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お父さん、お母さん。それから瑛人。元気ですか。
お姉ちゃんは元気です、と言いたいところですが、なかなか大変な日々を送っています。
と言っても、この忙しさも、無事に卒業できていなければ経験できなかったことなので、そう考えると、とても幸運なことですね。
……ごめんなさい、嘘です。撤回します。勤め始めて二週間が過ぎましたが、わからないことが多すぎて、お姉ちゃん、いろいろ泣きそうです。
事務仕事も、正直、学校で習っていたことなんて全く意味がないレベルで、頭が追い付きません。わからない専門用語が出てくるたびにフリーズします。なんでお役所の書類は、あんなにも形式にこだわるのですか。昨年の報告書を参考にしろと言われても、何の助け舟にもなり得ませんでした。年度の切り替え時だから提出書類が多いのは仕方がないと言われましたが、そんなものなのでしょうか。
しかも、今月に入ってから「鬼狩り」としての外でのお仕事がない分、まだマシだとも言われてしまいました。任務が終わると、当然ですがその報告書を提出しなければならないので、締め切りが立て続けとなり、桐生さんいわくの「地獄絵図」ができあがるそうです。できることなら味わいたくはないなぁと思いますが、なんと次に任務が入った場合(相手の鬼がB+ランク以上でなければ)、あたしも出動する模様です。
正直、恐ろしいです……。
いえ、「鬼狩り」のライセンス取得を目指すのなら、そんなことを言っていては駄目ですね。気を付けます。
実戦と言えば、「武術も鍛えなあかんからねぇ」なんてお言葉で桐生さんに見ていただいたのですが、ランクも経験もなにもかもが違い過ぎました。
後輩を指導する、どころか、幼稚園児のお遊びを見守るお兄さん状態です。無論、桐生さんが、です。
さすがにまずいと思ったのか、組手となるとセクハラになる杞憂があったのかはわかりませんが、所長の計らいにより、来週より他の事務所と合同訓練になる模様です。お手間を取らせて申し訳ありませんとしか、あたしには言えませんでした。
……いえ、違います。お父さん、お母さん。それから瑛人。違うのです。お姉ちゃんは、日々、前向きに頑張っています。幸いなことに桐生さんはちょっと軽いけれどいい人です。所長も、きっと、……きっといい人です。鬼狩りに悪い人はいない、はずです。
挨拶の後にちょっとしたお話を振ってみよう作戦は、成功していると思いたいのですが、あまり話が弾みません。桐生さん曰く、基本的に寡黙ではあるそうなので、そのお言葉を信じて今後も話しかけようと思います。鬱陶しがられないラインも頑張って見極めます。
諸々を含めて、お姉ちゃん、頑張ります。最後にひとつ、お知らせします。苦節十四日。リクルートスーツは、やっと少しだけ肌に馴染んできました。襟元に光る記章(一番下っ端のそれではあるけれど)、みんなに見てもらいたかったなぁ。




