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09

「つまるところ、フジコちゃん。僕ら二人でB+とやりあうにはどうしたらいいと思う?」


 本来だったら、B+のライセンス所持者が二人以上、あるいは、Aライセンス以上の実力者が一人以上の五名前後で構成される班が出動する相手である。桐生さんは特Aかもしれないけれど、もう一人が研修生のあたしって、どう考えても一班じゃ、ない。


「あ、当たらないように精一杯逃げます!」

「うん。まぁ、それは最低限やね」 


 あたしの必死の回答をさらりと受け流した桐生さんが、とてものんびりと抜刀した。きらりと暗がりの中、刀身が光る。あ、本当に日本刀なんだぁ、なんて。現実逃避をしていると、優しく笑った桐生さんが、全く優しくないことを口にした。


「死にたぁなかったら、僕の攻撃範囲内に入らんように。あと、自分の安全は自分で守るように」

「ひぃ! わかりました!」

「いや、やっぱりフジコちゃん。もってるで。ラッキーや。実戦初戦で、B+に当たるなんて、なかなかないで? 経験値を上げるには最適やんか」

「そんなラッキー要らなかったですぅ!」


 本当に、本当に、そんなラッキーは要らなかった。というか、日本刀の間合いって、どのくらいなんだろう。いや、それ以上に、桐生さんの動きを、あたしは果たして眼で追えるのだろうか。

 攻撃範囲内に入るな、ということは、あれだ。ひと時も戦局から目を離すなという、ごもっともすぎる忠告だ。そう思う。思うのだけれど。


「なぁ、フジコちゃん」


 鬼を見下ろしたままの桐生さんに呼ばれ、あたしはクロスボウを握りしめて、声を裏返らせた。


「な、なんですか!」

「フジコちゃんって、パニくると、とりあえず騒いでまうタイプ?」

「そうかもしれませんが!」

「一発目に狙われる確率が跳ね上がるから、その癖、直しや?」


 完全に固まったあたしに微笑を残して、桐生さんは音もなく飛び降りていった。

 ……も、もう、もう嫌だ。桐生さんの笑顔を優しいなんて、絶対、絶対、思わない。

 いや、優しくないわけじゃないけど。その、なんというか。なんというか。


 ――あぁ、でも。


 肩の力が若干、抜けたのは事実だ。握りしめていたクロスボウを牽引し、発射溝に矢羽を滑り込ませる。何度も何度も、やってきた手順だ。

 あたしが中途半端になにか手を出すほうが、邪魔になることは間違いないのだろうけれど。でも、それでも、最低限の準備だけはしておかないと。あたしも、「鬼狩り」なのだから。

 深く一度息を吐いて、眼下を見つめる。鬼の身体は、硬いというけれど――だから、あたしたちはそれに対抗しうる武器を使うのだけれど――、本当にそうなのだと改めて思い知る。交錯する度に激しい金属音が鳴り、粉塵が舞う。眼で追うのがやっとのスピードで白刃がきらめいて、一際、激しい衝突音がした。鬼の身体が入口付近の壁まで吹き飛んで叩きつけられたのだと、数秒遅れてあたしは理解した。

 特Aって、本当に強いんだ……。

 手足を蠢かせ、必死に起き上がろうとしている鬼とは対照的に、桐生さんの背は一筋の乱れもない。鬼の口が動いて、泡を吹く。それでも、鬼はなにかを紡ごうとしているかのように、口を動かしていて。

 なにか、言っている? ふと沸いた疑問に、あたしは耳を澄ませた。

 なにか。――子ども? あいつ? おまえたちが?

 あたしたちが、なにかをしたと思っている? もしそれで抵抗しているのだとしたら。暗闇に慣れた瞳で倉庫内をもう一度見渡す。誰もいない。なにもない。けれど。


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