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08

「フジコちゃん!」


 桐生さんの声にはっと我に返って、あたしは後ろに飛んで下がった。そのまま、元いた中二階まで退避する。もはや、先程までの痩身の青年の姿はない。「鬼」だ。優に、二メートルはありそうな。


「な、なんですか……、あれ」

「まぁ、大人しく従う気はないってことやろねぇ。あ、蒼くん? 残念なお知らせがありまーす」


 軽い。軽い。軽すぎる。へらっとした桐生さんの声に地団太を踏み鳴らしたくなる。勿論、そんなことをしている状態では全くないのだけれど。なんだか、緊張とパニックと、あと言葉にしたくないあれやらこれで、頭が完全に思考を停止している。もとから大した性能でもないのに、もうすっからかんだ。


「交戦状態に突入しそうです」


 次の瞬間、眼下で鬼が火を噴いた。


「ど、どこがBなんですかぁ! 口から火ぃ噴いてるじゃないですかぁ!」


 プツンと来て叫んだあたしに、「ほんまやねぇ」とどこまでものんきに桐生さんが応じる。


「よかったなぁ。良い勉強やで、フジコちゃん」

「なにが良い勉強ですか、なにが!」

「国からの通知と判定に絶対はない」

「って、なにをそんな悠長な! 立て直しましょうよぉ。あたし、詠唱無理ですよ、才能なかったんです!」


 完全に泣きの入ったあたしにも、桐生さんは全く持って容赦がなかった。というか、B+とやり合うのは、あたしと桐生さんじゃ無理がないですか。ええと、その、あの、ルール的に。桐生さんだって、Bだからあたしとご自分の二人編成で問題がないと仰ったのでは、と。言いたい。とても言いたい。けれど現実問題として興奮状態の鬼を放置できないことも重々わかってはいる。わかってはいるけれど。でも、だ。


「期待してへんよ、そこは。詠唱できるんは、基本的に鬼狩りの家系の、それも術師系の連中だけやん。ちなみに僕は苦手」

「ええ? そんな!」

「できひんことはないよ? でも、僕も蒼くんも攻撃に特化しすぎてもうて、防衛、不得意なんよねぇ」

「特Aのくせに!」


 思わずあたしは叫んだ。特Aのくせに! 鬼狩り総人口の三パーセントの超超エリートのくせに!


「なにを言うてるの、フジコちゃん。特Aなんて、目立つ功績をあげた連中に授与される勲章や。ということは、基本的に特Aは、攻撃特化型が多い」

「そんな情報、要らないです!」


 あたしは本気で泣きそうになりながら、リュックを脱ぎ捨ててクロスボウを手に取った。あたしは桐生さんと違って、即時攻撃には移れないのだ。超攻撃型でも近距離型でもない。中距離支援型だ。

 鬼は距離を詰めてくる気配もないけれど、逃げる気配も皆無だ。鼠をいたぶる猫のごとしである。思い付いた嫌な例えに、頭の中がさーっと青くなる。

 お、お父さん、お母さん……。瑛人。お姉ちゃんは、お姉ちゃんは……、いいや、ここで死ぬつもりはないけれども!


「フジコちゃん?」

「は、はい!」


 呼びかけに、あたしは慌てて桐生さんに視線を移した。どこからどう切り取ってもいつも通りの桐生さんに、安堵はしたけれど、だがしかし、怖い。あたしの動揺などどこ吹く風で、桐生さんが笑う。それはもうにっこりと。


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