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「おぇ゛っ……」
あぁ不愉快。なんて不愉快な人生。
使用人ってば、私がガゼボで助けを求めても無視したくせに、第3皇子の侵入を許したくせに、第3皇子の体調不良には駆けつけるのね。
反逆者なのかな。殺しちゃおうかな。って悩んでる間に殺せば良いよね。
第3皇子が口をつけたコップを、使用人の頭にかける。
うめき声が2つに増えて、さらに不愉快になった。私ってばうっかりさんだから、自分が不愉快になることをあまり考えていなかった。そんな私も可愛い…。
一方は心臓を抱えながら泡を吹き、一方は紅茶のかかった頭皮を引っ掻いている。
汚い存在が喚いていても、庭園の木に止まる鳥は気にせず鳴く。その高らかな音は、いつまでも聴いていられそうだ。
きっと彼らは学習している。人間の食べ物に手をつけなければ安全なんだと。多分、何度も見て学習している。
第3皇子ぶっ殺すポイント、理由その2を教えてあげよう。
「皇族は皇族間であっても、茶を入れてはならない」
これは一見、女性皇族が虐げられることを未然に防ぐ法律である。第3皇子はこのことを知っていたからこそ、わざと私に注がせたのだろう。
「第1皇女エヴァの尊厳は、法律なんかに守らせない。一生第3皇子に仕えることを約束しろ」って意味で。
まぁ、なんだ。その法律が何故成立したのかを考えもしなかった馬鹿ってことだ。
女性皇族の尊厳を守る、という意図は確かにある。だが、それだけでこんな法律が成立するわけがない。
ではなぜ禁止なのか?さっさと答えを言おう。「従順にお茶を注ぐふりをして、相手を毒殺した女性皇族が、あまりにも多かった」からだ。
これにより、皇族間では「相手に茶を注いでもらうのは、唯一信頼している証」ということで、相手に茶を注ぐ行為は、婚姻の儀式にも組み込まれるようになった。
ただしこれは、婚姻でのみ有効な話。平時でやれば「私をどうぞ毒殺してください」という意味になる。
第3皇子が馬鹿で、本当に殺しやすかった。
このルールが存在しなければ、第1皇子に目をつけられる羽目になっただろう。
ちょっと馬鹿げた戦争だって思う。こんな駆け引きもクソもない平凡な戦争。
つまらないとは思うが、確実で早いのだ。全ては金・権力・美貌のために。
私の美しい将来に、乾杯。