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04

「あんた、まだ、やっぱり怖いの?」

「ううん」


 あたしはみっちゃんをしっかりと見つめて、応えた。


「大丈夫だよ」


 本当は、たぶん、あの紅い瞳を目の前にしたら怖いと感じることもあると思う。でも、大丈夫だ。カウンセリングも受けた。予備試験にもちゃんと合格した。そして、――所長が、言ってくれた。

 だから、きっと、向き合っていけるのだと、あたしは思いたい。


「奈々はさ。奈々を助けてくれた鬼狩りに憧れて、鬼狩りになりたいと思ったんだっけ」

「うん。そうだよ」


 あたしはできるだけ、明るい声で首肯した。積極的に話すようなものではないと思っているけれど、問われたら、あたしは自分の過去を答えていた。

 自分の過去、というのは、つまり、あたしが小さい頃、両親と弟が鬼に殺されて、あたしだけ、駆けつけてくれた鬼狩りに助けてもらった、ということなのだけれど。

 近い縁者もいなかったあたしは、その後、鬼に親を殺された子どもが保護される国の施設で育った。だから、その施設出身とバレた時点で、あぁ、あの子は不幸があったのだなと慮られてしまうわけで。


 ――まぁ、確かにそうだけど。でも、施設の人はみんないい人だったし。ずっと不幸に浸って泣き暮らしていたわけじゃないんだけどなぁ。


「その人みたいに、誰かを助けられる鬼狩りになりたいと思って、頑張ったんだ。だから、大丈夫だよ」


 怖いと思うことを認めて、恐怖をコントロールしていけばいい。所長が言ってくれたのは、そういうことだと思うから。そうなれるように今度は頑張っていこうと思う。


「奈々は、その人に逢いたいとは思わないの?」


 みっちゃんの問いかけに、あたしはゆっくりと瞳を瞬かせた。


「うーん。そう言えば、あんまり考えたことなかったな。勿論、偶然でも逢えたら、挨拶したいしお礼も言いたいなぁとは思っているけど」


 とは言え、あたしはその鬼狩りの人の名前も知らなければ、顔も覚えていない。男の人だった。たぶん、まだ若かった。あとわかるのは、研修生として学んだ中で思い知った事実だけだ。B+の鬼をひとりで狩ったあの人は、きっととてつもなく優秀な鬼狩りだったのだろうと。そういうことだけ。


「こんなことを言ったらアレだけど。今のあたしたちなら、調べようと思えば調べられるじゃない?」


 それはつまり、データシステムで検索をかければ、ということだ。紅屋の事務所にも勿論ある、莫大なデータベース。昔の事件とは言え、間違いなく記録は残っているだろうから、わかるはずだ。あの日、駆けつけてくれた鬼狩りの人の名前も、あるいはあたしたち家族を襲った鬼の詳細も。


 ――でも。


 それは少し、違うような気もする。なにが、と言われると言葉にしづらいのだけれど。そもそもとして私的な目的で検索をかけること自体、違反行為だろうしなぁ。

 だから、あたしはへらりと笑って。少し冷たくなってしまったごはんの残りに手を付けた。


「ありがと、みっちゃん。心配してくれて。でも、大丈夫だよ」


 今は、少しでも早く、所長と桐生さんに迷惑をかけない研修生になることで精一杯だ。

 あたしみたいな、……こういうと僻みに聞こえるかもしれないけれど、足手まといにしかならない研修生を、それでもおふたりとも「鬼狩り」として否定することなく事務所に置いてくださっている。それは本当に有難いことで、だから、あたしは早く応えられるようになりたい。

 そのためにはまず、自分自身の弱さを見直すこと。心身ともに強くなること。そして、事務にしても実戦にしても、経験を積んでいくこと。

ひいてはその日々の積み重ねが、鬼狩りとして胸を張れる自分に近づく一番の近道じゃないのかなとも、思っていたりするのだけれど。


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