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 あたしの人生が変わった夜。最後に覚えているのは、彼の声だ。赤と青。二つの色しか映さなかった視界に、影が落ちる。彼があたしの前で膝を着いたのだ。


「間に合わなくて、すまない」


 そう言って、「鬼狩り」は幼いあたしよりもずっと悲壮な声で頭を下げた。なんで彼がそんな声を出すのかわからなかった。いなくなったのはあたしの家族で彼の家族ではない。これからひとりになるのはあたしであって、彼ではない。

 ひとりになる。

 幼いあたしはぞっとした。ひとりになる。ひとりになる。誰もいない。誰もいなくなった。

 あたしは幸運だったのだろうか。ひとり、生き残ったあたしは。

 詮無いことを考えながら、あたしは握りしめたままだった拳に視線を落とした。今になって、手の甲が小刻みに震え始めている。誕生日のお出かけだから、と。精一杯のおしゃれとして選んだ薄桃色のフレアスカートに青と赤が染み込んでいるのが滑稽で。

 お父さんとお母さんと瑛人が倒れている。助けてあげなければならない。いつまでもこのままでいいはずがない。

 そのすぐ傍では「鬼」であったものが、青い血を流し絶命していた。


「死んじゃったら、みんな同じだね」


 無意識に、そんな言葉が口をついた。

 きっと、この「鬼」にも、「鬼」の死を悼むものがいるのだろう。あたしの家族の死を悼むものがいるように。


「みんな、死んじゃった」


 頬をなにかが伝う。幼いあたしの血ではない。鬼の血でもない。涙だった。


「みんな、いなくなっちゃった」


 やっと胸に落ちた喪失感に幼いあたしの声は震えた。涙がまた一粒流れ落ちる。彼はなにも言わなかった。遠くでサイレンの鳴る音がする。だんだんと喧騒が近づいてくる。滅多とない重大事件。「鬼」による大量殺人。大きな人の声と、救急車。そして特殊防衛隊の緊急車両。赤と青の中心で肩を震わせるあたしを、彼はただ見ていた。

 もう、星も見えない。父も母も弟も、きらめく光を、瞳に灯すことはない。もう、なにも見えない。

 あの夜、あたしは確かにそう思ったのだ。

 喜びを共にする家族も怒りをぶつけるべき対象者も、なにもかもが消え果てて、前も後ろもなにも見えない暗闇のような場所。

 取り残されたのはあたしとその人だけだった。

 この世の終わりで、あたしは、神様のようなヒーローに出逢って生き延びた。

 「鬼狩り」になろうと。そう決めて育成校に入学したのは、それから五年後のことだった。

 そしてこの春、研修生として「紅屋」に配属されたのだ。


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