プロローグ
私立 兼才学園
この学校には日本の全ての美男美女達が集まると言われるほど美人が多く、一時期顔で合否を決めているというデマまでもが流れるほどまでに集まっている。しかしながら、兼才学園は偏差値も高く、この学校に入る許可が降りた者は中学生の総人口の0.03%と言われている。この狭き門をくぐり抜けた者には、未来が約束されたようなものであり、ある人は、モデルとして現在まで広い場で活躍しており、ある人は、研究者として現在も日本のために研究を繰り返している。
そんな兼才学園の春休みに発生する、女子生徒たちの未来を決めかねる一大行事が終わりに差し掛かっていた。
「それでは皆様お待ちかね!ーー優勝者の発表です!!!」
私立兼才学園ミスコンテスㇳ、略して兼コン。このコンクールで優勝を勝ち取るには、礼儀作法、服装、テストの成績、顔ーーこの四つからなる厳重な審査に合格し、決勝戦に挑む事が許される。
決勝戦の審査員は大手事務所の社長、スカウトによって行われ、決勝戦に残る事を許された総勢六名の中から優勝者が選ばれる。
しかし、ここで優勝することが出来たのであれば、大手事務所に入社し、テレビで一躍人気者になることまでが確定されている、一学年最後の女達の熱い戦いの行事である。
そんな兼コンも終わりが近づいてきていた。
「第77代要コン優勝者は!ーー葵木陽菜ぁぁぁぁぁ!!」
葵木陽菜
【才色兼備】ーーこの四字熟語が一番似合う人であり、今年入学したばかりの一年であるが、全定期テストでは満点をもぎ取り、学年一位を死守した。それだけでなく、パリコレ優勝経験者を祖母に持ち、そんな祖母から受け継いだ青い目とフランス人らしい、美しい顔立ちーーそこへ、日本人の可愛らし顔の遺伝子が入ることにより、美しいと可愛いを併せ持つ絶世の美女へとなっていった。
「しかし、史上初の満票優勝ですがどのような気分でしょうか」
薄い茶色が入った長い黒髪を際立たせる、純白だけのドレスに身を包み、長く、細い指でマイクをしっかりと持ち、葵木は答える。
「そうですね……今は凄く気分というか、色々な感情が込み上げてきます」
少し泣きそうになりながらも、すんなりと耳に入る優しい声ではあるが、皆の心に響くはっきりとした声で、マイクに向かって喋る。
そうして、女性の激しい競い合いーーは幕を下ろした。
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そんな女性にとって激動な春休みも終わりを告げ、始業式を受けるべく皆、学校へと重い足取りで向かっていた。しかし、二年生だけは、兼コン優勝者の葵木陽菜と同じクラスになれる可能性があるという淡い期待を胸に、学校の門を潜る
「面倒いなぁ〜」
そんな言葉を口にしながらも、しっかりと時間に間に合うように校門を潜る一人の男が居た。川下晴弘には学校での二つ名が存在しており、別名【無能】ーー何かをどれだけ頑張っても、取れる成績は平均以下なため、こんな二つ名が出来た。そんな川下晴弘がクラス替えの結果を確認すべく、人波に揉まれながらも、張り出されているボードに目をやり、クラスを確認する。
「二組ーーか」
俺がそれを確認し終え、張り出されているボードを後にし、下駄箱に靴を入れようとしたとき、一人の男の悲鳴が皆の鼓膜を破る声量で辺り一帯に響き渡る。
「葵木さんと同じクラスじゃなかったぁぁぁぁ!!」
何でもなかったようだーーそれにしても、そんなに葵木さんと同じクラスが良いのだろうか?確かに整った顔立ちをしているが、俺としては観賞用として楽しむくらいで、付き合いたいなどの感情は全く湧いてこないのであるが。
そういえば、葵木さんがどこのクラスだったか見てなかったな。できることなら、別のクラスが良いなぁ。そっちの方がクラスも静かだろうし。
そんな事を考えながらも、三階にある自分のクラスーー二年二組を目指し、階段を上り、廊下を歩く。
「俺の席はどこかな?」
二組に到着した俺は、黒板に張り出されている席順を確認するーーうわぁ、一番前かよ。少し絶望感を感じながらも、切り替えて自分の席に腰を下ろし、カバンに入れていた読んでいる途中の本を取り出し、めくり始める。
本を読み始めて二十分程が経過したーー久しぶりの友達との再開ということで、すでにクラスは騒騒しくなってきていた。因みに俺は唯一の友達とは別れてしまったーーボッチは悲しい。
そんな誰にしているか分からない説明をし終え、本に目線を下ろそうとしたとき、女性の歓喜の声がクラスを包み、一斉に葵木さんは皆に囲まれてしまった。そして、最初に近づくことに失敗した人達は、遠巻きに尊敬や敬愛の眼差しを送っている。
「マジ、かよ」
またもや軽い絶望感を感じてしまった。
皆が葵木さんに好意的な目線を送っていたがーー俺だけはそんな目線を送れなかった。自分達のクラスが今年別のクラスの連中であふれかえる事が決定してしまったからである。『そんなに近くで見たいか!』という俺の軽い嫌味は自分の心の中に塞ぎ込んでおく
そんな人気の頂点に君臨した女性は皆を引き連れ、自分の席に座るーー俺の隣だった。マジかよ! 本日何度目か分からない絶望感をまた、感じてしまう。
休み時間のたびにこの声量を隣で聞かないといけないのかーーこの声量ではボッチお得意寝たふりすらも、使えなくなってしまった。
というか、背中に刺さる男達の目線が痛いーー『どうしてあんな奴が葵木さんの隣なんだ!』という嫉妬や妬みなどの視線だらけでいい気分がしない。俺だってこんな席を今すぐ手放したいわ! というか、最初は出席番号順だからしょうがなくね?
体感では、一時間にも感じるほど長い時間されていた葵木さんとその周りを囲んでいる人たちの会話は、先生がやって来ることで一旦御開となったーーなんとか助かった〜。
「挨拶が遅くなってごめんなさいーーおはよう」
これが皆を虜にした笑顔ーー確かに可愛いが、そんなに熱狂するほどなのか分かる気がしない。っと、挨拶をされたら返さないと。
「おはよう」
少しビックリしたような表情を浮かべた葵木さんは、玩具を見つけた子供のような顔を浮かべているように俺の目に映ったが、その表情はすぐに、葵木さんの内側に隠れていった。
「これからよろしく」
そこには別の意味があるような気がしたけど、しかし、青木さんが考えている別の意味に、今の俺は気づけず、そのまま返してしまった。
「あぁ、よろしく」
手が突き出され、つい握ってしまいそうになるが、これを握ったら男子陣からの視線で殺されてしまうかもしれない。というか、実際今も『お前を殺す!』という熱い視線で一杯である。