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「ちょっと、紅! いい加減にしなさいよ、あんた」
迫力のある黒髪のショートボブの美女である。引き連れてきた一団を被疑者のほうに向かわせるなり、ヒールをツカツカと鳴らしながら、一直線の所長の前までやってきて、ぴしりと指先を突き付ける。
初遭遇の本部の美人に、あたしは度肝を抜かれて慄いた。
怖い。みっちゃんも美人なだけに怒ると怖いなぁと感じるけれど、その十倍くらい怖い。
自称Bカップのあたしとしては、嫉妬を通り越して最早、羨望レベルの胸がスーツの下でゆさゆさと揺れている。大変エロい系の美女だ。
「あんた、また性懲りもなく、B+をこいつとそこの研修生のふたりでやらせたでしょう」
「俺がここにいるだろう」
「あんたの痕跡は規格外なんだから。確認したら、すぐにわかることよ。あんたが実際に参加したかどうかなんて」
「特Aがふたりもチームにいるんだ。なんの問題もないだろう。俺が手を出さなくとも、桐生ひとりでなんとでもなったということだ」
「さすが特Aは言うことが違うわね」
「Aのおまえとは能力値が違うんだ。特Aだからな」
迫力満点の美女も怖いけれど、迎え撃つ所長も怖い。いつもと雰囲気が違う気がする。気のせいではなく。
あたしは所長の傍から一歩退いて、我関せずの桐生さんに囁いた。
「な、なんですか。あの人。……所長が怖いんですけど」
「蒼くんの大嫌いな本部の一人目。これでわかったやろ、フジコちゃん。自分が蒼くんに全然キツく当たられてなんてなかったんやって」
「……はい」
端的に告げられた事実に、あたしは頷いた。
良くも悪くも、あそこまでの感情をあたしは向けられていない。
……って、いや。職場の関係なんだから、それが当たり前だ。
湧いたもやもやを打ち消すように言い聞かせていると、美女の矛先が桐生さんに向いた。
「あんたもよ、そこのチャラ男! B+を相手にするのに、よりにもよって研修生を引きつれたまま応戦するとか信じられない」
「えー、結果オーライやん。それに蒼くんが言った通り、蒼くんもおったんやから」
所長と違って桐生さんは至っていつも通りの口調だったけれど、美女はフンと鼻を鳴らした。
「あんたたちって、本当に信用ならない」
「ひどいなぁ、そんなに胡散臭い? 僕ら」
「その自分たち以外を信用してないって態度が信用できないのよ。特Aだがなんだか知らないけど、規則は守るためにあるってわかってる?」
確かに規則的には間違いなくグレーゾーンだったのだろうなぁとあたしはこくこくと頷いた。あたしに言われたわけではなかっただろうけれど。
桐生さんいわくの「だって、鬼が向かってきたんやから仕方ないやん。そもそもランクBって通知した本部が諸悪の根源なんやし。だからセーフ」というあれは、ある意味で桐生さんで、全員が無事だったからこそ言える台詞だ。
「そもそも何度も言っていると思うけど、二つ名で呼び合いなさいよ。せめて現場では。いい年をして、なにが『蒼くん』よ。あんたもよ、紅。『桐生』ってこの世界に桐生姓が何人いると思ってるのよ。ちゃんと二つ名で呼びなさい。なんのための二つ名よ」
「まぁ、まぁ。あんなの迷信やんか」
「規則は! あんたたち現場の人間を守るためにあるのよ、一応ね!」
話にならないとばかりに首を振ったその人の勝気な瞳が、次に捉えたのはあたしだった。




