事件を起こすとか……あ、誰かと駆け落ちとかでもいいぞ!」


「……あなた、何を言って……」


「俺らのために悪役になってくれよ、リリーネ。全部お前が悪いってことにして、婚約破棄してほしいんだ」


 開いた口が塞がらないとは、このことでしょうか。あまりにも身勝手な言い分に絶句する。


「ねぇ〜思いついたんだけどぉ、私がリリーネ先輩に襲われたことにするのはどうかなぁ?」


「お、いいじゃん! さすがアプアラ。んじゃ服刻んどくか? ケガは……ペンで傷でも書いとくか!」


 ダメです……あまりにも酷い言い分に思考が付いて行っていません。しっかりしなくては。


「――お聞きしたいのですが、私が〝はい、どうぞ〟なんて言うと思っているのですか?」


 きゃっきゃっと、はしゃいでいた二人の視線がこちらに移る。


「思ってねぇよ。けど、お前も知ってるだろ、今の俺の人気ぶり。何にも持ってねぇお前と、大聖者様の生まれ変わりの俺。みんな、どっちのことを信じると思う? しかもアプアラが被害にあったなんてことになれば満場一致で誰もが俺の味方になるに決まってる。お前も運命に引き裂かれた俺らの役に立てるんだからいいだろ?」


「見て見てぇ、バート様ぁ。服破いてみたぁ〜! いっそ、リリーネ先輩の雇った男に襲われたぁとか言ってみるぅ?」


「ははっ、面白いじゃん! こいつのこと、どん底まで叩き落としてやろうぜ!」


「…………はぁ」


 最低な言い分に、溜め息が漏れる。

 あー……面倒ですね……本当に、面倒ですが、このままでは悪者に仕立て上げられてしまいます。


「――オルゼさん」


 私は自分の斜め後ろを見ながら声を掛ける。


「すみませんが、協力してください」


 斜め後ろで浮いている真っ白な美しい男性がジト目で睨んでくるのを無視して、左手を真横に差し出すと、男性――オルゼさんが不服そうに私の掌の上に手を重ねた。

 これは、私の身体を彼に貸すための合図だ。


「……リリーネ、お前……髪の色が変わってないか?」


 オルゼさんが憑依したことによって、私の黒い髪の毛は白髪に変わり、意識も半分になってしまう。私の中に入ったオルゼさんが面倒くさそうに溜め息を吐いたあと、高圧的な態度を見せる。


『小僧、頭が高いな。こうべを垂れよ』


「――っ、リリ……」


『聞こえなかったか? こうべを垂れろ』


「……っ……ぁ……は、い……」


 バート様がオルゼさんの圧に負けて頭を下げる。


「(すみません、オルゼさん。彼の本当の守護霊や前世を視てもらえますか?)」


 オルゼさんがダルそうに髪をかき上げると、すっと目を細める、


『確か、こいつ大聖者の生まれ変わりで守護霊も同じだったか? ――お前に憑いているのは、お前の家の四代前の当主だ。バカ者が、恥を知れ』


「……え?」


『お前のこれまでの態度を酷く恥じているぞ。哀れなものだ。子孫がバカだと死後も嘆く羽目になるのか……最悪だな』


 バート様を一瞥すると吐き捨てるように言う。私もバート様の後ろを注視してみると、嘆いている中老の男性が視えた。目が合うと申し訳なさそうに頭を下げられてしまう。

 オルゼさんが憑依しているお陰で、私もこうやって視ることのできる状態になっている。


「そ、そんなワケ……」


『生まれ変わりも大聖者などでは無い。そこの娘とも何の因縁もないはずだが? 大方、二人で盛り上がって勝手に作った設定だろう。往々にして良くあることだ』


 私の変わりように困惑しながらも、腹が立ったのかバート様がこちらを睨みつけくる。

 まあ見た目が私なだけで、今この身体を動かしているのはオルゼさんなのですが。


「……っ、なんだよ、それ! 何でお前にそんなことが分かるんだよ!?」


『なぜ? それは俺がこの国を支える一柱ひとはしらだからだ』


 それ言ってしまうんですね……と思いながらバートさんの反応を見ていると、彼は眉を顰めたあと吹き出した。


「……ぷっ。あっはは! 何言ってんだ、お前? この国を支える一柱? 神様か精霊にでもなったつもりかよ! なぁ、アプアラ……」


 声を掛けられたお嬢さんの方を見ると、ガタガタと震えていた。


「お、おい、どうしたんだよ?」


「そ、その人の言ってること本当だと思う……怖いよぉ……寒気が止まんないぃ……」


「……はあ? お前まで、何言って……」


「なんで分かんないのぉ!? おかしいんじゃないの!? 怖い怖い怖い怖い怖い……その人、私たちみたいなのが逆らっちゃあ絶対ダメなやつだよぉ……」


 このお嬢さん、意外と敏感な体質みたいですね。まあ、バート様が鈍すぎるだけなのかもしれませんが……。


「……っ……意味分かんねぇ……どいつもこいつも気分悪ぃな……俺はなぁ高貴で完璧な魂の生まれ変わりなんだよ! 頭が高いのはお前の方だろうが!!」


 こちらに向かって叫ぶバート様に、オルゼさんが鼻で笑う。


『ほう?』


「だいたい、お前みたいな感情の欠落したつまんねぇ女と婚約なんて死ぬほど嫌だったんだよ! いっつも淡々としてて気味悪ぃ! 折角この俺が面白い話しをしてやっても、何の反応も返さねぇくせに! 見てくれが良いだけの、下らねぇ女なんだよお前は! それが、偉そうに何なんだよ! 何様のつもりなんだ、あぁ!?」


 酷いことを言われていますねぇ……。ところで、面白い話とは日頃聞かされている自慢話のことでしょうか?


『そうか、そうか』


 オルゼさんが笑いながら、一歩前へ踏み出す。


『分かるぞ、小僧。確かに、この娘は感情に乏しく面白味に欠けている。それに、都合の良い時ばかり俺に頼って来るようなろくでもないヤツだ』


 バート様もですが、オルゼさんも散々な言い様ですね……まあ、構いませんが。

 少しだけ落ち込んでいると、オルゼさんがバート様の目の前まで行き片手で顔を掴む。本来の私では考えられないような力の強さだ。


「……あっ……が……っ……」


『だがな、お前のような小者に貶められる謂れはない』


 手に力を込めながら、オルゼさんがバート様を睨みつける。


「いっ……ひゃい……ッ、……やぇ……」


『二度と俺の前でこの娘を侮辱するな』


「……ごっ……ごぇんなさ……っ……」


『さて、どうしてくれようか。このまま顎を砕こうか。それとも、全ての歯を折ってしまおうか。目玉を抉るのもいいな』


 ……どうしましょう。オルゼさんなら本気でやりかねないと、さすがに少し慌てる。


「(……オルゼさん、さすがにそれは……)」


『なんだ、お前がやりたいのか? ならば、身体を返してやる。好きにしろ』


「(あ、あの……!)」


 オルゼさんが私から、スッと出て行く。真っ白だった髪の毛が黒髪に戻るのが見えて、どうしたものかと考える。

 手を離されたバート様が、べちゃりと地面に座り込むのを見て、暫し考え込む。

 確かに、さんざん酷いことを言われましたし、悪役に仕立てあげられそうにもなりましたし、大聖者の生まれ変わりを信じ込んで皆さんを騙していましたし……面倒ですが、ここは一つやっておくべきでしょうか。


「……バート様、すみませんが立ってもらえますか?」


「……ふぇ?」


「立ってもらえますか?」


「……ひゃ、ひゃい……」


 怖々と立ち上がるバート様。小鹿のような様子に憐れみを感じなくもないですが、先ほどまでの態度を思い出して同情の余地はないと息を吐く。


「行きますね、せーの……っ」


 私は、バート様の股間を思い切り蹴り上げた。


「――おぐぅ……っ!?」


「確かに私は感情の起伏が薄く、つまらない人間かもしれませんが、貴方のように自分は大聖者の生まれ変わりなとどと言ってお金をせしめたり、運命の相手と再会したなとどと言って浮気をしたり、邪魔者になった婚約者を悪者に仕立て上げようとするようなクズよりずっとマシだと思います。ここまでゲスなことをしておいて、ご自分は大聖者の生まれ変わりなどと、よく信じられますね。少しは、ご自分の行動や言動を振り返ってみてはいかがですか?」


 長く喋ったこたとで疲れてしまい息を吐く。

 思い切り急所を蹴り上げてしまいましたが、浮気をするような方にはこれが一番いいでしょう。顎を砕かれたり、目玉を抉られてしまうよりかは、ずっとマシなはずです。

 そう思っていたのですが、股間を押さえながら地面にうずくまるバート様を見て、もしかしたらこれはこれで問題だったのかもしれないと考えていた時――。


「――素晴らしい蹴りだね、リリーネ嬢」


 突然、この場に似つかわしくない品のある爽やかな声が落ちてきた。全員が振り返ると、我が国の王子であり学園の生徒会長でもあるセルジュ様が拍手をしながら、こちらに歩いて来る。


「(……悪役みたいな登場の仕方ですね)」


 そんなことを思いながら、王子に声を掛ける。


「……セルジュ様。なぜ、こんな場所に?」

 

「バート・フォーグラーくんに、話しがあって来たんだ。中庭の方に向かったと聞いてね」


 そう言うと地面でうずくまっているバート様の前に行き、屈んで目線を合わせるセルジュ王子。


「ねぇ、フォーグラーくん。君、学園で商売をしているよね?」


「……ぁ……っ……う……?」


 セルジュ王子がにこりと微笑む。


「最初のうちは見逃してあげようと思っていたんだ、学園には娯楽が少ないからね。多少の目溢しは……ね?」


 王子は目を細め、笑顔のまま話しを続ける。


「大人気だそうだね、君の霊視鑑定。最初は銀貨二枚程度で視ていたのが、今では金貨一枚なんだって? 凄いね、大したものだよ。――でも、それ……詐欺だよね?」


 バート様の喉がひゅっと鳴るのを見て、思わず同情しそうになってしまった。


「……ち、ちが……詐欺なんかじゃ……」


「君、実際は何も視えていないよね? 聞こえてもいない。適当に思いついたことを〝降りて来た〟って思い込んで、喋っているだけなんじゃない?」


 首を傾けると王子の金糸のような髪の毛が、さらりと流れる。


「そ、そんなこと……」


「ああそうだ、君に大聖者の生まれ変わりだとか言った占い師だけど、どうやら夜逃げしたみたいだよ。随分と人気があったそうだけど、その反面かなり怨みを買っていたみたいでね。訴えられそうになって、逃げ出したらしい。最後に〝あんなのはエンタメで、退屈な日常へのスパイス。本人たちも喜んでいたんだし別にいいでしょ〟と、言っていたそうだよ」


「……そん、な……」


「……やはり、そうだったんですね」


 思わず口に出して呟くと、王子の視線がこちらに移り小さく頷いてくれる。

 

「生徒会長としては、これ以上見逃すことは出来なくてね。金銭のやり取りを行った生徒たちに全額返金すること。あとは、一ヶ月の謹慎処分。これが出来たら、訴えるのは無しにしてあげるよ」


 セルジュ王子の言葉に項垂れるバート様。

 

「それと、先ほどのやり取りを少しだけ聞かせてもらったよ。――君のお望み通り、リリーネ嬢との婚約を解消してもらう」


「……は……え? なん、で……?」


「君たちのしたことは立派な恫喝だよ。これについての処分は追々考えるとして……フォーグラー家には期待していたんだけどね。数代前までのご当主たちの活躍は素晴らしいものだったと聞いていたのに……非常に残念だ」


 セルジュ王子が立ち上がると、こちらに向かって来られる。


「……なんだか、セルジュ様が全て解決してくれちゃいましたね」


 私の言葉に、オルゼさんが少しだけ身体を貸せと言って入って来る。黒髪が真っ白になるのを見てセルジュ王子が目を輝かせていた。

 

『――けっきょく俺の出る幕などなかったではないか。お前がさっさと出て来て、話をつければ良かっただろう、セルジュ』


 オルゼさんの言葉に眉尻を下げるセルジュ王子。

 

「すみません、オルゼリオン様」


 微苦笑する王子から出た名前を聞いて、お嬢さんがばっと勢い良く顔を上げる。


「おっ、オルゼリオンって、お城のステンドグラスに描かれてる大精霊のお一人じゃ……」


「へぇ、良く知っているね。そうだよ、オルゼリオン様はこの国を守護してくれている大精霊だ」


 その言葉に、バート様とお嬢さんが青褪める。


「な、何でそんな人が……? リリーネとどんな関係があるんだ……?」


「それを君に説明する義務はないよ」


 ピシャリと言い切る王子にバート様は押し黙ってしまう。


 まあ……話すわけにはいきませんよね、と小さく息を吐く。

 我がエッケンバーグ家は、公にはされていないが、王家に仕える家系の一つだ。これまで王家を霊的に支えてきたのが、エッケンバーグ家なのである。オルゼさん……オルゼリオン様は数年前までは、お祖母様に憑いていたのですが、今は私に憑いてくれていて必要な時に手助けをしてくれています。


「二人共、このことは内密にね。もし喋るようなことがあれば、それなりの対応を取らせてもらうから」


「「は、はい……」」


 口元に人差し指を当てて目を細めるセルジュ王子に、二人は大人しく頷く。


『――俺も、もう戻るぞ』


 オルゼさんが私から完全に出て行き、髪の色が黒髪に戻り意識が全て自分のものになる。


「――お世話になりました、オルゼさん。お礼に好物のリンゴをたくさんご用意しますので」


『そんな物より、今後はつまらんことで俺の手を煩わせるな』


「……善処します」


 オルゼさんは、ふんっとそっぽを向きながら私の背後に来ると姿を消す。

 その様子を見て小さく笑うと、バート様に振り返る。


「……バート様」


 声を掛けると、彼の肩が分かりやすく揺れた。


「そういうわけでして、婚約は解消されるそうです。そちらのお嬢さんとどうぞお幸せに」


「い、いや、リリーネ、俺は……」


「では、これで失礼します」


「一緒に行こうか、リリーネ嬢」


「はい」

 

「な、なぁ、待ってくれよ、リリーネ……っ! 話しを……リリーネっ!」


 どんなに呼び止められようと、私は振り返ることなくセルジュ王子とこの場を去って行きました。


 ◇


 ――その後。

 バート様は霊視した人たち全員に謝罪と返金をして回り、一ヶ月間の謹慎期間が解けたあとも、学校に来ることはありませんでした。随分と非難されていた様子なので仕方ないのかもしれません。

 アプアラさんも、未遂とはいえバート様と二人で私を脅したことへの処分として、反省文と三日間の謹慎が言い渡されました。それが学園中にバレてしまい、現在は針のむしろ状態だそうです。


 ◇


 学園の噴水近くのベンチに座り、一人で昼食をいただきながら空を見上げる。

 高く澄んだ空と流れる雲を見つめながら、ほっと息を吐く。


「……私、自由なんですね。もうあの方とお昼を食べることも、自慢話を聞かされることも、つまらない人間だと貶められることも……面倒なことが一切無くなるんですね……」


「嬉しそうだね、リリーネ嬢」


 声を掛けられたので振り返ると、セルジュ王子がいた。


「セルジュ様。はい、今はとても心が軽いです」


「そっか。それは、良かった。ところで婚約を解消したんだし、今度は僕の婚約者にならないかい?」


 王子の言葉に、絶対に嫌だと目が据わってしまう。


「遠慮しておきます。王家なんて面倒すぎます」


 私の返事にセルジュ王子が首をゆっくりと傾ける。金色の髪がさらりとなびく様が酷く美しい。


「そう……残念。僕は、こんなにも君を欲しているのになぁ」


「セルジュ様が欲しいのは、私ではなくオルゼさんなのでは?」


「うん? 僕は二人とも欲しいと思っているよ?」 


「(なんか私、また面倒な方に絡まれていませんか……?)」


 にこにこと掴めない笑顔の王子から目を逸らすと、もう面倒なのはご免だと空を仰ぎ見ながら昼食を再開するのであった。





最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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