007
カナメ自身も言っていた通り、この仮想世界にログインしている状態はゲームをプレイしていると同時に命の危険にさらされることになる。そして、仲間を再びログインさせるための人質でもある。
実際のデスゲーム開始は明日からになるが、それでもログアウトしたまま戻って来ない可能性を考えれば『自分が残る』とは言えない。発表後に他のパーティーがログアウトする順番で揉めている状況を三人も見ていた。
「……それじゃあ、誰からログアウトする?」
ユリが二人に聞いた。もちろんカナメだけを残してログアウトするなど出来ない。
「順番なんて決めなくても俺が残っていればログアウト出来るんですから、三人で行ってください」
「えっ?……でも」
「大丈夫です。……『皆さんを信用してます』とか変なプレッシャーもかけませんし、思うままに行動してください」
サクラが真剣な表情になり、カナメの目を見て質問する。
「まさか、また自分が生きてても意味がないなんて言わないわよね?」
「……それも、もう言いません。ただ、この仮想空間を誰か分からないヤツの願う世界にしたくないだけです」
「どういうこと?」
「俺はゲームって楽しい物だって思ってます」
「そうね」
「でも、今は違う。違う世界に上書きされている。……上書きしたヤツはプレイヤーたちが苦悩する姿を見たいだけだと思うんです」
「……現に、そうなっていると思うわ」
「俺が『そう』はさせない」
この時点でサクラはカナメが自分の知らない何かによって言葉を発していると感じ始めていた。それでもゲームに全く関心を示していなかったカナメが見せる突然の変化にサクラの理解が追い付いていなかった。
「……何か知っているの?」
「まだ何も知りませんよ。……まだ何も知らないんです」
「まだ?」
「はい。まだ、です。俺は、これから起こることを知りたいと思ってます。だから、出来れば皆さんには再びログインして欲しいとも思ってます」
「でも、強制はしないのよね?」
「俺が皆さんを信用せずに強制している姿は、上書きしたヤツの願うものになる気がするんです。だから、俺は純粋にゲームを楽しみたい」
ゲーム攻略を考えて行動すれば戦闘で死ぬかもしれない。戦闘しなければゲームを攻略出来ずに三ヶ月後に死ぬかもしれない。仲間がストレスに耐え切れず裏切って仮想世界に戻らなければ死ぬかもしれない。
そんな中でカナメはゲームを楽しみたいと言った。




