「観覧車も右に回るみたい」
僕は幽霊と話したことがある。
相手は事故で亡くなったクラスの女子。今日でお別れだからと言って幽霊になった彼女は僕の前に現れた。
クラスの女子の中でも彼女とはよく話した。無邪気で明るい、前向きな子だった。
そんな彼女と最後に話したのは時間の話。
『時計の針はどうして右に回るの?』
そう訊かれた。言われてみればどうしてなんだろうと思った。右回りのことを時計回りというし、それが当たり前で疑問に思ったことはなかった。
彼女がいつものようにまた明日と言って去った後、家に帰って時計が右回りである理由を調べた。
ルーツは日時計。時の経過を可視化した影が右回りに動くから。南半球では影は左回りに動くけど、時計という機械は北半球で発展したため、世界共通で時計の針は右回りとなったらしい。
「……観覧車も右回りだ」
僕は目の前の観覧車を見上げる。ゆっくりと動いている観覧車も右回りだ。
時計だけでなく、観覧車も右回り。意外と気にしていないだけで、世の中にある回転するものは右回りなことが多いのかもしれない。
輪廻転生。
命ある者は死後、生まれ変わるという考えらしい。命は巡るということだろうか。
別れる前に、彼女にこれからどうするのかと尋ねた。僕の問いかけに対し、彼女は新しい時間をもらうのだと言っていた。彼女は生まれ変わることを言っていたのだろう。
命の巡りも右回りなのだろうか。回転方向があると考えていいのか、命の巡りに方向があるのか、そもそも輪廻転生なんて本当にあるのか、と色々と考え出すとキリがない。
僕は頭を振る。彼女との別れがちょうど三年前だから、色々と思い出したようだ。
どうであれ、彼女は新しい時間をもらえたのだろうか。もしも、彼女が生まれ変わってこの世に生を受けたのなら、今度は寿命を全うしてほしいと思う。
「今度は長生きしてほしいな」
ゆっくりと回る観覧車のように、ゆったりと。彼女の時が止まるのはあまりに早く、突然だったから。本人も予想できなかったであろうことだから、次は彼女が望むその時まで日々を過ごしてほしいと思う。
懐かしくて、切なく思う僕の背後で始まりの季節の風が優しく通り過ぎた。あの日、彼女を連れて行った風みたいだ。
「また明日」
彼女とバイバイした日の話→「「時計の針はどうして右に回るの?」」https://ncode.syosetu.com/n8560hi/
彼女が次へ向かう話→「交差点にて動き出す」https://ncode.syosetu.com/n6991hj/