3話 忘れられぬ記憶
外に出ると外は少し明るくなっており、2人は朝焼けの中、小さな袋を落とした場所に歩いて向かう、その場所に近づくにつれて警備隊の人達が多くなっていた、スーリアはその警備隊を見てキリスに小さな声で話す。
「あの人達はこの都市の警察?、何か探してる感じみたいだけど…」
2人は立ち止まり少し考えていると、背後から複数人の足音とともに1人の男性が2人に話しかける。
「君達こんな朝早くに何をしているのかな?、もしかして夜遊びかな?」
振り返ると警備隊の人が3人に立っており、2人に話しかけた少し若そうな男性は何か期待した顔を見せ、返事を待つまでいた、2人が黙っていると少し若そうな男性が続けて質問する。
「3時間ぐらい前にこの近くで爆発があってね、僕達はその調査をしているんだ、何か知っていることはないかな?」
スーリアが少し探るように話す。
「確かに大きな爆発音は聞こえたような?、それ以外は知らない、カメラを確認したらすぐわかるような?」
少し若そうな男性は残念そうに話す。
「そうか…、君達に言うことでもないんだけど、カメラが機能してなかったんだよ、まあ…早く帰るんだよ?」
そう言い警備隊の人達は二人から離れていく、スーリアは姿が見えなくなったのを確認したあとに静かに話す。
「幸い気づかれてはなさそう、だけどこの辺りをウロウロするのも良くなさそうだね…」
キリスは頷き、小さな袋を落とした場所に向かう、おそらく落としたと思われる場所に無事たどり着き、2人は辺りを注意深く見渡し探す、その場所は薄暗く少し広くはあるがビルとビルとの間の裏路地であり、少し血の匂いが漂っていた、スーリアはすぐに何かを見つけキリスに声を掛ける。
「キリスくん、何かあったよ…、これ何かの肉かな?」
キリスはそれを聞き視点をスーリアの方向に向け近づく、肉塊は不思議と新鮮であり、虫や動物の痕跡や姿はなく、スーリアは不思議そうにそれを眺めていた、キリスが肉塊に近づき、近くでそれを見るとそれが自身の肉体の一部だと不思議と確信する、キリスは辺りに小さな袋がある事を確信し、視点を上に向けると薄暗く見えづらくはあるが2階程の高さに小さな袋が引っかかっているのを確認する、キリスは上に指をさし「スー、見つけた」と言葉にする、それを聞き見たスーリアは軽い身のこなしで上に登りそれを取り、軽々と降り、キリスに手渡す、キリスは受け取ると中身を確認する、中身は何もなくなっておらず、無意識にキリスの頬が上がる、それを見たスーリアはキリスの顔を覗き込み同じ様に頬を上げ話す。
「よかったね、見つかって、それじゃあ次はどこに行く?、あまり目立つことはできないと思うけど…」
その様に話していると少し距離がある場所から女性が2人に話しかける。
「そこの2人、動かず私の方を向きなさい、これは警告です」
その声を聞きスーリアは目を見開き、先ほどまで見せていた表情とは違い、怖い顔を見せる、それと同時に女性に気づかれないように帽子をより深く被る、キリスはスーリアの様子に気づくことはなく、女性に言われた通り振り返る、女性は意図的に片目を隠しており、拳銃をキリス達に向けてゆっくりと2人に近づいていた、スーリアが振り向く気配を見せずにいると片目を隠した女性は少し強い言葉で話す。
「ネズミ色の髪の少女、3秒だけ待ちます、それまでに振り向き顔を私に見せなければ、即座に発砲します」
片目を隠した女性はその様に言い終えると2人に聞こえるように「3」と言い、数字を数え始める、キリスは背中を向けるスーリアに目線を向け少し不安そうな顔を見せ、片目を隠した女性は「2」と言い、スーリアは大きく息を吸い吐き出す、片目を隠した女性は次の数字を数える前に何かに気づきスーリアに向けて発砲する、スーリアは発砲されることが分かっていたようにそれを避け、振り返り片手を前に突き出し「無力化」そう言い放つと、それと同時に首に下げているお守りのようなペンダントが光り、片目を隠した女性が持っている拳銃から煙が上がる、片目を隠した女性は熱そうにそれを投げ捨て、隠していた目をキリスに向ける、スーリアは焦ったように「キリスくん!、目を見ちゃだめ」そう言い放つが、片目を隠していた女性は「もう遅いです」そう冷たく言い放ち、隠していた目が強く光り、それと同時に片目を隠していた女性は困惑に満ちたように「は??」と呟き光りを見せていた片目が破裂する、すぐに苦痛に満ちた唸り声を抑えるように上げ、膝を地面につき息を乱しながら自分自身に向けて「聖職者ですか…」と呟く、スーリアはその言葉、行動を気にすることなく、キリスの手を引き走り始め、片目を隠していた女性に向かって「今回は見逃してあげる、魔眼の人」と少し嘲笑うように言い放つ、キリスは何も気にすることなくスーリアの速度に合わせて走る。
2人は息を切らすほど走り、いつの間にか太陽が上から2人を照らしていた、周りの建物とは不釣り合いな緑豊かな公園にたどり着き、キリスは体を休めるためベンチに座り一息つく、スーリアは見るからに疲れを見せているが休む気配を見せず、辺りを見渡し警戒していた、それを見かねたキリスはスーリアに話しかける。
「休んでもいいと思う、あの人、僕達を追えそうになかった、それに僕も周りを見る」
スーリアは頬を少し上げ、キリスの隣に座り疲れを吐き出すように大きく息を吐きだす、2人がベンチで休んでいると1人の老人が2人に近づき話しかける。
「あんたら暇じゃろ、少しの間この老人の手伝いをしてくれんか?、礼は弾むぞ?」
キリスは老人の願いを断ろうとすると、スーリアが了承し、キリスについてきてほしそうに顔を見る、キリスは少し嫌な顔を浮かべながら2人の後を追う、少し歩き公園の中心付近で老人が足を止め2人に話す。
「お二人さんあそこにある花束を、あそこの石碑がある場所に運んでくれ、わしはすまんが休ませてもらう」
老人はそう言うと腰を痛そうにしながら、石碑がある場所に歩いていく、残された2人は顔を見合わせキリスが話す。
「何で願いを聞いた?、僕達は追われる立場、この場所に居続けるのは危険」
スーリアは少し悩んだあとに答える。
「わかってる…、だけど困ってたから、付き合わせて、ごめんね」
キリスは何も言わず花束が置いてある場所に歩いていく、スーリアは袖をまくり少し早足で同じ場所に向かい、2人はかなりの数の花束を巨大な石碑の前に置き、最後の一束を運び終えると、しんどそうに座っている老人が立ち上がり、2人に近づき話す。
「お二人さんありがとう、最近はこの日になっても来てくれる人が減っての…」
老人はその様に言うと、石碑に向かい手を合わせ深く目をつむる、しばらくして目を開き悲しそうに石碑を見つめる、スーリアは帽子とサングラスを外し老人に向かって話す。
「これは誰かのお墓?、この日って事は何か事件があっての?」
老人は少し驚いた顔を見せ「お嬢ちゃん外から来たのか?」そう言い、スーリアが頷くと老人はさらに驚き、スーリアの質問に答える。
「驚いたの…、もう二十年前になるのか、あそこは湖が綺麗じゃったの…、昔この都市アルスルの近くにもう一つの都市があってな、今日はその都市がなくなった日なんじゃ」
スーリアは少し納得できなかったのか首を傾げ、老人に向かって話す。
「都市がなくなった?、それって都市として機能しなくなったってこと?、都市が機能しなくなるなんて聞いたことないけど…」
老人は疲れたように座り、スーリアの質問に答える。
「わしも聞いただけだからの、数少ない生き残りによるとアヌン教の信者が暴走した後に巨大な黒い獣が現れて…、皆を喰い散らかしたそうだ…、都市が機能しなくなるってのはあれだろう、マナの濃度を下げるとかいう…、わしは実際に見たわけじゃないが、それ自体が無くなったそうじゃ」
スーリアはさらに老人から何かを聞き出そうと話そうとすると、キリスが誰かこちらに近づいてくるのに気づきスーリアにそれを知らせる、スーリアは帽子とサングラスを被りかけ落ち着きを見せる、少しして小さな花束を持つ老婆が石碑の前に立ち、小さな花束を置いたあとに目を閉じうっすらと涙を見せる、老婆は黙祷を終えるとキリス達の方を向き、軽くお辞儀をしたあとに立ち去ろうとすると、何か気づいたようにキリスの方を向き直し「あなた…キリス?」とキリスに向けて言葉をつぶやく、老婆はキリスをじっくりと見たあとに続けて「やっぱり!、キリスだわ」と嬉しそうに話し、続けて話そうとすると、うっすらと聞き覚えがある男性の声が老婆に向かって言葉をかける。
「ミリュア婦人、昔のお知り合いでもいましたか?、もしよければ私にもご紹介をしていただいても?」
キリスは近づいてくる男性を見て冷や汗をかく、ミリュアはにこやかにキリスの事を男性に紹介する。
「エキさん、この子はイオスでの知り合いでね、あの頃のキリスくんはとっても可愛かったのよ、今は男の子って感じになったけど…」
エキは視点をスーリアに向けたあとに、ミリュアに向けて話す。
「婦人、そろそろ都市長と合流しなければ、会食に間に合いませんよ、先に車に戻っていてくれませんか?」
ミリュアは何かを察し「えぇ」と返事をし、スーツを着込んだ人達に案内されるように、その場から立ち去っていく、エキは髪をかきあげ何か話そうとすると、その後ろから殺気がこもった声で女性が声を上げる。
「こんな所にいたんですか!、探しましたよ!」
エキは視点を女性に向け、少し不機嫌そうに話す。
「魔眼の使い手、殺気だった声を出すな、この場所には婦人がいる、してやられたのはわからるが、落ち着け」
片目を隠した女性は不満そうにキリスとスーリアを睨みつけ、落ち着いた声でエキに話す。
「了解しました…、ですがそこの少年はリーアスの欠片を保有しています」
エキは少し悩んだようなしぐさを見せたあとに声色を少し低くしスーリアに向けて話す。
「それはお前達エンカムとやらにくれてやる、スーリアだったか?、お前のリーダーであるラルフに伝えておけ、これ以上組織に楯突くなら、貴様の恩人が受けたように報いを受けるぞ」
その様に言い終えるとエキはミリュアが案内されは方に歩き始める、スーリアは見るからに怒りの表情を見せ、片目を隠した女性は少し満足そうに「よかったですね、見逃されて…スーリアちゃん」とスーリアに向けて言い放ち、エキについていく、しばらく沈黙が続き、少し居心地が悪そうに老人が話す。
「良うわからんが怖い奴らじゃ…、それよりも助かった、これは礼じゃからの」
老人は小さな袋を取り出し、その中に数枚のお札を入れ、キリスに渡す、キリスは快くそれを受け取る、老人は続けてスーリアに向けて話す。
「中に菓子も入っておる、その怒りが収まるかはわからんが、何か食べれば落ち着くかもしれんぞ」
それを聞いたスーリアは少し笑顔を見せ「ありがとう」と言い、それを聞いた老人は頷き、ゆっくりとその場から離れていく、それを見届けたスーリアはキリスの方を向き話す。
「少し疲れた…、まさかこんなにも早くに代行者とまた会うなんて…、はぁ…キリスくん、拠点に戻っていい?、ゆっくり休みたい」
キリスは頷き、2人はD.カジノの一室に戻る、ラルフ達はまだ戻っておらず、今朝とは違い部屋は外の音が一切聞こえず恐ろしいほど静かだった、スーリアはそれを気にすることなく、一目散にベットに寝転びあくびを見せる、キリスは警戒心を高め辺りを見渡していると、スーリアが眠そうに話す。
「大丈夫…、ラルフが人よけをしてくれたんだよ…、それよりキリスくんも寝た方が良い…」
そう言うと寝ているベットを優しく何度か叩き、スーリアは力尽きるように眠りに落ちる、キリスは静けさを気にしつつもソファーに腰を下ろし、息を吐き目をつむると崩れるように横になり眠る。
幻のように辺りはかすみを見せ、巨大な樹木がそびえ立ち、朝と夜が混じる空の下、鮮やかに白い鱗を持つ巨大な竜が少女のような少年に語りかける。
「正しき者よ、なぜ旅をする?、なぜこのような最果ての場所に訪れる、その理由を知りたい、ぬしは何を求めている?」
少年は真っすぐに白い鱗を持つ竜の瞳を見ながら答える。
「僕はただ知りたいだけだよ、長教達は旧書により、人は原罪を持つと言っていた…」
白い鱗を持つ竜は少年が話し終える前に話し始める。
「原罪か…、人は罪を背負っていたのか?、我にはそう思えない、人は罪を犯す…、だが始まりは純粋なものだ
、その旧書、そして長教は間違えているのだろう」
少年は少し笑顔を見せ白い鱗を持つ竜に話す。
「貴方は本当に人を愛している…、実際は僕達が考えていた、旧書では無かった、正確には長教達の地位を確実にするために作られた贋作、ただの欲望、それを包み隠すための教え…」
白い鱗を持つ竜は憐れみがこもった声で話す。
「惜しい…、憐れみすら感じる、我はこの地で多くの命を目にした、その者達、そのほとんどがその教えを守り、希望と望みを抱いていた、それが…無価値だったと…」
少年は首を横に振り、光のこもった瞳を白い鱗を持つ竜に向け、優しく話す。
「ただ全てが偽物なわけじゃない、問題はどの章、どの一節が本物かわからない…、長教達が行方をくらまし、知るすべもない、なら僕達はこの足で真実を知らなければいけない」
白い鱗を持つ竜は考えを巡らせ、少年は続けて話す。
「少し話は戻るけど、僕も貴方と少し同じで、人は原罪を犯していない、僕はそう願いたい、ただ犯しているのなら僕達、人類はそれに向き合わなければならない…、この生と死の狭間に訪れたのは、人類が歩んできた歴史、その記録が記された石碑があると聞いたから来た、だけどなかったよ」
少年は少し残念そうな顔を浮かべていると、考えを巡らせていた白い鱗を持つ竜は話し始める。
「人類の石碑か…、この最果ての地に無いのならば、おそらくは過去に切り離した城にあるのだろう、ただ千を生きる我ですら、場所は知り得ない、ぬしは辿り着けるか?」
少しの沈黙の後に少年は清々しい顔を見せ「この命、続くまでは喜んで身を捧げるよ」そう言い終えると、辺りにノイズが走り、幻が消えるように世界が崩れていく、キリスは困惑を感じながら、なぜか先ほどまで見ていた光景に少し喜びを感じていると、キリスの背後から聞き覚えのある女性の声が自分自身に話すように話し始める。
「遂に垣間見えたか…、目指す地は過去に切り離し城…、残る問題はお前か…」
キリスは寒気を感じ、慌てたように振り返えるとアリマと名乗った女性が立っており、不敵な笑み見せ話し始める。
「お前は私を覚えていないだろな、ただ感謝する白い獣…、いや黒く渦巻く聖獣ユニルフ、お前は役目を果たした」
キリスは目の前に立つアリマ?に強い不快感を感じながら話す。
「あんた何者?、それに何が目的?、後近づかないで」
アリマ?は少し敵意を向けるように、生気のない瞳をキリスに強く向け、話し始める。
「その言いぐさ、お前は変わらんな…、2度目になるが、私は正しき聖人の使徒、覚える必要は無いが、名はルシフ、目的は先ほど見た記憶、私が目指す場所を知る事だ、白い獣その体を私に渡せ、お前は十分に人を楽しんだろう?」
キリスは強い不快感からか、ルシフを睨んだまま何の反応も示さずにいると、ルシフは呆れたように続けて話す。
「返事は無しか?、それに何かを質問しそれとは…、では少し昔の話でもしようか、時間はまだある」
ルシフはキリスの返事を待つことなく、不敵な笑みを浮かべ語り始める。
「私は聖地にて罪を見た、人の…いや正しさを語る、おぞましい人の姿を、ただそれと同時に私は、唯一の正しき人を見た…」
ルシフは怒りがこもった、目線をキリスに向け、続けて話す。
「そしてある日、私達の奇跡は獣によって喰い散らされた、その日からだ、この命は意味をなさなくなった、だがそれと同時にやるべきことは決まった」
ルシフはさらに怒りと殺気がこもった、目線をキリスに向け、不敵な笑みを浮かべ話す。
「色彩の無い時間が過ぎ、湖が輝く都市で一人の少女にも見える少年に出会った、その者は正しい人の姿形、声、口調、名前、まるで同じだった、ただその内にある魂は、純粋で野蛮な獣…、だが私は見逃すことはなかった、その汚らしい魂の内に正しい人の魂が混ざり合っている事を」
ルシフは時間を稼ぐように話を止め、目を閉じていると、キリスが口を開く。
「その獣は僕?、だけどおかしい、今いるこの場所は僕の中、だったら都市で会ったはずのあんたが、なんでいる?」
ルシフは質問に答えることはせず、再び話し始める。
「ただ幸福な事に、私は混ざり合った魂を分ける術とそれを行える環境があった…、たが…たかが数十万の命では亀裂を作るだけだったな」
キリスはそれを聞き、少し怒ったように話す。
「たかが?、あんたはおかしい、そんな奴に体は渡さない、後話長い」
ルシフは口角を上げ「もういい、お前の同意は」そう言うと、地面が黒い泥のようなものに変わり、キリスは足に違和感を感じ視点を下に向けると、複数人の人のようなものが足にへばりついており、キリスが少しゾッとした表情を見せる、ルシフは何の躊躇もなくその泥を踏み潰しながらキリスに近づきながら話す。
「お前も見えるだろ?、己の内の罪を、受け入れることができず、醜く悍ましい姿に変じた、愚かな人々が」
ルシフは話しているうちにキリスの目の前まで近づき、黒く変じた右手をキリスの顔に被せようとすると、キリスは運良く黒い泥のようなものに足を引っ張られ転倒する、ルシフは転倒したキリスを見下ろし、冷たい視線を向け、再び黒く変じた右手を顔に被せようと手を前に出すと、キリスは右腕の一部に焼けるような痛みを感じ、その瞬間黒い泥のようなものの中に落ち、強い不快感と聞くに堪えない言葉を聞きながら、息苦しさと焼けるような腕の痛みを感じながら、意識が消えていく、ルシフはキリスが現実世界で目覚めた事を察し、少し不機嫌そうな表情を見せ「必ず」そう呟く。
キリスは慌てたように起き上がると、全く見覚えのない一室におり、キリスが先ほどまで寝ていたベットの隣に「エラー、エラー」と何度も音声を発する機械がいた、キリスは自身の頭が濡れている事と自身の右腕が少し焼けていることに気づき、その犯人が隣にいる機械だと言うことに気づき睨みつけると、エラーを発する機械は慌てたようにその場であわたらしく回り、激しく家具に当たり無様に転倒する、転倒した機械はエラーの音声が先ほどよりも多くなり、先ほどよりも騒がしくなる、その様な地獄にも思える空間に少女の声が響く。
「このポンコツめ、少しはプログラム通り動け、まったく…そろそろスクラップか?」
キリスはすぐに視点を声の主に向けると、幼女にも思えるほどに背が低い少女が立っており、キリスに向かって話し始める。
「やっと目覚めたか、君が眠り始めて4日と聞いている、君が何者かは知らないが、いぬが連れてきたのなら、悪い人間ではないと思うが…」
少女はキリスをまじまじと見ていると、キリスが話す。
「ここはどこ?、カジノで寝てたはず…、それにあんたそのエンブレム…」
キリスが敵意の眼差しを少女に向けていると、少女は何かを察したように話す。
「あの結社となにかあったか?、まぁそう敵意を向けないでくれ、私も人並みにアレを嫌っている、ただこの白衣を気にっているだけだよ」
少女はそう言い、小さく「やはり…取り除くか?」と呟き、キリスは少し不満そうな顔を見せるが、目の前の少女が本当にデルタロスを嫌っていることを感じ取り「わかった…、じゃあここどこ?」と言葉を返し、少女は少し満足気に「ふん、わかればいい」と話し、少し考えるそぶりを見せた後に答える。
「ここはいぬ…、ラルフが所有する浮遊都市アバロス、その中にある一室、まぁ理解が及ばないなら、外でも眺めると良い」
その様に少女は言い終えると、何かを思い出したように振り返り歩き始め「火を消し忘れた」そう呟き部屋を出ていく、それの後を追うようにエラーを発する機械も部屋を出ていく、警戒心からかキリスはベットの上で固まっていると、少し開いたドアから心地よい匂いを感じ、キリスはその匂いに好奇心が沸き立ち、意を決したように部屋を出る、廊下に出ると目の前の壁は大きく切り取られており、一面の青空と白い雲そして下からでは決して見ることのできない大地が広がっていた、キリスは無意識に笑みを浮かべ、脳裏に白い竜と正しき聖人が語り合ったていた場所を思い浮かべる、そしてキリスは目の前にあるその景色を胸に刻む。




