第七話 再開(1)
北海道では竜龍たちがロシア軍と戦闘に入ったとき、達也と郁弥、春波は沖縄の在日米軍基地を襲撃していた。
春波のオリジナルマジックである闇黒制御は純粋な黒を制御する力である。その力で米軍兵士の影から現れた。しかしそこまで戦力を配備していないのか、比較的人数が少なかったので簡単に奪還することができた。
三人が最後に襲撃した嘉手納飛行場基地でアメリカの出方を予測していると、ある二人の男が歩いてきた。
一人は白髪の黒い目をしている無表情の男と黒髪の赤い目をしている二人の青年だった。すると三人の少し間合いの外で二人は跪いた。
「お久しぶりです。皇帝陛下」
達也と春波は誰なのかわからないが、予測として皇帝となった人が一人だけいた。郁弥の顔を見ると、驚いている様子だった。
「久しぶりだな。浩一、浩二」
浩一と浩二は兄弟で、方向性は違うが二人共天才と称される力を持っていた。浩二が天才の戦術、戦略家であるなら、浩一は戦闘の天才だった。浩一の戦闘能力は大帝国の時から随一であり、その実力は十個の師団を相手できるほどの戦闘能力を持っていた。
郁弥は二人に何をしに来たのかを聞いた。すると二人は立ち上がった。
「ただのわがままです」
浩二はただわがままを郁弥に受け入れてほしかったのである。大帝国最後の日に元大帝国近衛軍の一人一人が郁弥にわがままを言っていたが、浩二は後々で願いを聞き入れてもらうことになっていた。そのお願いを今、受け入れてもらおうとわがままを言っているのだ。
郁弥は浩二のわがままを薄々察しているが、念の為なんのお願いなのかを聞いた。
浩二のわがままは郁弥が住んでいるカルデラ王国の軍事力を調べたいとのことだった。その強さによっては、浩二を含めた元大帝国近衛軍は全員でカルデラ王国の傘下に入るとのことだった。
そして今から郁弥の後ろにいる二人の強さを調べるために来たのである。
郁弥は浅波兄弟が来た理由がわかると、振り返って達也と春波に細かい理由を教えた。
達也は条件として模擬戦をお願いした。
郁弥は達也が言った模擬戦の目的がわかると、浅波兄弟の方を向いて達也の条件を伝えた。二人はもちろん大丈夫だった。
最初に戦うのは春波と浩二だった。一応、実戦経験は浩二が圧倒的に上なので、春波には浩二のオリジナルマジックとランクを伝えた。
ランクとはその人の戦闘能力を大雑把に決めた目安だった。そのためオリジナルマジックの力は強いが、本人の戦闘能力が低くても上位のランクになることもある。そのランクを更に細分化して厳密に調べて数値化したのがレベル、一般人を基準に最低値がレベル10で最高値がレベル1000である。
その基準で春波はランクがクリーチャーでレベル849であるのに対して、浩二はラングがクリーチャーと同等だがレベルは920である。浩二はオリジナルマジックの力が弱いが故にランクが上から二番目になっているが、最上位ランクの化け物に片足を突っ込んでいる強さを持っていた。
「では俺の合図で模擬戦を始める」
郁弥が手を鳴らしたら模擬戦開始の合図だと二人に伝えると、二人共間合いの外で構えたと同時に郁弥は手を鳴らした。
最初に攻撃を始めたのは浩二だった。浩二は自身の周りに光の球体を出して、その光の球体を大量に春波へ飛ばした。浩二が得意としている戦術は遠距離からの魔法による狙撃だが、もちろん近距離でも中距離でも戦闘ができる強さを持っている。
春波は自分の影を前に動かして、壁を作り出した。だが数発だけ影の壁に当たると、すぐに壁のない横から攻撃が飛んできた。春波もすぐに避けているので、当たることはなく同時に攻撃する隙がなかった。
「影よ貫け、シャドウランサー」
オリジナルマジックはその力にある性能によっては汎用性が高く、魔力消費も少ない。しかし汎用性が高すぎると、複数の方法を試そうとしてしまってオリジナルマジックが使えない時がある。それを防ぐために技に名称をつけることで発動時間を短くする技術である。
春波は自分の影で槍状の黒い陰を飛ばした。だがその攻撃は浩二に直撃する至近距離で止まった。
「オリジナルマジック”発動”」
ついに浩二がオリジナルマジックを発動してきた。するとシャドウランサーの矛先が浩二から春波の方に向くと、春波が飛ばしたときよりも早いスピードで飛んできた。
春波は壁を作る時間がないからすぐに横へ飛んで避けた。避けたことでシャドウランサーに当たることはなかったが、春波の後ろから爆発音と爆風が来た。振り返りはしなかったが、爆風の威力は凄まじく、横に飛んだときに伏せていたから大丈夫だったものの、立っていたら爆風に背中を押されている力だった。だから振り返らずとも飛行場のコンクリートが一部引き飛んで、めくれ上がっているのが分かった。
「フレイムバレット、クリスタルバレット」
浩二の右手に炎が現れ、右手には氷が現れた。その二つから小さな球体が大量に出てきた。しかも温度もとんでもなかった。右手の炎は地面のコンクリートを溶かして、左手の氷は冷気が目に見えるほどだった。
「弾丸よ貫け」
浩二がそう言うと、大量に出てきた小さな炎と氷の球体が飛んできた。しかも殆ど弾丸と変わらない速度で飛んできたのである。春波は避けたがマシンガンを避けているような気分だった。
これ以上、防戦一方だと負けてしまうから春波もオリジナルマジックを使うことにした。
「オリジナルマジック”発動”、影よ飲み込め」
春波は自分の影を浩二に伸ばして、まるで壁のように出してきた。だがフレイムバレットとクリスタルバレットが影に飲み込まれた。
その状況を浩二が見ると、攻撃をやめた。
「大体の強さが分かったから僕はもう大丈夫です」
浩二は戦闘をやめた。
だが春波はそれで助かった。なぜなら春波が使ったオリジナルマジックは影に飲み込んだ力を取り込む事ができるが、飲み込んだ力は体に負担がかかってしまうからだ。しかも浩二が撃ってきたフレイムバレットとクリスタルバレットはとんでもない威力であり、体への負担が尋常ではなかった。だから体に傷が一つもつくこと無く、その場に倒れて気絶してしまった。
これはフィクションです。現実とは全く関係ありません