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03

「うーん、いい人だってわかったから、かな」

「あんたにかかると、世界中の人間みんないい人になりそうだけどね」


 今度こそ完全に呆れた調子でみっちゃんは毒づいた。


「というか、あれは結局どうだったのよ」

「なにが?」

「あんたの配属理由よ。実際のところ、ちゃんとわかったの?」

「うーん……、そうだねぇ」


 そういえば、これも初日にみっちゃんに泣きついたんだっけ。「あたしの二つ名が面白いって理由だけで採用されたっぽいんだけど、どう思う?」って。

 ちなみにそのときのみっちゃんの反応は「天才の考えることはわからない」だった。うん、そこは……否定しづらいけれど、でも。


「どうも、いい加減に研修生を採れって本部から、かなりせっつかれていたみたいで」

「あぁ。紅屋って、今まで全然、研修生を受け入れてなかったらしいものね」

「うん。それで、おふたりで研修生の登録簿を見ていらっしゃったみたいなんだけど。その、どうも」

「……あんたの二つ名にインパクトがあり過ぎて、目に付いたって?」

「まぁ、でも、たぶん、悪い意味だけじゃなく、おふたりとも、誰でも一緒だって思っておられたんじゃないかなぁ」


 若干トーンの下がったみっちゃんの声にビビりながらも、あたしは話を継いだ。あたしより優秀な研修生はいくらでもいるとは思う。けれど、あのふたりを前にしたら、研修生の実力差なんて団栗の背比べでしかないのだ、きっと。


「どんな新人が来ても対応できるし、どんな新人が来ても足を引っ張ることには変わりはないって」


 だから、どんな新人であれ、面倒を看ようと思ってくださったんじゃないかなぁ、と。あたしは勝手に理解することにしたのだ。最初は面白がっただけなんじゃ、なんて。穿った見方をしていたけれど、きっとそうじゃなかったのだと。

 そう思うと、やっぱり紅屋に配属されたあたしは、ほかのみんなが言うようにラッキーだったのかもしれない。


 ――恭子先生ってば、あたしに変な二つ名を付けて、どんな苛めだって思ったけど。感謝しなきゃ、なのかなぁ。由来を聞いても、「いずれわかるわ、ミス・藤子」なんて言葉と笑顔で流されて、真実はわからずじまいだったけど。


「あんたが言うのなら、そうなのかもね」


 あたしの顔をじっと見ていたみっちゃんが小さく肩を竦めて、残っていた珈琲を飲み切った。そして、ふわ、と欠伸を噛み殺す。


「じゃあ、あたしはちょっとひと眠りしようかな。あんたも持ち番のときは覚悟してなさいよ」

「あ、待って! みっちゃん」

「なによ、奈々」

「あ、あのね。みっちゃんってさ、もう鬼に会った?」


 みっちゃんは、立ち上がりかけていた態勢をゆっくりと椅子に戻して、あたしを見た。そして静かに目元を笑ませた。仕方ないな、とでもいうように。


「会ったわよ」

「……そっか」

「傷害罪で逮捕状が出ていたBランクの鬼のね、逮捕の現場にあたしも臨場したの」


 最後の課題と一緒だなぁ、と思った。罪を犯した鬼を逮捕する。それは、あたしたち「鬼狩り」にとって、一番重要な任務だ。人間と鬼が共存するための要の役割。あのときも、みっちゃんはどこまでもみっちゃんで、最初から最後まで冷静だったっけ。


「びっくりするくらい、大人しかったわよ。先輩が令状を読み上げて、あたしは本当に隣で見ているだけだったんだけど、あっというま。ちょっとくらい抵抗するのかと思っていたから、拍子抜けしちゃったくらい」

「そう、なんだ」

「そうよ。と言っても、毎回がそうだとは限らないと思うけど」

「そうだよねぇ」

「ねぇ、奈々」


 愛想笑いを浮かべたあたしに、みっちゃんが心持ち、声を潜めて囁いた。


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