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05

[2]



 まだ四時を過ぎたばかりの時間なのに、足元は薄暗い。

 廃倉庫の中二階から、あたしはひっそりと一階を見下ろしていた。眼下には、いくつものコンテナボックスと段ボールが無造作に積み上がっている。入口付近のスペースは確保されているものの、倉庫の奥や壁際はなかなかの有様だった。

 いったい、いつから使われていないのだろう。コンテナボックスやタンボール箱の中身はどうなっているのだろう。もしかして、そのまま放置されているのだろうか。

 

 ――こんな寂しいところに、居るんだなぁ。


 覚えた感慨を不思議に思いながら、あたしはリュックの肩ひもを握った。なんだか癖みたいになっているなぁ、とも疑いながら。

 ちなみにだけれど、大半の鬼は「地界」と呼ばれるところに生活の基盤を置いている。人間の社会で家を持ち、あたしたち人間と同じような生活を送ることを楽しんでいる鬼もいるものの、少数派の、――こう言ってはなんだが、鬼の世界の変わり者、だ。

 けれど、「地界」に居を置く鬼たちも、気の向くままにこちらの社会に干渉を行うことがある。あるときは、人間の街で遊び、あるときは、人間を害すために。

 それが五十年前から続く現状だった。法令が整備され始めた昨今は、かつてに比べると格段に行き来が増えているというけれど。

 ここを根城と定めた鬼は、「地界」にもう居場所がないのだろうか。


 ――いいか、この鬼は、


 淡々とした所長の声が頭の中で響く。

 この一月のデータ記録を見る限り、廃倉庫を根城とし、そこで、夕方……五時ごろから概ねにして日付が変わるあたりまで過ごしているようだ。

 犯行はいずれも、深夜の二時以降に行われており、根城を出てからターゲットを物色していると推測される。

 あぁ、ほな、それやったら、そこで帰ってくるのを僕らは待ってよか。街中で揉めるのは避けたいし。もし、予定外の行動をあちらさんが取りそうになったら。

 問題ない。俺が動きを追う。

 口を挟むどころか、会話に付いて行くだけであたしは精一杯だった。なんとか理解できたのは、できるだけ民間に被害を及ぼさないよう、人が居ないだろう廃倉庫で「確保」を行う、ということだけ。

 前科持ちの鬼はGPS機能の搭載されたICチップを埋め込まれているので、所長はこのまま事務所で鬼の行動を監視するのだそうだ。予定外に倉庫に戻らず、なにかの行動を起こそうとすれば、すぐに連絡が入ることになる。

 そして、その場合は、外で鬼を追いかけなければいけない。


 ――できるな。


 最後の最後、所長は桐生さんではなく、あたしに念を押した。


「結構、お役所仕事やろ? 鬼狩りも」


 日中はデスクワークで、出動となれば令状を用意して。

 あたしの隣で、手すりにもたれかかったまま、桐生さんはいつもの調子で話しかけてきた。声が倉庫内に反響する。いつも通りでないとすれば、その腰にぶら下がる帯刀ベルトと日本刀の存在だろうか。


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