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08

「桐生さん」

「ん? なに?」

「あのとき、所長が言っていたことが、少しだけわかったような気がします」

「うん?」

「憧れだけで、きれいごとだけで続けられるものじゃないってことですよね」


 今ならわかる。もう嫌になった? と。桐生さんがあの場面であえて聞いてくれたことも、きっと同じ理由だったのだろう、と。


「うん。まぁね。僕らは、キラキラした瞳でライセンスを取得した新人が、夢破れて崩れていくところを何人も見てる。特に、フジコちゃんみたいなお家の子やとね」


 どこか苦笑めいた調子で、桐生さんが言う。


「僕らは、ある意味で、生まれたときから『鬼狩り』の世界の嫌なところを見とるから、慣れてんねんけど。フジコちゃんたちは違う。それだけじゃ続けていかれへん」

「……はい」

「でも、それがなくても続けていかれへん」


 にこ、と桐生さんが笑った。


「難しいね」


 きっと、あたしなんかにはまだまだわからない難しさを、桐生さんも所長も経験してきたんだろう。だから、けれど。あたしに言えるのは一つだけだ。


「頑張ります」


 笑ってみせたあたしに、一拍置いて、桐生さんは言葉を継いだ。


「ちなみにね、この事務所は蒼くんの叔父さんから蒼くんが受け継いだ大事な事務所で、蒼くんはここをほんまにすごく大事にしていて」

「……え?」

「そして、蒼くんは、この仕事に誇りを持ってる」


 誇り。鬼狩りとしての。ふわふわと「憧れている」と言ったあたしに所長が苛立ったように見えたのは、あたしがそのプライドに無遠慮に触れてしまった所為もあったのかもしれない。


「たぶん、この国で一番真摯に、この仕事に向き合ってる人やと、僕は思う」


 静かに言い切った桐生さんの瞳も声も優しくて、嬉しくなる。ふたりとも優しい。優しくて、誠実で、とても素敵な人だ。この人たちと一緒に仕事ができるあたしの幸運をどう言えばいいのかわからないほどに。


「そういう意味で言えば、フジコちゃんはやっぱり、めっちゃラッキーやで。ここに配属されてよかったやん」

「そう、思います」


 心の底から自然と笑って、あたしはパソコンを閉じた。


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