008
それでも言われるままに三人同時にログアウトして良いのか思案しているとサクラが言葉を発した。
「ユリとナデシコで先にログアウトしてくれていいわ。……私は弟と大事な話をするから」
ここで突然に『弟』と言われたことにカナメは少しだけ嫌な顔をした。カナメはサクラのことを『姉』と認識したことは一度もないが家族として扱われてしまう。
「うん。それなら」
二人はサクラの申し出に従うことにした。
サクラも自分たちが戻ってくることを疑っていないことを嬉しく感じており、もちろん裏切るようなことも絶対にしない。
ユリとナデシコが立ち去った後、気まずい雰囲気で二人きりにされてしまった。
カナメとしては二人になりたくなかったこともあるので三人同時にログアウトすることを提案したのだが期待通りには動いてくれない。
「あなたの意志でゲームに参加していると考えて問題ないのね?」
「はい」
「……あなたも何か思うところがあるのなら、私は司を誘ったことを後悔しないわよ?」
「それで構いません」
ここで『司』と呼ばれたのはカナメの現実世界での名前になる。
「それよりも桜子さんは俺の『姉』ではないです。俺は家族として認識されるのは困ります」
「どうして?」
「……そのことは何度も説明しました」
「父もあなたを家族として迎え入れたのだから、私にとって司は『弟』です」
絶対に譲らない姿勢はゲームの中であっても変わらなかった。また無駄な問答を繰り返すだけになりそうなのでカナメは話をゲームに戻すことにした。
「……今回のことは現実でも公表さるんですよね?」
「ええ。たぶん今頃は大騒ぎになっていると思うわ」
「俺のように発表時間にログインしていなかったプレイヤーは迷っているかもしれません」
「あなたはログインする前に発表内容を知っても迷いなく戻って来れたの?」
「もちろんです」
ユリとナデシコがログアウトする前に用意してくれた飲み物をカナメは口にした。仮想世界で作られた物だが確りとコーヒーのような味を感じることが出来る。
「すごいですよね、ちゃんと美味しい」
「そうね」
突然にカナメが飲み物の話を始めたのでサクラも同じようにカップを手に取っていた。
「人も建物もゲームの中とは思えないほどにリアルです」
「みんな感動していたわ。こんな世界を体験出来たのは遊佐創一朗のおかげだって、興奮してた」
「天才、遊佐創一朗か」