もしも勇者と魔王が生き別れの幼馴染だったら。
俺は勇者、本名はアインという。俺が勇者に目覚めてから7年間、15歳になるまで魔物や魔族を狩り尽くしていた。そして今から、俺たち勇者パーティーは最終決戦のために、魔王城へ乗り込む。だが、魔王の他にも四天王という強大な敵がいる。作戦は、魔王が倒されれば全ての魔族が一時的に弱体化するため、俺以外が一人一体四天王を抑えて、その間に魔王を俺が倒す。そして、四天王が弱体化したところで倒す。作戦を再確認したところで、魔王城に乗り込んだ。
俺は、今魔王城の中を全力疾走している。仲間が四天王を抑えている間に、魔王の待つ頂上へ向かっているのである。走りながら俺は、魔に連なる者を滅すると決めた日を思い出す。
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俺が、勇者に覚醒した日でもあり、全てを喪った日でもある7年前のあの日。その日俺は、幼馴染の少女であるレーナと追いかけっこをして遊んでいた。遊び疲れて一緒に家へ帰ると、俺の母がレーナの母と一緒に夕食を作っていた。
「今日のご飯は〜?」
そうレーナが聞くと、俺の母が返事をする。
「今日は、レーナちゃんの大好きなウサギ肉のシチューよ。」
少ししてご飯ができると、準備を一緒に手伝う。ご飯を食べ終えて、外に出て別れを告げる。
「また明日、遊ぼうね。」
「うん、分かった。」
「約束だよ。」
いつも通りならそれでその日は、終わるはずだった。
ドカーンと、村の端から火が上がる。
「魔族が出たぞー。皆、逃げろ!!」
その言葉を皮切りにして、火が上がっている方向の反対に村人たちが走っていく。
「レーナ、アイン君も。逃げるわよ。」
そう言って、レーナの母が腕を引っ張る。すると、村人たちが逃げていった方から悲鳴が上がる。
「おやおや、どうして逃げれると思ったのですか?これだから、無知な人間は嫌なんです。」
後ろを向くと、そこら中に村人の死体が散乱している。それを見て、レーナが悲鳴をあげる。魔族が、こっちを見て向かってくる。
「おや、これは兆しがありますね。」
そこへ、レーナの母が前に出てくる。
「アイン君、レーナと逃げてくれる?いや、逃げなさい。」
「む、無理です。母さんたちを置いていけません。まさか、死ぬ気ですか?」
「大丈夫よ。ほら、行きなさい。」
「クックック、逃がすとでも思っているんですか?」
「そんなことより、森で狩りをしていた人たちがいなかった?」
「ふむ、それは二人ですか?」
「えぇ、そうよ。」
「それなら、殺しましたね。首を見せてあげましょう、ほら。」
そう言って、何かを投げてくる。
それはレーナの父親の生首だった。
「あっ、あぁぁぁーーー。」
絶叫が辺りに響く。
「ふむ、あなたの夫だったのですか。これは良いものを見れましたね。」
そう言って、ニチャアと笑う。まさに悪魔の微笑みだった。
そのやり取りを尻目に見ながら、涙を我慢してレーナの手を引っ張りながら走る。だが、少し歩くと自然に足が止まってしまった。なぜなら地面に、母が血を流して倒れていたからだ。
「母さん?いやだ、いやだよ。置いていかないでよ。」
すると、母が掠れた声で言う。
「こっちに来るのが幸せになってからじゃないと、一生説教だからね。」
そう言って、母は息絶えてしまった。
「おや、せっかく逃がしてあげたのに逃げないとはな。馬鹿な子どももいたものだな。んっ?これは…、面白い。おい、少年。貴様の村の人間はこの娘以外、全員殺した。そしてこの娘は貰っていく。だが、貴様は生かしておく。そして、その絶望をその胸に秘めて生きろ。」
そう言ってレーナの腕を掴み、浮き始める。魔族に逃げられると悟った俺は、レーナに対して最後の約束をする。
「いつか絶対に、助けに行くから。その日まで、待っててくれ。いつか必ず、また会おう。」
立ち上がり、走り出しレーナへと手を伸ばす。
「約束だ、レーナ。」
「うん、約束ね。絶対守ってよね。」
そして、その手が掴まれることはなかった。
レーナが見えなくなり、俺はその場で泣き崩れた。
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俺は、魔王のいる部屋の扉に手を当てる。
「やっと、着いた…7年か。レーナ、今助けてやるからな。」
あらゆる感情が心を渦巻きながら、扉を開ける。
「覚悟はできているさ。あの日からな。」
魔王は、玉座に座り俺を見下ろしていた。なぜか既視感を覚えたが、頭の隅に追いやる。
「勇者アイン、いやただのアインとして言わせて貰う。幼馴染のレーナを迎えに来た。覚悟しろ、魔王!!」
すると、魔王がボソッと何かを呟く。
「勇者よ、貴様はココナ村の出身か?」
それに対して、俺は驚く。
「ココナ村を知っているか。そうだ俺はココナ村の出身だ。それで魔王よ、貴様は何者だ?」
「そうか、そうだったね。アイン、久しぶりだね。」
「久しぶり?俺に会ったことがあるのか?まさか、レーナなのか?」
「やっぱり、アインなんだね。」
7年ぶりに涙が流れ、レーナに抱きつく。
「うぅ、生きててよかった。」
「アインも生きててよかったよ。」
それから少しして落ち着くと、話し出す。
「レーナ、四天王を弱体化させられるか?」
「うん、できるよ。」
「なら、してくれないか?今も、俺の仲間が下で戦っているんだ。」
「分かったわ。」
すると、持っていた通信用の魔導具に連絡が来る。
『倒したのか?』
『まぁ、そんな感じ。下で待っててくれ。』
「倒したって。ありがとう、レーナ。」
「別にいいよ、このくらい。」
「そういえば、連れ去られたあと何があったんだ?」
「あー、簡単に言うと、魔族が魔王を人工的に創るための実験をしてたの。そして、その被験体の一人が私なの。」
「一人っていうことは、他にもいるのか?」
「いたよ、もう全員死んじゃったけど。」
俺が表情を曇らせるのを見て
「別にいいよ、生きてまたアインと会えたんだから。」
と言ってくれる。
「そっか、俺も嬉しいよ。」
「そろそろ城から出たら?」
「そうだな行くぞ。」
そう言って、手を出す。
「えっと、この手は?」
「一緒に行かないのか?」
「いいの?邪魔にならない?」
「大丈夫だよ、誰にも邪魔はさせない。もしかして、俺と一緒に来たくない?」
「ううん、そんなことないよ。じゃあ、一緒に行かせてもらうね。」
レーナはそうして俺の手を取った。
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一ヶ月後、俺とレーナは出身国である王国の王城で剣を向けられていた。
「勇者よ、貴様が魔王を殺せぬとは残念じゃ。悪いが、ここで死んでもらおうか。」
そこには、勇者パーティーの仲間たちもいた。そう、俺は裏切られたのだった。
遡ること1時間。
俺とレーナに登城命令が下された。ここから王城までは十五分もかからないし、魔族をほとんど倒したあとだったので宴だと思っていた。
「何があるんだろうね、レーナ。」
「勲章とか、くれるんじゃない?」
城に着いて、王のいる謁見室へと向かう。
「勇者アイン、参りました。」
「良いぞ、入れ。」
そう中から声がして、扉が開かれる。
いつもより多くの騎士が、横に立っている。
「本日は、何のご用でしょうか?」
「今日は、貴様に言うことがある。思い当たることはあるか?」
「はて、なんでしょう?」
「分からぬか。勇者よ、そこに立っている魔王を殺せ。殺さぬのなら、貴様諸共殺す。」
背後の扉から、ぞろぞろと騎士が入ってくる。
「拒否権は?」
「あるわけないだろう。」
「そうですか、ならば勇者ではなくアインとして言わせてもらいます。騎士たちをどけないと、この国を滅ぼします。」
「ふん勇者といえど、ただの人。これだけの数がいれば問題ない。それでは、騎士団長。後は、頼んだぞ。」
そして、現在につながる。
「勇者よ、最期に仲間に言うことはあるか?」
「そうだね、レーナ…悪いけどこの国では暮らせない。ごめんね。」
「ふん、まだ生きられると思っているとは、貴様は傲慢だな。」
「天剣召喚…残念だよ、騎士団長。」
そう言って、騎士団長の首を跳ね飛ばす。周りにいた騎士たちが、絶句しているが無視して剣を振るう。ある者は、胴体が半分に斬られ、また別の者は真っ二つにされる。数分で謁見室は血に染まり、ところどころに、騎士の死体が散らばっている。
「ひー、助けてくれ勇者アイン。私は宰相に命令されただけなのだ。」
「何を言っているのですか、陛下。貴方が殺したいといったんじゃありませんか。」
国王と宰相は、形勢が不利になると慌てて言い訳をしてくる。それに対して俺は宰相と国王の右腕を同時に切り落とす。
「今までは、利用されるだけの価値があったからされていましたが、この国にもう価値はありません。」
そう言って、二人の首を斬り裂く。
「レーナ、終わったから城を出ようか。」
「分かったわ。それにしてもありがとう。」
「ん、何が?」
「私を見捨てないでくれたことよ。」
「見捨てるわけないでしょう。レーナは俺の大切な幼馴染なんだから。」
「嬉しいことを、素で言うなんてずるい。」
聞こえなかったフリをして、話題を逸らす。
「王国はもう無理だし、どこへ行こうか?レーナはどこか行きたい国はある?」
「それなら噂で聞いたことがあるんだけど、海の向こうにまた別の大陸があるらしいの。そこへ行く技術をつい最近帝国が確立したみたいだから、帝国に行ってみましょう。」
「いいかもね。誰も俺達を知らないところで、一からスタートするのも。」
「じゃあ、それで決まりね。」
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それから帝国に行き、一年間ほど傭兵のような仕事をしてお金を貯めた。そして、別の大陸へ行くための船の予約もして、次の日に船に乗るという日に俺達は高級料理店で夕食をとった。いつからかは分からないが、俺はレーナに異性として惹かれていた。だからこの店で、プロポーズをすると決めていた。店にコンタクトをとり、レーナの好きなケーキも用意してもらった。
「レーナ、笑顔な君が好きだ。そんな君と一緒に歩んで行きたい。だから、僕と結婚を前提に付き合ってほしい。」
レーナは一瞬呆然として、直後涙を流しながら言った。
「私もアインが好きです。こんな私で良ければお願いします。」
俺達は抱き合い、情熱的なキスを交わした。
次の日、俺達は船に乗るために港へ行くと、たくさんの人達が見送りに来てくれた。
俺達が恋人繋ぎをしているのを見て、
「やっと付き合ったか、バカップルめ。」
「二人とも、末永くお幸せにね〜。」
など祝福の言葉を頂いて、涙が出そうになったのは言うまでもないだろう。
「一緒に幸せになろうな。」
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十年後、とある村でその子は生まれた。
「あらあら、全然泣き止まないわ。」
とレーナが言う。
「ど、どうすればいいかな…レーナ。」
そわそわとアインが動き回る。
「アイン、息子の前よ。少しは落ち着いて。うーん、そうだ。名前を呼んであげましょう。なんていう名前がいいかしら。」
「それは、俺が考えてるぞ。」
「なんていう名前なの?」
「ライトだ。名前に込めた意味はな…。」
「へぇ、そうなの。元気な子に育って欲しいわね。」
「育つはずさ。なんたって、君と僕の子どもだからね。」
それから60年ほど経ちレーナは旅立っていった。
「レーナ…僕ももう少ししか、こっちにいられないと思う。ライトはまだまだ元気だよ。この前息子を二人と娘を二人連れて、遊びに来てくれたよ。」
レーナの祭壇から離れて、立ち上がると急に意識がブラックアウトする。
レーナが川の向こうで何かを言っていた。
(なんて言ってるんだい?)
声が聞こえず、何を言っているのか最初は理解できなかったが、目を見たら言いたいことが分かった。
再び意識が戻ると、布団で寝ていた。
ライトが顔を覗きこんでくる。
「父さん、気づいたんだね。今医者を呼んでくるよ。」
それに対して、ライトの服の裾を引っ張って、椅子に座るように促す。
「なぁライト。昔、なんで僕の名前はライトなのって聞いたことがあったよな。実は俺とレーナは生き別れの幼馴染だったんだ。再会するまでは生きる希望を無くして世界が白黒に見えたんだ。だけど再会してから、俺の世界に光が差し込んだんだ。それが理由の一つだな。もう一つは、息子は親の希望っていうだろう。つまり俺達の光だったんだよ、ライトは。そろそろ時間だな、そんな悲しい顔するなよ。」
泣きそうに顔を歪めているライトの頭を撫でる。
「泣きたい時は、泣いていいんだぞ。お前には妻がいるだろ。」
そう言うと、ライトは嗚咽を出しながら泣きじゃくる。
「これで最期だな。俺達のこと忘れないでくれよ。それじゃあ、俺達の息子の旅路に光あれ。」
その日、一つの魂が天に昇った。
「あらあらレーナ、愛しのアイン君が来ましたよ。」
「アイン!!また会えたね。」
「レーナ…今度は一緒にライトを見守ろうな。」
「そうね、今度こそ一緒よ。」
「アイン、幸せになれましたか?」
何十年も聞いていなかった声が再び聞こえる。
「母さん!!俺、みんなが死んでからは、復讐のことしか考えてなくて幸せに生きることが分からなかった。でも俺はレーナと出会えて良かった。」
「そうね…私もよ、アイン。」
「「俺(私)達は、幸せに生きられました。」」