02
「おはようございます!」
ドアを開ける前に一息ついて、よし、と小さく気合を入れる。笑顔を作って鍵を開錠。
「おはよう、フジコちゃん。昨日の月報、直せた?」
「はい、なんとか」
それはもう、なんとか、ではあるけれど。ひとまず五時までになんとか見直し込みで仕上がった。桐生さんも所長も多忙であることは重々承知だ。だからこそ、あたしのケアレスミスで時間を取らせるわけにはいかないと思っている。
変わらず愛想の良い桐生さんに内心少しほっとしながら、鞄とリュックを置いて(みっちゃんに、あんたはいつまでその間抜けな二個持ちを続けるの、と言われているのだけれど、ほかに目ぼしいものがないのだから仕方がない)、所長の前に向かう。
いつものあたしの朝の挨拶に、所長の目線が上がる。あ、珍しい。眼鏡してる。けれどそれ以外は、全くのいつも通りだった。静かな表情も、見慣れたそれで。
「昨日も遅くまでお疲れさまでした」
挨拶の後に一言つけようを、相変わらずあたしは実行中だったりする。だって、そうじゃないと、ほとんど会話が無かったりするし。桐生さんの言を信じるなら、昔から口数が多い方ではないらしい……けれど。
「おまえは」
ある意味で変わらない淡々とした声にも、ほっとするのだから、そういう意味では本当に慣れたのだろうなぁ。
「遅くならずに、帰れたか」
「はい。おかげさまで。五時までに終わらせられました」
「ならいい」
「ありがとうございます」
所属長として、だということも理解しているけれど、それでも気遣ってもらえることは素直に嬉しい。それに、――。
いつも通り、というのは、とても安心する。同じ日々が続くのは、有り難いことで幸せなことで、代えがたいことだ。
あたしが鬼狩りを目指した動機は、あたしの私的な感情に起因するものだ。だから、それを認めてほしいと思うのは、――あたしの感情的な問題であって、働いていく上で必要なものではない。
昨日と同じことをあたしはまた心の中で繰り返した。
それに、誠実に仕事をこなしていれば、いつか認めてもらえるかもしれない。どちらにせよ、あたしにできることは、目の前の仕事を一つずつしっかりこなしていくことだけなのだ。
「ちゃんと直したつもりなんですが。またお時間のある時に確認、お願いします」




