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「……なかなか意地の悪い設定ですね」
発表内容を簡単に読んだカナメの感想は他の三人からすると拍子抜けのものだった。発表直後、プレイヤーたちが混乱して街中で喧嘩に近い論争があったことを目にしていた三人からするとカナメの反応は薄すぎる。
「一応、ログアウトは出来るみたいですけど?」
「えっ!?……ええ、でも、パーティーの誰か一人はログアウト出来ない状態になるらしいわ」
「人質、ですね。益々意地が悪い。だから、アップロードしたゲームを楽しむには二名以上でのパーティーを組んでいることが条件ってなっていたんだ」
「そうなの。絶対にパーティーの誰かはログインしたままになるけど、全員が揃っていない場合は参加を認められなくなるわ」
「犠牲者が出るんですね?」
「そう。……そうとも知らずに、あなたを強引に誘い込んだことを後悔している」
サクラの謝罪の理由はそこにあった。
当初、カナメは仮想空間を体験するだけでアップロードしたゲームに参加する意思はなかった。あくまでもフルダイブを実感することだけを目的にしていた。
「……でも、発表内容を知らされたみんなは懐疑的だったよ」
それまで黙っていたユリが発言する。
「うん。いくら技術が進歩したとは言っても、本当に人の命まで奪うことなんてゲームには無理って話だった」
ユリに続いてナデシコも応えた。
おそらくは参加者の大半が同じように『ゲームで命を落とすことなどない』と考えていたのだろう。それは当然のことであり、自分の命を危険に晒してまでゲームに興じる者は限られる。
「ナデシコさん、手を出してもらえますか?」
「えっ?」
「右手を前に伸ばして俺と握手してください」
困惑の表情を見せながらもナデシコはカナメに言われるままに右手を突き出して握手をした。
「……手を握られている感覚、ありますか?」
「ええ、もちろん」
「お互いに触れ合っている感覚があるし、俺は先日ナデシコさんが作ってくれた料理を美味しいと感じながら食べました」
「……うん」
「すごい技術だと思いませんか?」
「思うわ」
ナデシコはサクラやユリの顔を見たが、二人もカナメが言いたいことの真意が分かっていない。
「これだけの技術が生み出せるのなら、ゲームで人の命を奪う技術も生み出せるかもしれない。そう考えるのは自然なことのように俺は思うんです」