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07

「パパ」


 頼りない声に、あたしははっと我に返った。見せてはいけなかった。連れて来ては、いけなかった。


「リュウくん」

「パパ、パパ!」


 ハヤギ・リュウトは動かない。けれど、「鬼」の姿のままだ。


「フジコちゃん。それが子ども?」

「そうです! 子どもです、リュウくんです!」


 桐生さんの問いに、あたしは叫び返した。子どもだ。あたしがあたしの私情で連れ込んだ。だから、という甘えが、もしかしたら潜んでいたかもしれない。けれど、返ってきたのは淡々とした応えで。


「鬼やで、子どもでも」

「っ、でも!」


 腕のなかでリュウくんがしゃにむに動き出した。暴れているからなのか、重さがひどく増した感覚を覚え、抱える力を強くする。


「パパ、パパ! パパ、起きて!」


 必死の声にも、ハヤギ・リュウトはぴくりとも動かない。

 ……いや、でも、死んではない……んだよね。

 桐生さんの言を信じるならば、だけど。


「フジコちゃん、離し、それ」


 桐生さんの声に、あたしはびくりとリュウくんに視線を落とした。腕のなかで、リュウくんの幼くどこか柔らかかった身体つきが、硬く変化し始めている。


「リュウ、くん」


 そうだ。見た目は子どもでも、この子は「鬼」の――。

 クロスボウを投げ捨て、あたしは両手で抱きかかえた。離すわけには、いかない。絶対にいかない。


「いいから、離し。フジコちゃんじゃ無理や、それは」

「で、でも!」


 また同じ言葉を叫んで、あたしはとうとう膝を折った。


 ――っ、腕が……。


「リュウくん! お願い、落ち着いて!」


 それがお為ごかしにもならないとわかっていても。そう言うことしかできなかった。あたしを信じて、この子はここに来てくれたのに。


「パパ!」


 あたしの腕から抜け出して、小さな身体が走り出す。後ろに倒れ込んでしまった体勢から急いで起き上がる。けれど、もう既に距離が開いている。向かって行くのは、父親のところだ。桐生さんのところだ。ハヤギ・リュウトのほうを向いていた切っ先が変わる。


「止めて下さい、斬らないで!」


 その子は。あたしが連れ込んだ子どもで。まだ、ほんの小さな子どもで。お父さんが殺されるところを見せたくなかったのは、あたしのエゴだ。


「桐生さん!」


 あの日の自分に重ね合わせた、あたしの勝手だ。


「パパを苛めるな!」


 リュウくんが叫ぶ。間に合わない。間に割って入ろうとした腕を掴まれたと思った次の瞬間。身体が宙に浮いて、世界が白んだ。


「っ、い……た……」


 なんとか足から着地できたけれど、ピリピリとした衝撃を肌に感じて、小さく呻く。噴煙で一メートル先も見えない。床を弄った指の先がクロスボウに触れて、元いた場所に飛ばされたのだと悟った。


 ――今、あたし、突き飛ばされた……よね。


 そうでなければ、たぶん、あたしは爆発の中心にいたはずで。突き飛ばしてくれたのは、間違いなく桐生さんで。


「桐生、さん……?」


 爆風に咳き込みながら、あたしは喘いだ。あたしが無事にここにいるということは、桐生さんはどこにいるの。不安を呑み込んで立ち上がる。


「桐生さん!」


 クロスボウを握りしめて、叫ぶ。けれど、返事はない。一歩足を踏み出す。大丈夫、身体はどこも痛まない。でも、じゃあ、桐生さんは? リュウくんは?


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